実の父に隣国へ死にに行けと言われた王女は、隣国の王に溺愛される。

曼珠沙華

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サファイア国は魔の国。
これはエメラルド国内だけの偏見ではなく、周辺諸国も同じような印象を抱いていた。

サファイア国では多くの魔物が出るからだとか、魔物のように恐ろしく高い軍事力を有しているからだとか、そもそもサファイア国の人々が魔物だからだとか、いろいろ逸話はある。

しかし、数多の国がサファイア国を毛嫌いする中で友好的な関係を築きたいという酔狂な国が現れた。
それが一昔前のエメラルド国であり、当時の国王ラファエルだった。
のちのオリビアの祖父となる人物である。







「ラファエル王は俺たちサファイア国に対して嫌悪も恐怖も見せずに、ただ仲良くなりたいって言ってくれたんだよ。俺の父である当時のサファイア国王はこれに感激しちゃってね、すぐ対等な交流を始めたんだ」

ロゼ様が話してくださるサファイア国とエメラルド国の歴史は私が全く知らないものだった。

そして街の子供が言っていた「怖くないの?」の意味がようやく分かった。

「どうしてサファイア国は魔の国と呼ばれているのですか」

私の問いにロゼ様は視線を斜め下へ向け、気まずそうな表情を見せた。

軽率な言葉だったと反省した。
きっとこれはサファイア国にとって繊細な部分なのだ。

「申し訳ありません。軽率でした」

「いや、オリビアは将来この国の王妃になるんだから知っておかなきゃいけないんだけど・・・・・・まだ俺に勇気がなくて」

「勇気、ですか」

「うん・・・・・・」

ロゼ様を困らせてしまうから、これ以上この話をするのはやめよう。
本当はお母さんのことや昔のことをもっとよく聞きたかったけれど。

何か、別の話題を考えなきゃ。

話題を探すために、辺りを見渡した。

「あの、この部屋は……」

以前の部屋に比べてベッドの天蓋や壁紙のデザインがどこか女性らしさをより感じさせる気がする。

そして部屋の広さが前の部屋よりも明らかに広い。

ロゼ様は話題が変わったことにどこかほっとしたような様子を見せ、すぐに説明してくれた。

「今日からここがオリビアの部屋だよ。もともと前の部屋は仮住まい用で用意していたものだから、ここがオリビアの本当の部屋」

以前の部屋も私からしてみれば十分豪華だったのに、この部屋はそれをはるかに上回っていた。

「このようなお部屋、私にはもったいなさすぎます」

「どうして?オリビアは俺の未来の花嫁でしょ?」

確かに今は一応そうなっているが、それとこの部屋に一体なんの関係が……。

「ここは代々サファイア国の王妃が住むクリスタルの間だよ」

唖然としてしまった。

サファイア国王妃。
それはとても高貴な存在で。
もちろんロゼ様の花嫁ってことは将来そういう存在になるということだけど。

クリスタルの間。
畏れ多すぎる……。

「オリビアにぴったりの部屋だよねぇ」

無邪気な笑顔を見せるロゼ様が眩しい。

私には似つかわしくない部屋。
王妃様の部屋と聞いて萎縮してしまいそう。

けれど、正直ほっとしていた。

目を覚ました時、あの部屋じゃなかったこと。
アリスがいなかったこと。
そして、ロゼ様が傍にいてくれたこと。

ロゼ様から頂いたあの部屋はとても気に入っていたけれど、今は馴染みがない王妃様の部屋がとても安心できた。

ここでふと疑問が浮かぶ。

どうして最初からクリスタルの間ではなく、わざわざあの部屋に?
クリスタルの間に私がふさわしくないのは分かっているけれど、ロゼ様がそういう理由でかつての部屋に私を置いておいたとは思えない。

「何故ロゼ様は以前の部屋をご用意してくださったのですか?」

後々、部屋を移動する多くの手間がかかると分かっていて何故一旦あの部屋を用意してくださったのか。

ロゼ様は少しバツが悪そうな顔をした。

あ、また聞いてはいけないことだったかな。

「だって……」

小さな声だったが、頬を掻きながらロゼ様は気まずそうな顔で言った。

「ここ、王宮から離れてるから……婚姻する前くらいいつでも会いたいし……」

「それは・・・・・・」

どういう意味なのか。
そう思う前にロゼ様が何を言いたいのか分かってしまった。

かぁっと顔に熱が集まる。
きっと私の顔は真っ赤になっている。

私の顔を見て、ロゼ様も照れたように笑った。

「場所は離れちゃったけど、俺が会いにくるから」

きっと私が心細い思いをしないように。
寂しくないように。

どうして。
これは口に出してもいい疑問だろうか。
ロゼ様を困らせないだろうか。

「あの、どうしてここまで親切にしてくださるのですか」

今度は間を空けず、答えてくださった。

「そんなのオリビアを愛してるからに決まってるじゃん」

当然のことのように言われる。

あぁ、その言葉が真実なら私は・・・・・・。

「じゃあ俺は仕事に戻るから。またね」

「はい」

名残惜しげに手を離す。

去り際に額に優しいキスを受けた。

ロゼ様が扉の向こうに消えるまで私はその姿を見つめた。

また、救われた。
ロゼ様は何も言わなかったが、きっと私をアリスの手が届かない場所へ連れてきてくださったのだ。

この国で幸せを与えられ、その上アリスからも救ってくれた。

それなのに、私にはロゼ様へ返せるものが何もない。
それどころか、ロゼ様の花嫁にはふさわしくない醜さを持っている。

アリスの美しさが羨ましい。
将来本当にロゼ様の花嫁になる人が羨ましい。

ロゼ様にはふさわしい人がいるから身を引く?
素敵な人と結ばれて欲しいから諦める?

そんなの綺麗事だ。

私は、ただロゼ様に嫌われたくないのだ。
失望されたくない。




愛されたままでいたい。




ロゼ様の「愛してる」が真実なら、私は愛されたまま死にたいと思った。
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