お願いです、私を悪役令嬢にしないでください。じゃないと……国が滅びますよ。

曼珠沙華

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それから、ひと月ともたなかった。

精霊王相手に戦争が起きることもなく、この国の王の政権は崩れた。

精霊王が手を下すまでもなかった。

貴族や大臣、さらに国民が現陛下の失墜を望み、立ち上がったのだ。
さらには精霊王の加護を求め、この国の新たな王として受け入れた。

人間はつくづく弱い生き物だなと玉座に座り、精霊王は思った。

アイシラが孤独だったのも、この国が飢饉に陥ったのも全ては自分が原因なのに、人間は救いをもたらす存在に心底弱い。

そんなに期待されちゃったら、ちゃんと応えないとねぇ。
精霊王としてずっと退屈してたけど、これからは好きな子と一緒にせわしない毎日を送れるかな。

王の間の扉が重々しく開く。
数名の侍女とともに現れたその姿に精霊王は目を細める。

「サクヤ」

名を呼ばれ、その子に微笑む。

名を呼ぶことを許した唯一の存在。
傷つけ、不幸にしてでも、どうしても欲しかった愛しい子。

純白のドレスに身を包んだ彼女はとても美しく、可愛い。

「アイシラ、綺麗だよ」

そう言うと彼女は顔を赤らめ、照れたように笑った。

アイシラへの愛は歪んでいる。
その自覚もある。


でも、俺にはそれ以上に幸せにする力がある。


アイシラが玉座に近付くと精霊王は立ち上がり、その頬に手を添え、触れるだけのキスをした。

「今日はお客様を招待したよ」

「お客様?」

近くにいた側近に通すよう伝える。

しばらくして二人の男女が王の間へ入ってくる。
その姿にアイシラは目を見開いた。

「お父様!お母様!」

精霊王の手から離れ、アイシラは両親の元へ駆け寄った。

「どうしてここへ……」

涙をこらえながら両親へ問う。
母親は既に泣き出していた。

「精霊王がアイシラの傍にいることを許してくださったんだよ」

父親も目に涙を溜めながら、答える。

「サクヤが……」

精霊王を振り返る。

「新婚生活に両親がいた方がお嫁さんは安心するっていうしねぇ」

肩を竦めてみせると、こらえきれなくなったアイシラはぼろぼろと泣き出してしまった。

「君はもう俺の花嫁になり、精霊になった。永遠の命も手に入れている。でも君の両親が生きている間は人間ごっこを続けたらいい。もちろん俺と一緒にね」

アイシラは溢れる想いを精霊王に伝え、両親と抱き締め合った。

もう取り戻せないと思っていた両親からの愛。
それは失われていなかった。
てっきり奪われていたと思っていたのに……。







それは、一体誰から?






アイシラはそれが誰なのかもう思い出せなかった。
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