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おっとミステイク
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式場近くのバーで二人で飲むことになった。ウイスキーをグラスで飲む高橋君を見てお互い大人になったんだなあなんて私はしみじみ感じていた。
「葉月、確か機械メーカーに勤めてるんだよね? やりがいありそうだよなあ」
「色んな製品についての仕事があって楽しいよ。まあなんとか毎日こなしてるって感じかな? 高橋君は?」
高橋君は大学の工学部を卒業後、大手家電メーカーに就職したと聞いていた。
「俺は今エアコンとかの設計やってるんだけど、任される仕事が増えてきて大変だよ」
「ほんと三十前後って仕事が忙しくなってくる頃だよね」
「そうなんだよなあ」
お互いの仕事の話や大学時代の話をしながら飲むお酒は美味しかった。
二時間ほどで店を出た後、駅まで並んで歩いた。
「……葉月ってさ、今、付き合ってる人いるの?」
高橋君にそう尋ねられ照れながら答えた。
「え、あ……うん」
「そうなんだー、残念」
高橋君は曖昧な笑顔を浮かべて言った。
「俺さ、昔、葉月に振られたとき、本当にショックだったんだよね」
私のほうを見ずに前を向いたまま高橋君が言った。大学時代、高橋君には一度告白されたことがある。他に付き合っている人がいたからお断りしたけれど、当時から話の合った高橋君のことは嫌いじゃなかった。
「葉月っていつでもいつの間にか彼氏いるんだよなあ。俺っていつもタイミング悪いのかな」
高橋君は冗談めかして言った。
「俺、あの頃、葉月のことほんと好きだったんだよね」
高橋君は昔を懐かしむように言った。
「何、急に?」
高橋君が突然しんみりし始めたので私はどぎまぎして言った。
「いや、久しぶりに会ったから色々思い出しちゃってさ」
「高橋君こそ今は彼女いないの?」
「いるとしたら『彼氏がいて残念』なんて葉月に向かって言ったら駄目だろ?」
そう言って高橋君は明るく笑った。
・
・
・
最寄り駅の改札前に着いた。
「あ、えっと……ここで、大丈夫だから」
「駅、どこだっけ?」
「あ……えっと、中野」
咄嗟に上手い嘘がつけなくて正直に駅名を伝えていた。
「うっそマジ? 俺も中野なんだ。電車、一緒に乗ってく?」
「あ……うん」
私って酔っているときに男の人から付け入られやすい雰囲気でもあるのだろうか? 藤澤君のマンションの最寄り駅まで一緒に行くのは正直気が気でなかったけれど、断る理由を瞬時に思いつくことも出来なくて少し気まずい気持ちになりながら車に乗った。
電車が駅に着くと、案の定、高橋君は家の近くまで送ると言ってきた。結構です! って断らなきゃ駄目だよね……。そう思いながら、ここまで手を握るでもなく、腰に手を回すでもない高橋君をあまりに警戒するのも申し訳なくて、大学時代の懐かしさも手伝って結局マンション近くまで一緒に歩いていくことになってしまった。
「ね、葉月の彼氏ってどんなやつ?」
高橋君は私をじっと見つめるようにして尋ねてきた。
え、あ、あれ、ちょ、ちょっと待って、高橋君、ちょっと雰囲気おかしくない?
高橋君の突然の豹変に私は慌てた。
「え、あ、えっと、イケメン」
思わずそう答えていた。
「え、マジ? 桑野ってそういうのタイプだったっけ?」
私はすっかり動揺してしまった。
「葉月、なんだか可愛くなったよね、前よりずっと」
高橋君がさらりとそんなセリフを口にした。そう言われて一瞬照れてしまったが、いやいや照れている場合じゃない。こんな場面をもし藤澤君に見られていたら絶対にまずい。
自分が南沢さんのことであんな風に藤澤君を責めておきながら、いざ男の人から迫られると断れないのは自分のほうではないか、と私は心の中でがっくりと肩を落としていた。
「え……いや、そんなことないよ気のせいだよ。高橋君もかっこよくなったよ」
最後のセリフは完全に選択ミスだった、と言ってしまってから後悔した。
職場では褒められたら相手を褒め返す癖がついているのでついいつものように返してしまったが、この状況で今のセリフは良くない。絶対。
最近異性から口説かれることがほとんどなかったからってあしらいかた下手すぎだろ、自分、と心の中で自分を罵った。
「え、ほんと?」
ごめんなさい適当に言いました、とは言えない。実際、元々目鼻立ちは決して悪くはない高橋君は社会人になって自信を身に着け、身なりも整ったせいもあるのか大学時代よりも随分かっこよくなっていた。
「あ……まあ、えっと、じゃあ、またね」
手を振って駆け出すように高橋君から離れようとした私の手を高橋君が掴み、抱き締められた。
やべー! 完全にアウトでしょ私!
「ごめん……ちょっと感傷に浸っちゃった。少しだけ、こうさせて?」
わー! え、え、え、私って酔うとそんな感じで迫られるタイプなの?
完全に頭の中はパニックだった。
こんな状況に持ち込まれてしまったのは完全に私のミステイクだ。
私は慌てて高橋君の身体を押しのけた。
「わー! えっと、高橋君、酔いすぎ! 酔いすぎだから!」
叫ぶように言う私を高橋君はきょとんとした顔で見つめていた。
……人のことを突然抱き締めておきながらその悪気のない顔は一体なんなのだ。
「……ふふっ」
高橋君はくすくすと笑い始めた。
「た、高橋君!」
私は怒った。
「ごめんごめん、ちょっと悪ふざけしすぎたかな? じゃあな、桑野」
「葉月、確か機械メーカーに勤めてるんだよね? やりがいありそうだよなあ」
「色んな製品についての仕事があって楽しいよ。まあなんとか毎日こなしてるって感じかな? 高橋君は?」
高橋君は大学の工学部を卒業後、大手家電メーカーに就職したと聞いていた。
「俺は今エアコンとかの設計やってるんだけど、任される仕事が増えてきて大変だよ」
「ほんと三十前後って仕事が忙しくなってくる頃だよね」
「そうなんだよなあ」
お互いの仕事の話や大学時代の話をしながら飲むお酒は美味しかった。
二時間ほどで店を出た後、駅まで並んで歩いた。
「……葉月ってさ、今、付き合ってる人いるの?」
高橋君にそう尋ねられ照れながら答えた。
「え、あ……うん」
「そうなんだー、残念」
高橋君は曖昧な笑顔を浮かべて言った。
「俺さ、昔、葉月に振られたとき、本当にショックだったんだよね」
私のほうを見ずに前を向いたまま高橋君が言った。大学時代、高橋君には一度告白されたことがある。他に付き合っている人がいたからお断りしたけれど、当時から話の合った高橋君のことは嫌いじゃなかった。
「葉月っていつでもいつの間にか彼氏いるんだよなあ。俺っていつもタイミング悪いのかな」
高橋君は冗談めかして言った。
「俺、あの頃、葉月のことほんと好きだったんだよね」
高橋君は昔を懐かしむように言った。
「何、急に?」
高橋君が突然しんみりし始めたので私はどぎまぎして言った。
「いや、久しぶりに会ったから色々思い出しちゃってさ」
「高橋君こそ今は彼女いないの?」
「いるとしたら『彼氏がいて残念』なんて葉月に向かって言ったら駄目だろ?」
そう言って高橋君は明るく笑った。
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最寄り駅の改札前に着いた。
「あ、えっと……ここで、大丈夫だから」
「駅、どこだっけ?」
「あ……えっと、中野」
咄嗟に上手い嘘がつけなくて正直に駅名を伝えていた。
「うっそマジ? 俺も中野なんだ。電車、一緒に乗ってく?」
「あ……うん」
私って酔っているときに男の人から付け入られやすい雰囲気でもあるのだろうか? 藤澤君のマンションの最寄り駅まで一緒に行くのは正直気が気でなかったけれど、断る理由を瞬時に思いつくことも出来なくて少し気まずい気持ちになりながら車に乗った。
電車が駅に着くと、案の定、高橋君は家の近くまで送ると言ってきた。結構です! って断らなきゃ駄目だよね……。そう思いながら、ここまで手を握るでもなく、腰に手を回すでもない高橋君をあまりに警戒するのも申し訳なくて、大学時代の懐かしさも手伝って結局マンション近くまで一緒に歩いていくことになってしまった。
「ね、葉月の彼氏ってどんなやつ?」
高橋君は私をじっと見つめるようにして尋ねてきた。
え、あ、あれ、ちょ、ちょっと待って、高橋君、ちょっと雰囲気おかしくない?
高橋君の突然の豹変に私は慌てた。
「え、あ、えっと、イケメン」
思わずそう答えていた。
「え、マジ? 桑野ってそういうのタイプだったっけ?」
私はすっかり動揺してしまった。
「葉月、なんだか可愛くなったよね、前よりずっと」
高橋君がさらりとそんなセリフを口にした。そう言われて一瞬照れてしまったが、いやいや照れている場合じゃない。こんな場面をもし藤澤君に見られていたら絶対にまずい。
自分が南沢さんのことであんな風に藤澤君を責めておきながら、いざ男の人から迫られると断れないのは自分のほうではないか、と私は心の中でがっくりと肩を落としていた。
「え……いや、そんなことないよ気のせいだよ。高橋君もかっこよくなったよ」
最後のセリフは完全に選択ミスだった、と言ってしまってから後悔した。
職場では褒められたら相手を褒め返す癖がついているのでついいつものように返してしまったが、この状況で今のセリフは良くない。絶対。
最近異性から口説かれることがほとんどなかったからってあしらいかた下手すぎだろ、自分、と心の中で自分を罵った。
「え、ほんと?」
ごめんなさい適当に言いました、とは言えない。実際、元々目鼻立ちは決して悪くはない高橋君は社会人になって自信を身に着け、身なりも整ったせいもあるのか大学時代よりも随分かっこよくなっていた。
「あ……まあ、えっと、じゃあ、またね」
手を振って駆け出すように高橋君から離れようとした私の手を高橋君が掴み、抱き締められた。
やべー! 完全にアウトでしょ私!
「ごめん……ちょっと感傷に浸っちゃった。少しだけ、こうさせて?」
わー! え、え、え、私って酔うとそんな感じで迫られるタイプなの?
完全に頭の中はパニックだった。
こんな状況に持ち込まれてしまったのは完全に私のミステイクだ。
私は慌てて高橋君の身体を押しのけた。
「わー! えっと、高橋君、酔いすぎ! 酔いすぎだから!」
叫ぶように言う私を高橋君はきょとんとした顔で見つめていた。
……人のことを突然抱き締めておきながらその悪気のない顔は一体なんなのだ。
「……ふふっ」
高橋君はくすくすと笑い始めた。
「た、高橋君!」
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「ごめんごめん、ちょっと悪ふざけしすぎたかな? じゃあな、桑野」
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