【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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84 ◇もっと頼って、もっと甘えて

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「ぎゅって抱っこして」

 一太から聞こえた声に、晃は何も考えずにぎゅうと、その細い体を抱きしめていた。寝ている時まで、静かに涙を流していた一太。本当に、本当に人に頼ることを知らない友人に、もっと頼って欲しいといつも伝えたかった。
 一太の好きな食べ物は知っているつもりだ。甘いもの。温かいもの。唐揚げ、ハンバーガー、ポテト。ポテトは最近、一太が揚げ物を作る時には必ず一緒に揚げてくれるので、晃はハンバーガー屋に行きたいと思わなくなった。
 業務用スーパーの冷凍食品コーナーに、揚げるだけのポテトがあった。とても安いのだけれど買ってもいいか、と一太が晃に尋ねてきたのは、一緒に暮らし始めてすぐだった。そういえばあれも、一太には珍しいおねだりだったのかもしれない。料理は何もできない晃には、自分で揚げ物をするなんて発想はなかった。そんなものあるんだ、安いのなら、許可なんて取らずに買えばいいよ、と言った。一キログラムも入っているので、安いとはいえ、一太にはそれなりの値段だったらしい。ハンバーガー屋のLサイズのポテトと変わらない値段は、食卓の一品になる訳でもない、おやつのような食べ物に出すには、一太には贅沢品だったようだ。でも、晃と分け合って食べるなら値段は半分。それで、Lサイズポテトが何回も食べられるなんてお得だね、と言うと、一太は本当に嬉しそうに笑った。
 家で揚げたてのポテトは、晃にはハンバーガー屋のものより美味しく感じる。少し太くて、塩も好きなだけ振ることができて最高だ。
 店より旨い、と晃が言うと、揚げただけだよ、と一太は笑った。
 揚げるのが大変なのだから、いっちゃんはもっと偉そうにしていい。
 ついさっき、雑炊を作ってみた晃は、雑炊の素とご飯と卵を混ぜるだけだったのに、何故だかあまり美味しそうに見えない雑炊を座卓に置いて、何がいけなかったのか、と考えているところだ。
 一太の上半身を持ち上げ、ぎゅって抱っこして、よしよしと背中を撫でる。一太は、んー、としがみついてきた。
 先日、子どもの頃の触れ合いが足りなかった人の中には、大きくなってから、足りなかった分を取り戻すかのように人と触れ合いたがる人がいる、というような事を書いてある文章を読んだ。子どもの成長の過程で、たくさんスキンシップをする事の大切さを語った文章の一節だったと思う。
 きっと一太は、触れ合いが足りない。足りていない。ほんの少し、一緒にいただけでも分かるほどに。
 こうして、無意識に晃にしがみつくほど、きっとずっと誰かに抱っこして欲しかったのだ。

「もっと早く、言ってくれれば良かったのに」

 晃は、しばらくそうして一太を抱きしめていた。甘えてくれた事が、嬉しかった。
 一太が目覚めて驚き、離れようとした時にも力を緩めず、もう一度ぎゅうう、と抱きしめておいた。
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