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第2章
8.
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マンドリル公園は、森林区画や池の区画など様々な自然模様から成っている。
智也達はジョギング用の区画に移動した。ここは小高い丘を囲んで周回1kmのジョギングコースが整備されている。丘の上は基本的に開けており、ジョギングコースからはどこでも見渡せる。一方で丘の上に設置されたログハウスは、外からの視界を完全に遮っている。
乃愛が丘の上を歩いてブタ男を誘い出す間、誠はログハウスに潜み、智也と亜紀はジョギングコースを見回ることとなった。
「実際にブタ男がきたら、その場で問い詰める? それともうまく乃愛がやり過ごしたあとで、あとをつける?」
「相手にもよるが……」
誠が乃愛を見て言った。
「うまくログハウスに誘導できないか? あとは俺が聞き出す。もちろん何か危ない気配があったらすぐに飛び出す」
「ありがとう」
なぜか黙っていられず、智也が口を挟んだ。
「誰かが、つまり無関係の誰かがログハウスに来たらどうするの?」
「そこは運任せだな。すべてが計算通りにはいかないさ。智也と亜紀は状況を見て、臨機応変に動いてくれ」
智也と亜紀はちょうど対角線になるように、ジョギングコースを歩き出した。アマチュアランナー達がどんどん抜いていく中、智也は丘の上の乃愛を見ていた。
抜けるような肌の白さに、小さくまとまった顔。確かに美少女なのだろうが、智也からすると今はまだ、登下校やたまの映画やショッピング、探検をともにする友人四人組の一人だった。
12歳にして、国内のみならずアジア大陸にもファンがいるという。お金も稼いでいるし、交友関係も並の小学生とは比べ物にならないほど広い。実際、乃愛の紹介である有名な女優に会ったこともある。いつまで友達でいられるのか、智也には少し心許なかった。
だが、そんな冷めた感情はすぐに打ち破られた。
午前10時30分、突然、一人の男が乃愛に近づくのが見えたのだ。
その顔は間違いなくブタ男だった。ヨレヨレのトレーナーの上下を着込んでいる。
遠目に乃愛がお愛想笑いをしているのが、よく分かる。
ブタ男の手が乃愛の肩に触れそうになった時、乃愛は弾かれたように飛んで、ログハウスへと向かった。
ブタ男が照れたような引きつった笑いを浮かべながらそのあとを追うのを見て、智也は全身に震えが走るのを感じた。すぐにジョギングコースを外れ、一気に丘を駆け上がる。
ちょうど反対側から亜紀も駆け上がってきたところだった。二人で息をきらしながらログハウスの扉を開けると、背中に乃愛を隠した誠がちょうどブタ男と向かい合っているところだった。
「お、来たか。二人とも。悪いがドアを閉めてくれ」
誠が手を上げながら、朗らかな笑顔でそう言った。
「あ、何だ? こいつら」
「おいおいおい、おっさん。今、用があるのは俺なんだ。こっち向けよ」
まるでクラスの喧嘩を仲裁するかのような言い方だった。そのいつもと変わらない話し方は、智也や亜紀の心を落ち着かせるのに十分だった。
「何だと? おい、ガキ。俺はな、乃愛ちゃんに用があるんだよ。お前ら、いい加減にしないと警察や学校に電話してやろうか? 乃愛ちゃんの事務所にも言っちゃうよ? 困るよね? 俺とちょっ」
ブタ男が、それ以上続けることはなかった。
音もなく誠の蹴り上げた足の先が、ブタ男の股間に突き刺さったのだ。誠の上半身は少しも揺れず、足だけがまるで宙に浮いたかのような動きだった。
「おおぉっ」
声にならない声を出し崩れ落ちるブタ男。
だが、ブタ男が膝をついた直後、誠の掌底がブタ男の顎を完璧にかちあげたので、ブタ男はゴロンと横向きに転がっていった。
智也達はジョギング用の区画に移動した。ここは小高い丘を囲んで周回1kmのジョギングコースが整備されている。丘の上は基本的に開けており、ジョギングコースからはどこでも見渡せる。一方で丘の上に設置されたログハウスは、外からの視界を完全に遮っている。
乃愛が丘の上を歩いてブタ男を誘い出す間、誠はログハウスに潜み、智也と亜紀はジョギングコースを見回ることとなった。
「実際にブタ男がきたら、その場で問い詰める? それともうまく乃愛がやり過ごしたあとで、あとをつける?」
「相手にもよるが……」
誠が乃愛を見て言った。
「うまくログハウスに誘導できないか? あとは俺が聞き出す。もちろん何か危ない気配があったらすぐに飛び出す」
「ありがとう」
なぜか黙っていられず、智也が口を挟んだ。
「誰かが、つまり無関係の誰かがログハウスに来たらどうするの?」
「そこは運任せだな。すべてが計算通りにはいかないさ。智也と亜紀は状況を見て、臨機応変に動いてくれ」
智也と亜紀はちょうど対角線になるように、ジョギングコースを歩き出した。アマチュアランナー達がどんどん抜いていく中、智也は丘の上の乃愛を見ていた。
抜けるような肌の白さに、小さくまとまった顔。確かに美少女なのだろうが、智也からすると今はまだ、登下校やたまの映画やショッピング、探検をともにする友人四人組の一人だった。
12歳にして、国内のみならずアジア大陸にもファンがいるという。お金も稼いでいるし、交友関係も並の小学生とは比べ物にならないほど広い。実際、乃愛の紹介である有名な女優に会ったこともある。いつまで友達でいられるのか、智也には少し心許なかった。
だが、そんな冷めた感情はすぐに打ち破られた。
午前10時30分、突然、一人の男が乃愛に近づくのが見えたのだ。
その顔は間違いなくブタ男だった。ヨレヨレのトレーナーの上下を着込んでいる。
遠目に乃愛がお愛想笑いをしているのが、よく分かる。
ブタ男の手が乃愛の肩に触れそうになった時、乃愛は弾かれたように飛んで、ログハウスへと向かった。
ブタ男が照れたような引きつった笑いを浮かべながらそのあとを追うのを見て、智也は全身に震えが走るのを感じた。すぐにジョギングコースを外れ、一気に丘を駆け上がる。
ちょうど反対側から亜紀も駆け上がってきたところだった。二人で息をきらしながらログハウスの扉を開けると、背中に乃愛を隠した誠がちょうどブタ男と向かい合っているところだった。
「お、来たか。二人とも。悪いがドアを閉めてくれ」
誠が手を上げながら、朗らかな笑顔でそう言った。
「あ、何だ? こいつら」
「おいおいおい、おっさん。今、用があるのは俺なんだ。こっち向けよ」
まるでクラスの喧嘩を仲裁するかのような言い方だった。そのいつもと変わらない話し方は、智也や亜紀の心を落ち着かせるのに十分だった。
「何だと? おい、ガキ。俺はな、乃愛ちゃんに用があるんだよ。お前ら、いい加減にしないと警察や学校に電話してやろうか? 乃愛ちゃんの事務所にも言っちゃうよ? 困るよね? 俺とちょっ」
ブタ男が、それ以上続けることはなかった。
音もなく誠の蹴り上げた足の先が、ブタ男の股間に突き刺さったのだ。誠の上半身は少しも揺れず、足だけがまるで宙に浮いたかのような動きだった。
「おおぉっ」
声にならない声を出し崩れ落ちるブタ男。
だが、ブタ男が膝をついた直後、誠の掌底がブタ男の顎を完璧にかちあげたので、ブタ男はゴロンと横向きに転がっていった。
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