イベリス

森 うろ子

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 俺が起きる頃にはすでにイオリは起きておりいつも通り身支度を整えていた。俺が起きたのを察知し駆け寄り「おはようございます。」とにこやかに微笑んでくる。

「イオリ、足は大丈夫なのか。」

イオリの挨拶へは「ああ。」と軽く返事をし、ぼうっとする頭で聞く。

「はい、少し違和感があるくらいでもう全然大丈夫です!」

そう言って昨日俺が巻いた包帯をシュシュルと解いていく。腫れも皮下出血ももう無くなっていた。

「小鬼族っていうのは見た目を裏切る回復力だな。」

イオリの片足を持ち上げ、足首を触りながら言う。もう触っても痛くないらしい。

「あの、リッカ様、ありがとうございました。その、包帯を……。」

片足を上げたままイオリがペコリとお礼のお辞儀をする。

「ああ、別に…。」

 イオリからのお礼の言葉になんと返事をして良いか分からずパッとイオリの足を離し、洗面所へ向かう。冷たい水で顔を洗うと朝の気怠さもだいぶマシになった。洗面所から戻るとイオリがベッドに腰掛け、また足首に包帯を巻いていた。

「どうしたんだ?もう治ったなら外していればいいだろう。」

俺が声をかけるとイオリが慌てた様子でこちらを向いた。包帯はぐしゃぐしゃだ。

「あ、いえ、その、もう治ってるんですけど…そのなんだかもったいなくて……。」

俯き、顔を赤くして言う。

「もったいない?なにが?…それにしても巻くの下手くそ過ぎるだろ。」

 何がもったいないのかよくわからないが、もう1日くらい用心で固定しておいてもいいか。イオリに近づき下手くそに巻かれている包帯を解いていく。

「あっ……。」

包帯を取り上げる俺にイオリが少し残念そうな声を漏らす。

「ほら、足を貸せ。」

「??」

「巻いておくんだろう?お前は下手くそ過ぎる。」

そう言ってイオリの片足をベッドにあげ、隣に座った俺の膝上に置くとスルスルと包帯を巻く。

「ほら、これでいいだろう。」

包帯を巻き終わったイオリの片足を元に戻す。途端にイオリがパァッと目を輝かせて大事なものを抱えるかのように包帯の巻かれた下肢を抱き込む。

「リッカ様、ありがとうございます!僕、大切にします!」

笑顔でお礼を言われる。あまりの笑顔に少したじろぎ答える。

「あ、ああ。まぁ、足は大切だからな。」

少し引き気味の俺にもイオリはニコニコとした笑顔を向け、いつも通りに俺の着替えを手伝い、身なりを整えてくる。

 一緒に朝食を摂り、いつも通り執務室でトウカと共に仕事をする。

 そのまま時間は過ぎ、いつも通り夕方にイオリは「では、失礼します。」とお辞儀をして訓練場へ向かって行った。

イオリがいなくなるとトウカがイオリが去った後の扉をジッと見つめながら聞いていた。

「最近のイオリ、何か変わったことはないか?」

振り返ってみるがイオリはいつも通りだった。

「いや、別に?」

俺がそう答えるとトウカは俺の方を向き、重々しく口を開いた。

「ならいいが。私の勘違いだ。最近、城内でイオリへ不満をもった者の声が聞こえるからな。それだけならいいが、なにか危害が加えられていないかと少し気になっただけだ。」


気にならないことがないわけではない。だからトウカの言葉に俺は息を飲んだ。
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