美しき怪人は少年少女探偵団を眠らせてくれない

white love it

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第2章

10.

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 ブタ男の住むアパートは公園から歩いてすぐとのことだった。智也と誠は並んで歩き、前をブタ男に歩かせた。
 ブタ男の本名は辻村猛という。今はフリーターとのことだったが、この三ヶ月求職中というから実質無職ということだろう。
 すでに免許証は返しているし、智也達と乃愛の関係も簡単に説明している。

「辻村さん、あんた、仕事もしないでどうやって食べてるんだよ?」

 誠があきれた口調で聞く。

「いろいろだよ。貯金崩したり、パチンコで稼いだり、ネットで売ったりさ」
「ふーん」

 相手が小学生だからなのか、股間の痛みが収まってきたからなのか、辻村の口調はかなりフランクなものになってきた。
 辻村のアパートは比較的新しい造りだった。アパートの前には大きめの四駆が一台停めてある。

「いいだろ? 去年買ったんだぜ」

 わざわざ振り返って言う辻村に、智也と誠は呆れた視線を返す。

「言っとくけどな。俺は本当に盗聴もハッキングもしてないぜ。本当にテレパシーなんだよ」
「分かった、分かった。分かったから、早く部屋に入れろ」

 辻村の部屋は本人の外見同様、爽やかさの中にものある、オシャレな模様だった。

「パソコンはそれだな」

 誠がパソコンを立ち上げ、中をチェックする。フォルダー、ネットの閲覧履歴、メール、全てを。だが不思議なほど、乃愛のプライベートに関する情報はなかった。乃愛の画像を保存したフォルダはあったが、それらは全てネットから拾ってきたものだった。

「乃愛や事務所のメールとか、ハッキングしてるかと思ったんだが……」
「データはUSBとかに保存してるのかな?」
「いや、智也。そもそもこのスペックのパソコンじゃ、ハッキングなんて無理だ」
「やっぱり盗聴とかかな」
「それも考えたけど、ここから乃愛の家まで距離がありすぎるんだよな。普通にマイクやカメラを隠しただけじゃ、直接映像や音声を受信するのは無理だし、もし電波の中継基地を持つとしたら、相当大掛かりだぜ」
「乃愛の家の近所まで来て、映像や音声の電波を拾ってたんじゃない?」
「乃愛の家の近所ってことは、俺達の家の近所でもある。智也、お前、こいつの顔見たことあるか?」
「……ううん。ない」

 平気な顔で辻村が割り込んできた。

「だからさ、頭の中に情報が飛び込んでくるのよ。乃愛ちゃんの学校での出来事とかさ」
「ひとつ聞きたいんだけど、辻村さんて乃愛のファンなの? アンチなの?」

 きょとんとする辻村を尻目に、智也の問いに答えたのは誠だった。

「あのな、わざわざ言わなかったけど、ファンとアンチは表裏一体なんだよ。愛の反対は嫌いじゃなくて、無関心っていうだろ?」

 誠の言葉に辻村が大きく頷く。

「そう、そう。そうなんだよ。俺さ、チャットじゃけっこう手厳しいコメントもしてたけど、本当は乃愛ちゃんのことが好きなの。応援してるの。だからさ、そこんとこは乃愛ちゃんにもよく言っといてよ」
「だったら、普通に応援だけしとけよな」
「俺もそう思ったよ、最初は。でも乃愛ちゃん、公式のSNSもやってないし、バラエティ番組にも出ないしさ、イライラしちゃって……」

 そう言うと辻村は、部屋に唯一ある戸棚からを出してきた。

「そんな時、すごい美人が突然訪ねてきてさ。いや、それがすごい美人なのよ。化粧もほとんどしてないのに、すごい肌がキレイでさ」

 智也も誠も黙っていた。
 発する言葉がなかった。

「これを使えば、感覚や思考、記憶の共有ができるって言うんだよね。知りたいことを念じるだけで、情報が頭に入ってくるんだ」

 辻村が持っているのは、高さ50cmほどの金属製のミニチュアの電波塔だった。
 智也も誠も、それには見覚えがあった。
 忘れるはずもない。
 一年前、ネイレが見せたミニチュアの人間達が住むジオラマの街。その中心にあった電波塔と全く同じものだったのだ。
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