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品行方正
追憶⑧ 告白
しおりを挟むプルルルル……
力なく、背を壁に預け……私はスマホの電話を掛ける。
『はい? 梅香か?』
ああ……出てくれた……。
何時も通りの声に、私は安堵し、名前を呼ぶ。
「光輝、お兄ちゃん……」
私の、大好きな……光輝お兄ちゃんの、声。
『梅香か? どうかしたか?』
うん……優しい、お兄ちゃんの、声。安堵し、変わらない優しさのお兄ちゃんに、涙する。
「光輝、お兄ちゃん……ごめん、な……さい……」
『? 梅香、どうした? 何かあったのか?』
心配してくれる声。うん……何時も通り。
「私……上手く、やれなか……った」
私は……謝罪する。光輝お兄ちゃんに……ではない。
『っ何……?』
不穏な空気を感じとった様子の光輝お兄ちゃん。私はそれを感じ、懺悔を聞いてもらう。
「わた、し……お祖母ちゃんを、傷つけたくなくて、冷蔵庫のこと……言えな、かっ……た」
『梅香? どうした?』
険を増す、光輝お兄ちゃんの声。構わず続ける私。
「私、お祖母ちゃんが傷つくと思ったら……言えなく、て……でも危険だとも思って……だから、お祖母ちゃんの冷蔵庫……消費減切れたもの、こっそり……捨ててた」
『おい、梅香⁉ 段々声が小さくなっているぞ⁉』
慌てた光輝お兄ちゃんの声。うん、光輝お兄ちゃん……心配してくれているんだね。
「お母さん、と……お父さん……困らせたくなかった……お祖母ちゃん、も。でも……だめ、だったの……」
結局、私は止めることが出来ずに……結果弟の祐樹は祖母の渡した饅頭で食中毒を引き起こして死んだ。
「何時か……何時かお母さんも……元に戻ってくれるって思ってたけど……ダメだった……の」
息が荒くなる。ああもう、どうしよう。
「お祖母ちゃんも……お父さんも……お母さんも……も……だめ……な……の……」
屋敷が騒がしい気配がする。だけど、もう……自分には、どうすることも出来ない。
『おい! ダメって何があった⁉ 梅香、どうしたんだ⁉』
必死な様子の光輝お兄ちゃん。私を心配してくれる。うん……幸せだ。
「私……皆笑顔で、いて欲しかった……誰も、いがまないで、欲しかった……不幸に、ならないで……」
声を出す力がなくなる。ああ……私は……どうして……。
「上手く、やれなかったの……誰も不幸にしたく……ない……けど……」
誰も不幸になって欲しくなかった。誰も怒らないで欲しかった。
なのに。
「なんで……かな……」
どうして?
「なんで……か……な……?」
どうしてこうなってしまったの?
もう、お祖母ちゃんもお母さんもお父さんもいない。お祖母ちゃんもお父さんもお母さんに刺され、そのお母さんも、最後の力を振り絞ったお父さんに腕ごと包丁を捕まれて自分のお腹に包丁を刺された。
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「なんで、かな……?」
どうして、こうなったのだろうか? きちんと、きちんと……。
「誰も傷つかないようにしてきたつもり……なのに……なんで……か、な……?」
目がかすむ。もう、これ以上……は……。
『梅香! もすうぐ着く! だから、意識を保て! おい! 梅香!』
光輝お兄ちゃんの声が遠くなる。意識が薄れる。ああ、でも……。
「最後に……光輝お兄ちゃんの声が……聞けて……よか……った……」
うん……それだけは、まぎれもなく……幸せだと言える。
『梅香! 梅香!』
「こ……き……に……ちゃ……」
最後に、最後の告白をしようとして……
「……ぃ」
――その声が、届くことはなかった。
こてんと腕からスマホが抜ける。拾う力はもうない。
「は……ぁ……」
大きく息を吸い込み……吐き出し……。
私の意識は、そこで途切れた。
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