お願いです、私を悪役令嬢にしないでください。じゃないと……国が滅びますよ。

曼珠沙華

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「アイシラ!お願い!目を覚まして!お願いよ!アイシラ!!」

お母様の声がすぐ近くで聞こえ、ゆっくりと目を開けた。

「お……かあ……さま」

目の前にお母様の泣き顔があった。

あれは……夢?

深く息を吸い、肺が空になるまで吐き出した。

よかった。
湖に落ちたのも、あの男の人も全部夢だったんだ。

いつの間にかお昼寝しちゃったのかな……。

でも、どうして泣いているの?
お母様。

「アイシラ!!よかった!!」

なかなか起き上がれないでいる私をお母様は強く抱き締めた。

苦しいよ。

身体がだるい。
腕を上げることができない。

寝過ぎたのかな……。

あれ、ここ外?

視線だけを動かして周りを見る。
自分の部屋で寝ていたと思ったが、何故かここは外で……。

嫌な予感がする。
動こうとしない身体を無理やり動かす。

「あ、駄目よ!安静にしてなくちゃ!」

安静に?
どうして?
私はただお昼寝をしていただけでしょう?

そうに決まっている。

祈るように自分の身体を見た。

「っ!」

私の身体はびしょ濡れだった。

そして視界の端にちらつく光を見る。
そこには大好きでたまらなかった湖がキラキラと輝いていた。


アイシラは叫び声をあげた。





気を失い、次に目を覚ました時、おじい様が話してくださった。

「アイシラ、それはきっと精霊の王様だよ」

「精霊の王様?」

「そう。精霊王はこの世の自然全てを司るお方だ。小人たちがその方を王様と呼んでいたんだろう?」

「うん」

「アイシラは精霊王に愛されてしまったのかもしれない。湖で溺れた時に夢か幻を見ただけかもしれないけど、一応神官様に見てもらおうね」

「うん……」

全部夢であってほしかった。
精霊王なんて自分が作り出した存在だって。



数日後、神殿より神官様が来てくださった。

彼らは神の声を聞き、時には精霊の力を借りて、この国の繁栄を助けている貴重な存在だった。

本来ならこちらから出向くべきところだが、体調がすぐれない私のためにお父様が神官様に頼み、はるばる祖父母の家まで来てくれたのだった。

「アイシラ、神官様がお見えになったよ」

ベッドから身体を起こすと同時に扉が開いた。
両親と祖父母、そして神官様が姿を現し、両親と祖父母はすぐに部屋の中へ入ってくる。
だが、何故か神官様だけは部屋へ入ってこようとはしない。

「あの……神官様?どうぞお入りください」

お父様が首を傾げ、部屋へ促す。
すると神官様はすっと制するように手を挙げ、困ったように眉根を下げた。

「いえ、私はここまでで。これ以上は中に入ることができません。お許しください」

「それはどういう……」

神官様は私の方を見て、優しく微笑んだ。

「お初にお目にかかります、アイシラ嬢。クレイと申します」

銀色の髪と瞳、透き通るような白い肌。
男性なのか女性なのか、中性的な綺麗な顔立ちの方だった。

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