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第3章
2.
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すでに辺りは暗くなっていた。別荘地にはコテージが十棟ほどあったが、保養期ではないせいか、管理棟も含めて明かりのついている建物は一つもなかった。
「なかなか素敵なコテージじゃない」
車から降りた亜紀がそう言った。
確かに二階建ての丸太造りのコテージは、ランプがドアの前に飾られていたりお洒落な飾り窓だったりと、高級感あふれるデザインだった。おまけに木の上質な香りが漂ってきていた。
カギは誠がいつも身につけているとの事で、さっさとドアを開けると買ったものを中に運び入れていた。
「さてと、軽い夕食をとりながら、作戦会議といきますか」
誠は、広く品の良いダイニングキッチンのテーブルに買ってきた袋の中身を広げた。淡い明りが部屋を照らしておりさらには空調システムが静かに起動しているため、コンビニのレトルト食品を前にしていても、さながらホテルの一室のような雰囲気だった。
「ただ買ったお惣菜を出すだけじゃ味気ないし、ちょっとアレンジさせて」
乃愛はそう言うと、亜紀を誘って最新型のシステムキッチンの前に立った。
「二人とも料理できるんだね?」
「あれ? 前に家庭科の実習で失敗してなかったか?」
智也と誠の心配そうな顔をよそに、美少女二人組は楽しくお喋りをしながら切ったり、よそったりしている。
「「お待たせ」」
15分ほどで、二人が出来上がった料理をテーブルの上に並べ始めた。
料理といってもほとんどは出来合いの品だったが、よく見ると微妙に一手間くわえられている。
例えばミートスパゲッティには煮込んだトマトが入っていたり、サラダにはツナが和えてあったり、という具合だ。
「うん、美味い」
「美味しいね。ありがとう」
智也と誠の屈託のない感想に、乃愛と亜紀は顔を見合わせて笑顔になる。
「二人とも結構上手なんだね」
「料理ってほどじゃないけどね。パパもママも仕事で忙しい時とかは、弟に軽くつくってあげるかな」
「うちも。お母さんが仕事で帰ってないことあるし」
亜紀の両親が共働きで忙しいことは知っていた。特に母親はかなりやり手ビジネスウーマンで、仕事で海外に行くことも、その際には亜紀が四歳下の弟の世話をしてることも。
ただ乃愛の母親の仕事がそこまで忙しいことは知らなかった。
智也は差し出がましいと思いつつ、聞いてみた。
「君が仕事してるのに、お母さんもそんな忙しく働いてるんだ?」
ともすれば、「君がそんなに稼いでるのに?」と嫌味に聞こえる聞き方だったが、乃愛はあっさりと答えた。
「うん。死んだお父さんの借金、まだあるから」
「……そうなんだ……」
三年前、乃愛の父親は突然病気で死んだ。ちょうどその頃、乃愛は街でスカウトされ芸能界に入った。「もともと映画とかには興味あったし、忙しくしてるほうが悲しいの、忘れられるから」と乃愛は言った。ひょっとしたら、と智也は思う。乃愛は本当は芸能の仕事は好きではないのではないかと。考えてみれば、十二歳の少女を見て、大人の男が「可愛い、キレイだ」と言うのは、やや不自然なことの気がする。
智也は乃愛に対して「僕らがそばにいるよ」と、言ってやりたかった。だがそれを言うのは卑怯な気がしてならなかった。
誠は何も言わなかった。黙ったまま、食事を口に運んでいる。
その端正な横顔を見ながら、智也はあることを考えていた。
誠の実の母親はだいぶ前に離婚して、今は別の男性と再婚して子供もいると聞いたことがある。今誠や父親と一緒に暮らしているのは、再婚相手の女性だった。とてもキレイで、誠はもちろん智也達にも優しい人だった。
だが誠がその義理の母親を何と呼んでいるのか、智也は聞いたことがなかった。お母さんと呼んでいるのか、あるいは他の呼び方をしているのか。どちらにしても、誠が智也の前で義理の母親を呼ぶことは、これからもないような気がしていた。
「なかなか素敵なコテージじゃない」
車から降りた亜紀がそう言った。
確かに二階建ての丸太造りのコテージは、ランプがドアの前に飾られていたりお洒落な飾り窓だったりと、高級感あふれるデザインだった。おまけに木の上質な香りが漂ってきていた。
カギは誠がいつも身につけているとの事で、さっさとドアを開けると買ったものを中に運び入れていた。
「さてと、軽い夕食をとりながら、作戦会議といきますか」
誠は、広く品の良いダイニングキッチンのテーブルに買ってきた袋の中身を広げた。淡い明りが部屋を照らしておりさらには空調システムが静かに起動しているため、コンビニのレトルト食品を前にしていても、さながらホテルの一室のような雰囲気だった。
「ただ買ったお惣菜を出すだけじゃ味気ないし、ちょっとアレンジさせて」
乃愛はそう言うと、亜紀を誘って最新型のシステムキッチンの前に立った。
「二人とも料理できるんだね?」
「あれ? 前に家庭科の実習で失敗してなかったか?」
智也と誠の心配そうな顔をよそに、美少女二人組は楽しくお喋りをしながら切ったり、よそったりしている。
「「お待たせ」」
15分ほどで、二人が出来上がった料理をテーブルの上に並べ始めた。
料理といってもほとんどは出来合いの品だったが、よく見ると微妙に一手間くわえられている。
例えばミートスパゲッティには煮込んだトマトが入っていたり、サラダにはツナが和えてあったり、という具合だ。
「うん、美味い」
「美味しいね。ありがとう」
智也と誠の屈託のない感想に、乃愛と亜紀は顔を見合わせて笑顔になる。
「二人とも結構上手なんだね」
「料理ってほどじゃないけどね。パパもママも仕事で忙しい時とかは、弟に軽くつくってあげるかな」
「うちも。お母さんが仕事で帰ってないことあるし」
亜紀の両親が共働きで忙しいことは知っていた。特に母親はかなりやり手ビジネスウーマンで、仕事で海外に行くことも、その際には亜紀が四歳下の弟の世話をしてることも。
ただ乃愛の母親の仕事がそこまで忙しいことは知らなかった。
智也は差し出がましいと思いつつ、聞いてみた。
「君が仕事してるのに、お母さんもそんな忙しく働いてるんだ?」
ともすれば、「君がそんなに稼いでるのに?」と嫌味に聞こえる聞き方だったが、乃愛はあっさりと答えた。
「うん。死んだお父さんの借金、まだあるから」
「……そうなんだ……」
三年前、乃愛の父親は突然病気で死んだ。ちょうどその頃、乃愛は街でスカウトされ芸能界に入った。「もともと映画とかには興味あったし、忙しくしてるほうが悲しいの、忘れられるから」と乃愛は言った。ひょっとしたら、と智也は思う。乃愛は本当は芸能の仕事は好きではないのではないかと。考えてみれば、十二歳の少女を見て、大人の男が「可愛い、キレイだ」と言うのは、やや不自然なことの気がする。
智也は乃愛に対して「僕らがそばにいるよ」と、言ってやりたかった。だがそれを言うのは卑怯な気がしてならなかった。
誠は何も言わなかった。黙ったまま、食事を口に運んでいる。
その端正な横顔を見ながら、智也はあることを考えていた。
誠の実の母親はだいぶ前に離婚して、今は別の男性と再婚して子供もいると聞いたことがある。今誠や父親と一緒に暮らしているのは、再婚相手の女性だった。とてもキレイで、誠はもちろん智也達にも優しい人だった。
だが誠がその義理の母親を何と呼んでいるのか、智也は聞いたことがなかった。お母さんと呼んでいるのか、あるいは他の呼び方をしているのか。どちらにしても、誠が智也の前で義理の母親を呼ぶことは、これからもないような気がしていた。
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