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9 大人たち
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先触れなしの第一王子の訪問、しかも夕食後の時間、という事態になったベルナール伯爵邸は一度大慌てした後、いつも整えてある客間で家族勢揃いした。当主のアドルス・ベルナールは当直で不在のため、長男のアルベリクが代表として挨拶をした。とはいえ、挨拶をされたシリルにも事態がよく分からない。名乗りだけをしっかりと交わしあった後は、困ったようにマクシムを見上げた。
迎えたベルナール家の面々は、アドルスの妻セリーヌ、長男のアルベリク、であった。三男は、騎士学校の寮に住んでいる。二人は、ほんの一週間ぶりに見るマクシムのやつれぶりに唖然として、更にシリル王子の痩せかたを見て呆然となり、薄汚れてくったりとしたリュシルを見て胸を痛めた。確かに、何かがあったのだ。
「部外者が、口を挟んで失礼致します。シモン伯爵家の三男バジルと申します。学園の寮で料理人をしております。本日、マクシム殿に助けを求められましたので、私の判断で、こちらのお屋敷に逃げ込んだ次第。」
バジルは、簡潔に説明しつつ自己紹介をした。
「この三人には、温かいたっぷりの食事とたくさんの睡眠が必要に思えたのです。とりあえず、泊まれる部屋があれば数日置いてやってほしい。元気が出てから学園に戻りましょう。」
そうして、マクシムにこの七日間の説明をさせると、子どもたちは寝なさい、と言った。
「アルベリク・ベルナール殿、夜分ですがまだ少し、よろしいか。俺は、明日も早朝から料理人としての仕事があり、学園に戻らなければならない。騎士の補充などの話は丸投げすることになると思うが。」
「もちろんです。殿下と弟を救ってくれたこと、感謝致します。騎士の話は、まさしく私の領分ですので。」
騎士団に所属しているアルベリクが頷くと、セリーヌが立ち上がった。
「食事はすんでいますね。では、お風呂です。こちらは私の領分。殿下もリュシルちゃんもマクシムも、行きましょう。」
体格の良い侍女を呼ぶと、ソファにくったりともたれ掛かっていたリュシルを抱えさせ、シリルを優しく誘導して部屋を出ていく。自分は残ると抗議の声を上げかけたマクシムの腕はがっしりと掴んで、引きずって去って行った。
「任せて安心、ですね。」
バジルの言葉に、笑いながらアルベリクが頷く。
「さて、問題は報告書がどこかで止まっていることですか。文官側に第一王子を亡き者にしたいどなたかと繋がっている一大勢力があるようだ。そして、毒に関しては、王宮に住んでいらっしゃる時より学園に行かれた後の方が入れ易くなったので、一気に畳み掛けている、という状況ですかね。」
「学園の料理人として悔しいし申し訳なく思う。侍従が三人も倒れているというのに、一週間、知りもしなかった。皿を返しにきた侍従も何も言わなかったし、綺麗に洗って返してきたんだよ。」
「始めに付けられた侍従も、委細承知の上ということでしょう。護衛騎士もすぐに辞めたのであれば、そちらも始めから何か言い含められていた可能性が高い。新人を入れたいという要望にマクシムをねじ込んで良かった。流石に、近衛騎士隊長の息子までは、はね除けられなかったようです。」
「これからは、なるべく俺が盛り付けるから、朝と夜の食事は安心してほしい、と言いたい所だが、侍従次第だな。運ぶ途中で入れられては、手の打ちようがない。自分で毒見をすると分かっていても、解毒剤があれば誤魔化すことはできるからな。」
執事が、そっと入ってきて覚めた紅茶を取り替え、ブランデーを置いた。
「少し、お入れしましょうか。」
「ああ、いや。飲みたいのはやまやまだが、戻らなければならないのでな。今日はやめておこう。ありがとう。」
「私も、飲みながら話したい気分ですよ。しかし、それどころではないようだ。毒は、厄介です。襲撃してくれた方が余程分かりやすい。」
代々、近衛騎士を勤めてきたベルナール家らしい感想だった。
「そこで、あのご令嬢だ……。」
「毒が見えるのでしたね。」
「と、マクシム殿は言っていたな。毒、というわけではないそうだ。本人曰く、食べられないものが食べられないものとして視える、そうな。言葉も交わしてないから、そう聞いた、としか言えないが。」
「殿下も弟も、ご令嬢とは今日出会ったばかりだというのに、完全にその能力を信頼している。毒を視てもらったわけでもないのでしょう?夕食は、貴方にもらったと言っていましたよね?」
「おう、そうだった。」
ごとり、と腰の袋からバジルが取り出したのは、禍々しい色をした卵のような塊が二つ。
「ご令嬢が殿下の身体から取り出した。」
「は?」
「ご令嬢曰く、身体に取り込んではいけないもの、だそうだ。で、取り出してくれたんだと。殿下は先程のあの様子で、かなり顔色や体調の良い状態なのだそうだ。これを取り出してもらってなかったら、食事もあまり受け付けていなかったらしい。代わりに、ご令嬢が疲れてしまってあの状態なんだが……。」
アルベルクは、大きな息を吐いて片手で顔を覆った。
「ご令嬢が、殿下の側に居られる手段を考えなくては……」
しばらくして呟くように漏らされた声に、バジルも賛成だった。
迎えたベルナール家の面々は、アドルスの妻セリーヌ、長男のアルベリク、であった。三男は、騎士学校の寮に住んでいる。二人は、ほんの一週間ぶりに見るマクシムのやつれぶりに唖然として、更にシリル王子の痩せかたを見て呆然となり、薄汚れてくったりとしたリュシルを見て胸を痛めた。確かに、何かがあったのだ。
「部外者が、口を挟んで失礼致します。シモン伯爵家の三男バジルと申します。学園の寮で料理人をしております。本日、マクシム殿に助けを求められましたので、私の判断で、こちらのお屋敷に逃げ込んだ次第。」
バジルは、簡潔に説明しつつ自己紹介をした。
「この三人には、温かいたっぷりの食事とたくさんの睡眠が必要に思えたのです。とりあえず、泊まれる部屋があれば数日置いてやってほしい。元気が出てから学園に戻りましょう。」
そうして、マクシムにこの七日間の説明をさせると、子どもたちは寝なさい、と言った。
「アルベリク・ベルナール殿、夜分ですがまだ少し、よろしいか。俺は、明日も早朝から料理人としての仕事があり、学園に戻らなければならない。騎士の補充などの話は丸投げすることになると思うが。」
「もちろんです。殿下と弟を救ってくれたこと、感謝致します。騎士の話は、まさしく私の領分ですので。」
騎士団に所属しているアルベリクが頷くと、セリーヌが立ち上がった。
「食事はすんでいますね。では、お風呂です。こちらは私の領分。殿下もリュシルちゃんもマクシムも、行きましょう。」
体格の良い侍女を呼ぶと、ソファにくったりともたれ掛かっていたリュシルを抱えさせ、シリルを優しく誘導して部屋を出ていく。自分は残ると抗議の声を上げかけたマクシムの腕はがっしりと掴んで、引きずって去って行った。
「任せて安心、ですね。」
バジルの言葉に、笑いながらアルベリクが頷く。
「さて、問題は報告書がどこかで止まっていることですか。文官側に第一王子を亡き者にしたいどなたかと繋がっている一大勢力があるようだ。そして、毒に関しては、王宮に住んでいらっしゃる時より学園に行かれた後の方が入れ易くなったので、一気に畳み掛けている、という状況ですかね。」
「学園の料理人として悔しいし申し訳なく思う。侍従が三人も倒れているというのに、一週間、知りもしなかった。皿を返しにきた侍従も何も言わなかったし、綺麗に洗って返してきたんだよ。」
「始めに付けられた侍従も、委細承知の上ということでしょう。護衛騎士もすぐに辞めたのであれば、そちらも始めから何か言い含められていた可能性が高い。新人を入れたいという要望にマクシムをねじ込んで良かった。流石に、近衛騎士隊長の息子までは、はね除けられなかったようです。」
「これからは、なるべく俺が盛り付けるから、朝と夜の食事は安心してほしい、と言いたい所だが、侍従次第だな。運ぶ途中で入れられては、手の打ちようがない。自分で毒見をすると分かっていても、解毒剤があれば誤魔化すことはできるからな。」
執事が、そっと入ってきて覚めた紅茶を取り替え、ブランデーを置いた。
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「ああ、いや。飲みたいのはやまやまだが、戻らなければならないのでな。今日はやめておこう。ありがとう。」
「私も、飲みながら話したい気分ですよ。しかし、それどころではないようだ。毒は、厄介です。襲撃してくれた方が余程分かりやすい。」
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「と、マクシム殿は言っていたな。毒、というわけではないそうだ。本人曰く、食べられないものが食べられないものとして視える、そうな。言葉も交わしてないから、そう聞いた、としか言えないが。」
「殿下も弟も、ご令嬢とは今日出会ったばかりだというのに、完全にその能力を信頼している。毒を視てもらったわけでもないのでしょう?夕食は、貴方にもらったと言っていましたよね?」
「おう、そうだった。」
ごとり、と腰の袋からバジルが取り出したのは、禍々しい色をした卵のような塊が二つ。
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「は?」
「ご令嬢曰く、身体に取り込んではいけないもの、だそうだ。で、取り出してくれたんだと。殿下は先程のあの様子で、かなり顔色や体調の良い状態なのだそうだ。これを取り出してもらってなかったら、食事もあまり受け付けていなかったらしい。代わりに、ご令嬢が疲れてしまってあの状態なんだが……。」
アルベルクは、大きな息を吐いて片手で顔を覆った。
「ご令嬢が、殿下の側に居られる手段を考えなくては……」
しばらくして呟くように漏らされた声に、バジルも賛成だった。
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