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第3章
1.
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車の後部座席では亜紀が優雅な摘まみ方で、ポテトチップスを口に運んでいる。
乃愛はスマホの画面をチェックしているところだった。
今、智也、誠、乃愛、亜紀の四人が乗っているのは、辻村の愛車だった。ただし運転しているのは、辻村ではない。誠だった。
もちろん誠は車の免許を持っていない。
だが、誠が智也を助手席に乗せてマンドリル公園まで乃愛達を迎えに行き事情を説明した時、二人とも目を丸くしながらもその事を批判しようとはしなかった。
「あ、そこ、右だよ」
カーナビを見ながら智也が言った。
「了解」
慣れた手つきで誠がハンドルを回す。
「お母さん、大丈夫だって?」
「うん。ぜんぜん構わないって。みんなの家族にも言ってくれるってさ」
「そりゃ良かった」
今、智也達が目指しているのは、誠の親が持つ別荘だった。
あのまま家に帰った時、ネイレと玄関先で鉢合わせする可能性は避けたかったし、何よりこれからの事を、特にあの電波塔をどうするかを四人で話し合いたかったのだ。
乃愛は母親に、新作の役作りのため今日は公園でキャンプを張ると伝えたそうだ。芸能の仕事をとても大事にしている乃愛の母親(ちなみに乃愛に父親はいない)はともかく、ごく普通の一般人である自分の両親がその説明で納得するか、智也には甚だ疑問だった。
「結局、去年は私の仕事が押したこともあって、誠君の別荘行けなかったからね。楽しみだな」
乃愛が少しはしゃいだような声を出す。
気持ちは智也にも分かる。あまりにも非日常的な体験なので、四人ともやや熱に浮かされたような状態になっているのだ。途中のコンビニで買いこんだオヤツやレトルト食品も、遠足気分に拍車をかけている。
さらに辻村の車の乗り心地は悪くなかった。それに誠のドライブテクニックも。もっとも実際に運転するのが初めてだと聞いた時には、さすがに残りの三人も絶句したが、誠曰く「心配するな。バララット社の開発したドライブゲームで、100時間も運転してるんだ」とのことだった。バララット社は近年急速に拡大している、VRでのゲームを取り扱っているアメリカの会社だった。智也もそのドライビングゲームは試させてもらったが、専用のゴーグルに加えステアリングやペダル、シートまで付属されており、その運転感覚はまさに現実そのものだった。
心配なのは警察の車だけだったが、一般道でスピードを出しすぎなければ心配はないというのが誠の意見だった。
「ねえ、その電波塔、ブタ……じゃない辻村さんの家に置いてきてよかったのかな?」
亜紀が聞いてくる。
確かにこれに関しては、どうするべきだったのか智也にもよく分からない。一緒に持ってくることはないにしても、壊すという選択肢もあったかもしれない。
誠もうーんと唸っている。
「迂闊に壊して爆発でもされたら困るから、いいんじゃない? 亜紀ちゃん」
「まあ、それはそうね」
「それにしてもこの車、けっこう乗り心地いいよね~! タバコのにおいもしないしさ。帰ったら辻村さんとのツーショット、5枚くらい撮ってあげようっと」
「乃愛、サービスしすぎ。大体いい歳して小学生アイドルのファンとか、まともな社会人じゃないからね」
「え? 亜紀ちゃんだって、思ったよりイケメンだったねとか言ってたじゃない?」
「それはそれ。これはこれ」
女子二人のはしゃぐ声を響かせながら、車は走った。
マンドリル公園を出てから二時間後、ついに車は隣の県の山奥にある誠の父親が所有する別荘へと辿り着いた。
乃愛はスマホの画面をチェックしているところだった。
今、智也、誠、乃愛、亜紀の四人が乗っているのは、辻村の愛車だった。ただし運転しているのは、辻村ではない。誠だった。
もちろん誠は車の免許を持っていない。
だが、誠が智也を助手席に乗せてマンドリル公園まで乃愛達を迎えに行き事情を説明した時、二人とも目を丸くしながらもその事を批判しようとはしなかった。
「あ、そこ、右だよ」
カーナビを見ながら智也が言った。
「了解」
慣れた手つきで誠がハンドルを回す。
「お母さん、大丈夫だって?」
「うん。ぜんぜん構わないって。みんなの家族にも言ってくれるってさ」
「そりゃ良かった」
今、智也達が目指しているのは、誠の親が持つ別荘だった。
あのまま家に帰った時、ネイレと玄関先で鉢合わせする可能性は避けたかったし、何よりこれからの事を、特にあの電波塔をどうするかを四人で話し合いたかったのだ。
乃愛は母親に、新作の役作りのため今日は公園でキャンプを張ると伝えたそうだ。芸能の仕事をとても大事にしている乃愛の母親(ちなみに乃愛に父親はいない)はともかく、ごく普通の一般人である自分の両親がその説明で納得するか、智也には甚だ疑問だった。
「結局、去年は私の仕事が押したこともあって、誠君の別荘行けなかったからね。楽しみだな」
乃愛が少しはしゃいだような声を出す。
気持ちは智也にも分かる。あまりにも非日常的な体験なので、四人ともやや熱に浮かされたような状態になっているのだ。途中のコンビニで買いこんだオヤツやレトルト食品も、遠足気分に拍車をかけている。
さらに辻村の車の乗り心地は悪くなかった。それに誠のドライブテクニックも。もっとも実際に運転するのが初めてだと聞いた時には、さすがに残りの三人も絶句したが、誠曰く「心配するな。バララット社の開発したドライブゲームで、100時間も運転してるんだ」とのことだった。バララット社は近年急速に拡大している、VRでのゲームを取り扱っているアメリカの会社だった。智也もそのドライビングゲームは試させてもらったが、専用のゴーグルに加えステアリングやペダル、シートまで付属されており、その運転感覚はまさに現実そのものだった。
心配なのは警察の車だけだったが、一般道でスピードを出しすぎなければ心配はないというのが誠の意見だった。
「ねえ、その電波塔、ブタ……じゃない辻村さんの家に置いてきてよかったのかな?」
亜紀が聞いてくる。
確かにこれに関しては、どうするべきだったのか智也にもよく分からない。一緒に持ってくることはないにしても、壊すという選択肢もあったかもしれない。
誠もうーんと唸っている。
「迂闊に壊して爆発でもされたら困るから、いいんじゃない? 亜紀ちゃん」
「まあ、それはそうね」
「それにしてもこの車、けっこう乗り心地いいよね~! タバコのにおいもしないしさ。帰ったら辻村さんとのツーショット、5枚くらい撮ってあげようっと」
「乃愛、サービスしすぎ。大体いい歳して小学生アイドルのファンとか、まともな社会人じゃないからね」
「え? 亜紀ちゃんだって、思ったよりイケメンだったねとか言ってたじゃない?」
「それはそれ。これはこれ」
女子二人のはしゃぐ声を響かせながら、車は走った。
マンドリル公園を出てから二時間後、ついに車は隣の県の山奥にある誠の父親が所有する別荘へと辿り着いた。
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