【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ

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8 料理長

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 か細い二人を残して出るのは、不安しかない。マクシムは急ぎ足で厨房へと向かった。ワゴンを返して、片付けをしている料理長に声を掛けた。

「今、少しお時間を頂きたい。」

 何となく察していたのか、そのまま従業員の休憩室へと案内される。

「お忙しい身なのは承知で、お願いがあります。今夜、シリル殿下の護衛を引き受けて頂きたい。」

「……それは、さすがの俺も想定外の依頼だったな。」

「あなたのお噂は聞いておりました。騎士学校を卒業されて、料理人になられた、と。バジル・シモン伯爵令息。」

「だからと言って、もう七年は経っている。その間、俺は料理しかしていない。」

「いえ、鍛えておられるのは、見れば分かります。私などより、よほど頼りになる。」

「現役の騎士が何いってやがる。」

 いつもなら、料理人として、少しは丁寧な言葉遣いで話すのであるが、何か事情がありそうだと察して、砕けた言葉で返事をしながら、料理長バジルはマクシムを観察した。細身の身体。まだ少年のような顔の、目の下の隈。
 やつれてる、な。騎士学校出てすぐの任務か、まだ17、8歳か。

「訳は聞く。受けるかどうかはその後だ。聞いちまったから、口封じってのはやめろよ。」

「無理です。貴方の方が強い。……巻き込んでしまうとしても、聞いてほしいのです。」

 そしてマクシムは、学園入学から今日までの七日間をバジルに告げた。


 話と厨房の片付けを終えてシリルの部屋へ戻ると、リュシルはソファの上で、シリルはその横の床に座り込み、リュシルに重なるようにして眠り込んでいた。
 慌ててマクシムが駆け寄ろうとするのを止めて、バジルは二人を観察する。

「小せえなあ。」

 悲しげに呟いた。ご飯を満足に食べられていない小ささだ。もともと、本人があまり大きくならない性質の者は、小さくてももっと様子が違うのだ。頬が痩けたり、やけに骨ばっていたりはしない。髪にも艶があるものだ。この学園に来て、ご飯が食べられず死にかけた二人なのだと思うと、自分への怒りが沸いてきた。美味しいご飯を食べさせたくて料理人になり、料理長まで任されておきながら、なんという失態。

「とりあえず、今夜の件は任せろ、ベルナール卿。騎士バジル・シモンとして受ける。そして、三人ともきっちり太らせてやるから、食事の方ももう心配ない。」

 力強い言葉を聞いて、マクシムはくしゃりと笑った。バジルは手を伸ばして、短く刈り込んだ茶色の髪をわしゃわしゃと撫でる。

「よく、頑張ったな。」

 息を飲んで涙をこらえる様子を見て、考えてみた。この子も寝ないと駄目だな。

「ふむ、今夜の護衛と言ったが、俺は明日の早朝から仕事だ。ベルナール卿も、そんなに早くは戻ってこれまい。貴方にも休みが必要に見える。このまま、四人でベルナール伯爵邸へ行った方が良いかもしれん。ご令嬢も、ここでは着替えもあるまい。よし、そうしよう。」

 あっという間に、シリルとリュシルはタオルケットにくるまれ、マクシムとバジルに抱き上げられた。驚いて目を覚ました二人をなだめつつ、もうさっさと寮を出る。学園に警護で常駐している騎士団に話をつけると、馬を二頭借りて、とっとと駆けていった。マクシムでさえ呆然としている間に、ベルナール伯爵邸に着いたのであった。
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