7 / 61
7 これからの話
しおりを挟む
洗った小鍋を持って夕食を取りに行くと、料理長がわざわざ待っていてくれた。マクシムは、礼儀正しく頭を下げる。
「本当に美味しいスープでした。ありがとうございました。」
「それは良かった。待っててくださいよ、今、盛り付けるから。三人分ね。」
目の前で、たくさん入っている鍋や籠やボウルから、手際よく盛り付けられる食べ物を見ていると、ほっとする。この状況で毒を仕込むことは難しいだろう。では、今まではどうだったのだろうか。取りに来ていたのが自分では無かったので、何とも判断が付かない。だがいつも、湯気は立っていなかったような……。
「できましたよ。どうされた?難しい顔をして。」
「あ、いや。今までは冷めた食事が多かったので、湯気の立ってるものが嬉しくて。」
「みんなと同じものって注文してたんですよね。……ふむ。」
「色々と思うところはありますが、今は。」
忙しく立ち回る辺りを見回して二人は口をつぐみ、目を見交わして、別れた。
「どうだ?」
「はい。すべて、食べられるものです。」
その一言が、なんと安心感をもたらすものか、とシリルとマクシムは思わず頬を緩めた。結論から言うと、二人が魔力を目に込めても、特に見え方に違いはなかった。今回は、食べられないものが入っていないから、すぐに判断をつけるのは難しいのだが。
夕食はシリルの部屋に並べた。ソファにリュシルを座らせ、自分で食べられそうだと言うので、それぞれで食べ進める。和やかに食べて、すっかり心身ともに回復した三人は、これまでのことを思った。
「考えなくてはいけないことが、たくさんある。」
「そうですね。」
「思考力も奪われていたようだ。食べ物の大切さを思い知ったよ。」
「私もです、殿下。食べ物に毒を盛られることをおかしいと思うことや、替えの侍従や護衛騎士が来ないことがおかしいと思う気持ちも湧かず、ただただ、殿下を護れるのはもう、自分しかいないとの強迫観念のようなものに捕らわれておりました。」
「あの……。」
しみじみとソファに体を預けて呟いたシリルとマクシムの言葉を、おずおずとリュシルが遮る。疲れて、ソファにもたれているのも怠そうな様子に、マクシムが慌てて立ち上がり、クッションを二つ重ねて置き、寝るような姿勢を取らせた。シリルも心配げに見守る。
「も、申し訳ありません。お手間を取らせて……。あの、先程のお話なのですが、私が聞いてもよろしかったのでしょうか?」
「ああ。」
少し眉をしかめて、シリルはため息をついた。
「貴女はもう、私に毒が入っていることを知ってしまった。巻き込んでしまい、申し訳ない。」
「殿下、頭を下げてはいけません。」
ソファに座ったまま、頭を下げるシリルに、リュシルが慌てる。王族は、非を認めたとしても、軽々しく頭を下げたりはしないものだ。
「いや、受け取ってほしい。あの毒?を取り出してもらえたことで、今、私がどれほど楽に息ができていることか。貴女は、苦しかったことだろう。」
「私の方こそ、命を救って頂きました。」
リュシルは、にこ、と笑った。シリルは思わず見惚れてしまい、そんな自分に驚く。
「そう、私は、毒を盛られている。学園に入学してからは、毎日のように。毒見をした侍従が三人、倒れて帰って来ない。遅効性のものや軽いものは、毒見をしてもらっても気付かず、取り込んでいたようだ。護衛騎士も、すぐに辞めてマクシムしか残っていない。二人とも、少々、おかしくなっていたようだ。」
「殿下。私は一度、実家に戻り、兄に相談しようかと思います。考えてみれば、始めからおかしかったのです。私も他の二人も、騎士学校を卒業してすぐに殿下の護衛になった。新人三人など、あり得ない体制です。侍従も、やけに若い者たちの上、毒見の時の様子もおかしかった。回復したのかどうかも報告がない上、補充が一向に来ない。明日は、学園はお休みの日です。もう今すぐに動き始めます。お二人は、明日一日このお部屋からお出になりませんよう。護衛騎士は、心当たりの信用できる者を早急に手配します。侍従は、専門外ですので、少しお時間を頂きたい。まずは、今夜の護衛と明日の食事の手配を致します。」
てきぱきとマクシムは言い、食べ終えたお皿などをワゴンに乗せて出ていこうとする。
「ベルナール様。殿下の侍従、というのは、侍女ではいけませんか?」
慌ててリュシルの声が飛んだ。
「私は、学園の卒業後には、どこかのお屋敷で侍女として雇ってもらえないかと、エマから侍女の仕事を少しずつ習っておりました。回復すれば、朝から夜まで目も見えますので、殿下の食事の毒に、誰より早く気付くことができます。」
「それは、願ってもない申し出だが、学園での授業はどうする?」
「授業中も殿下のお側にいられるのですから、勉強はできます。昼食もお給金として食べさせて頂ければ、文無しの私には最高の環境です。」
「そうか。お互いに良いな。マクシム、どうだ?」
シリルは、嬉しそうに笑う。マクシムは、申し訳無さそうに眉を下げた。
「殿下。お二人は年が近すぎるので、無理かと……。」
がっかりしてしまった二人を置いて、マクシムはとりあえず、ワゴンを押して部屋を出た。
「本当に美味しいスープでした。ありがとうございました。」
「それは良かった。待っててくださいよ、今、盛り付けるから。三人分ね。」
目の前で、たくさん入っている鍋や籠やボウルから、手際よく盛り付けられる食べ物を見ていると、ほっとする。この状況で毒を仕込むことは難しいだろう。では、今まではどうだったのだろうか。取りに来ていたのが自分では無かったので、何とも判断が付かない。だがいつも、湯気は立っていなかったような……。
「できましたよ。どうされた?難しい顔をして。」
「あ、いや。今までは冷めた食事が多かったので、湯気の立ってるものが嬉しくて。」
「みんなと同じものって注文してたんですよね。……ふむ。」
「色々と思うところはありますが、今は。」
忙しく立ち回る辺りを見回して二人は口をつぐみ、目を見交わして、別れた。
「どうだ?」
「はい。すべて、食べられるものです。」
その一言が、なんと安心感をもたらすものか、とシリルとマクシムは思わず頬を緩めた。結論から言うと、二人が魔力を目に込めても、特に見え方に違いはなかった。今回は、食べられないものが入っていないから、すぐに判断をつけるのは難しいのだが。
夕食はシリルの部屋に並べた。ソファにリュシルを座らせ、自分で食べられそうだと言うので、それぞれで食べ進める。和やかに食べて、すっかり心身ともに回復した三人は、これまでのことを思った。
「考えなくてはいけないことが、たくさんある。」
「そうですね。」
「思考力も奪われていたようだ。食べ物の大切さを思い知ったよ。」
「私もです、殿下。食べ物に毒を盛られることをおかしいと思うことや、替えの侍従や護衛騎士が来ないことがおかしいと思う気持ちも湧かず、ただただ、殿下を護れるのはもう、自分しかいないとの強迫観念のようなものに捕らわれておりました。」
「あの……。」
しみじみとソファに体を預けて呟いたシリルとマクシムの言葉を、おずおずとリュシルが遮る。疲れて、ソファにもたれているのも怠そうな様子に、マクシムが慌てて立ち上がり、クッションを二つ重ねて置き、寝るような姿勢を取らせた。シリルも心配げに見守る。
「も、申し訳ありません。お手間を取らせて……。あの、先程のお話なのですが、私が聞いてもよろしかったのでしょうか?」
「ああ。」
少し眉をしかめて、シリルはため息をついた。
「貴女はもう、私に毒が入っていることを知ってしまった。巻き込んでしまい、申し訳ない。」
「殿下、頭を下げてはいけません。」
ソファに座ったまま、頭を下げるシリルに、リュシルが慌てる。王族は、非を認めたとしても、軽々しく頭を下げたりはしないものだ。
「いや、受け取ってほしい。あの毒?を取り出してもらえたことで、今、私がどれほど楽に息ができていることか。貴女は、苦しかったことだろう。」
「私の方こそ、命を救って頂きました。」
リュシルは、にこ、と笑った。シリルは思わず見惚れてしまい、そんな自分に驚く。
「そう、私は、毒を盛られている。学園に入学してからは、毎日のように。毒見をした侍従が三人、倒れて帰って来ない。遅効性のものや軽いものは、毒見をしてもらっても気付かず、取り込んでいたようだ。護衛騎士も、すぐに辞めてマクシムしか残っていない。二人とも、少々、おかしくなっていたようだ。」
「殿下。私は一度、実家に戻り、兄に相談しようかと思います。考えてみれば、始めからおかしかったのです。私も他の二人も、騎士学校を卒業してすぐに殿下の護衛になった。新人三人など、あり得ない体制です。侍従も、やけに若い者たちの上、毒見の時の様子もおかしかった。回復したのかどうかも報告がない上、補充が一向に来ない。明日は、学園はお休みの日です。もう今すぐに動き始めます。お二人は、明日一日このお部屋からお出になりませんよう。護衛騎士は、心当たりの信用できる者を早急に手配します。侍従は、専門外ですので、少しお時間を頂きたい。まずは、今夜の護衛と明日の食事の手配を致します。」
てきぱきとマクシムは言い、食べ終えたお皿などをワゴンに乗せて出ていこうとする。
「ベルナール様。殿下の侍従、というのは、侍女ではいけませんか?」
慌ててリュシルの声が飛んだ。
「私は、学園の卒業後には、どこかのお屋敷で侍女として雇ってもらえないかと、エマから侍女の仕事を少しずつ習っておりました。回復すれば、朝から夜まで目も見えますので、殿下の食事の毒に、誰より早く気付くことができます。」
「それは、願ってもない申し出だが、学園での授業はどうする?」
「授業中も殿下のお側にいられるのですから、勉強はできます。昼食もお給金として食べさせて頂ければ、文無しの私には最高の環境です。」
「そうか。お互いに良いな。マクシム、どうだ?」
シリルは、嬉しそうに笑う。マクシムは、申し訳無さそうに眉を下げた。
「殿下。お二人は年が近すぎるので、無理かと……。」
がっかりしてしまった二人を置いて、マクシムはとりあえず、ワゴンを押して部屋を出た。
99
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる