美しき怪人は少年少女探偵団を眠らせてくれない

white love it

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第2章

3.

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「このノアリンっていうのが、乃愛なんだよね?」
「うん」

 乃愛自身はほとんど発言はしていなかった。もしこれで、乃愛が自分で自分のことを可愛いなどと書き込んでいたらどんな顔をしていいか分からないところだった。智也が見ると、誠と亜紀も内心ホッとしている様子だった。
 書き込みのほとんどは、乃愛の出演情報や演技の評価、作品の感想だった。ただし違うものもあった。

「で、こいつが噂のアンチ兼ストーカー野郎か」

 そう言って誠は画面を指さした。
 ハンドルネームはブタ男。
 部屋が作られた当初からのメンバーだが、確かに発言内容はただのアンチを通り越して、乃愛の私生活を覗き見ているようなものまで見られた。

「『今日は乃愛のやつは運動会かな? もっとも運動神経が良くないからな。ドラマでもアクションはやらないし』か。書き込まれたのはまさにこの間、運動会があった日だな」
「それだけじゃないのよ」

 乃愛は画面をスクロールさせた。

「ここ。まさに昨日、私が家庭科の調理実習で鍋を床にぶち撒けた日なんだけど……」
「あったわね、そんなこと」
「え~と、なになに? 『料理もまともにつくれないようじゃ将来まともな結婚は無理だな(笑)』か」

 さすがに他のメンバーが訝しがったのか、どういうことなのか?と質問の書き込みをしていた。もっともブタ男はまともに答えていなかったが。
 ブタ男は他にも、乃愛の私生活を覗き見しているとも取れるような書き込みをしており、他のメンバー達からは敬遠されている様子だった。

「これ、お母さんやマネージャーさんに相談したほうがいいんじゃないの?」
「あのね、智也君。そういう簡単なことじゃないの」
「どういうこと?」
「あんまり大事にしたくないの。こういうのって、何故か被害者の方が責められてりするから……」
「確かにね」

 亜紀がうんうんと頷いている。

「日本ってこういう時、被害者の女性を攻める風潮があるのよね。女性差別もいいところだわ」
「ジェンダーギャップ解消についてはあとで話し合うとして、とりあえず今はどうするか決めようぜ」

 誠の発言に亜紀は何か言いたそうにしていたが、とりあえず今は誠のほうが正しい。智也は乃愛に聞いた。

「うちの学校は裏サイトを禁止してたけど、ひょっとしたら秘密裏に、そういうサイトや掲示板が運営されているっていうことはないかな?」

 乃愛は首を振った。

「私も色々調べたのよ。でもそういうサイトはないし、掲示板にも当たり障りない書き込みばかりよ。SNSでもプライベートに関する投稿は見当たらないわ」
「前に言ってたアイドルの子は? 乃愛に嫌がらせしてくる子」
「ああ、工藤美里さんね」

 乃愛はため息をついた。
 工藤美里は乃愛と同年代のアイドルで、映画でも乃愛と共演している。客観的に観て、扱いや知名度は乃愛より上だと思うのだが、やたら乃愛を嫌っているとのことだった。乃愛から聞いた話では、監督やスタッフに乃愛の悪口を吹き込んだり、乃愛だけ仲間はずれにして共演者とご飯に行ったりと、なかなか陰湿なことをしてくるらしい。
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