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第50話 『え? 悠真、お前なんでそんなにモテてんの?』
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1986年(昭和61年)1月25日(土) PM2:00 <風間悠真>
山本先輩のおっぱいぷるん色気パワーでクソ先輩を撃退してから一週間後、オレ達はいつも通り音楽室で練習をしていた。
「祐介、昼飯まだだろ? ちょっと遅いけど、食おうぜ」
「おう」
高田礼子の弁当は絶品で、このころになると礼子のお弁当を食べるのが当たり前になっていた。
オレはお袋がつくる田舎料理とでも言うんだろうか、稲荷やオニギリに玉子焼き・かまぼこ・焼き魚・揚げ物・煮物・漬物・ 佃煮……。
それが嫌で嫌で仕方がなかった。子供って言うのは何でも他人と比べたがるから、サンドイッチや海老フライ・オムレツ・ハンバーグ・サラダ・から揚げ……。
そういう弁当が食べたくて食べたくて仕方なかった。
純和風の家なのだ。純だ。本当に。カレーを箸ではなくスプーンで食べるものだと、カルチャーショックを受けたくらいだ。そういうのがイジメの対象になったのかもしれない。
黒歴史以外の何物でもない。ただ、今は両親や祖父母の愛は理解できる。
いや、そういうんじゃないんだ。
ただ、羨ましかった。
だから、礼子の弁当はオレの胃袋をガッツリ掴んだんだよな。
祐介にはいつの間にか彼女になっていた黒川小百合が同じく弁当を作っていた。あーこの2人、卒業しても同じ高校にいって、そして大学に行っても行かなくても、そのまま結婚するんだろうな……。
そんな雰囲気を醸し出す、ケンカとは無縁の2人だ。
礼子もそうだが、小百合も洋楽がメチャクチャ好きだという訳ではない。だから長時間その空間にいることは苦痛じゃないかと思うんだが、好きな人と同じ時間を過ごすことの喜びの方が強烈に勝つようだ。
ギターを壁際に立てかけ、机を並べて座る。練習で少し疲れた体に、礼子の弁当箱から漂うから揚げとエビフライの香りが食欲をそそる。今日も美味そうだな。
「いただきます」
向こうの窓際では、祐介と小百合が仲良く弁当を食べていた。
祐介が『うまいぞ、これ』と言うと、小百合は照れくさそうに顔を赤くする。音楽室に差し込む午後の陽光が、4人の弁当箱を優しく照らす。
「うおーっす! 悠真! 祐介! 練習に来てやったぜ!」
オレが祐介と小百合にバレないように礼子の胸をちょんとさわり、いや~もうっ! という礼子の声を聞きながらじゃれあっていると、大声で双子の宇久蓮と弟の宇久湊がドアを開けて入ってきた。
口元にホクロがあるほうが兄貴の宇久蓮だが、蓮のパートであるドラムは音楽室にはない。どうやら練習は湊だけで、蓮はまあ、いつも2人一緒だからという理由だ。
「あれ? 悠真、えーっと、誰かなこの可愛い女子は?」
「え? あ、礼子ね……。オレの大切な人♡」
礼子が顔を赤らめる。
「は?」
蓮(兄・ドラム)が目を丸くする。
「なんでだよ」
湊も珍しく声を荒らげる。
「なんでって……」
「いや、お前らさ」
蓮が不思議そうに首を傾げる。
「同じバンドやってて、なんで俺たちだけ彼女いないんだよ」
「そうそう、ボーカルとベースだけモテるとか、そんなの納得いかねーよ」
? ? ?
「いや、そんな事オレに言われても……な。日ごろの行いじゃね? ね~♡」
オレは礼子に口あーんでミートボールを食べさせてもらう。
「おい、おいおいおい。人が大事な話をしてるときにそれはなんだ! 見せびらかしてんのか! ? いーや! こんなやつの日ごろの行いがいいはずがない!」
横で湊がうんうんとうなずく。
「まあまあ、落ち着けよ。イチャついたのは悪かったよ。でもこればっかりはしょうがないだろう? オレは50年以上の経験が……いや、なんでもない。とにかく小学校から数えて2年近くでやっとなんだよ。バンドは関係ないぞ(その前からだ)」
蓮が口を開きながら両手を広げる。
「2年! ? そんなに付き合ってたのかよ!」
「え? いや、違う違う。礼子と初めてしゃべったのは去年の5月。えーっと要するにだ、オレは小学校の6年の夏ぐらいだったか? ああ、6月だ。6月から準備してやってたんだよ、いろんな事を」
確かに、やってきた。
言葉遣いに気をつけ、立ち居振る舞いを大人っぽくした。挨拶を元気に明るくみんなにして、ウザがられない程度の微妙な距離感を保ったんだ。
イジメっ子には目には目を。どうせ中身は10歳のガキだ。オレを殺す勇気もなけりゃ病院送りにする勇気もない。だからオレは暴力でやり返し、2度と刃向かわないようにした。
最初が肝心なんだよな。
勘違いして欲しくないが、だからと言ってお山の大将を気取ったわけじゃない。
そんなもんはまーったく興味がないからだ。1円にもならないし、オレの目標であるハーレム構築に役には立たない。女ヤンキーに好かれようとは思わないのだ。
そういう積み重ねと、ビジュアルとしてのバンドが重なって今がある。
一言で説明はできないんだ。
腕を組みながら蓮がしかめっ面になった。
「準備って……何だよそれ」
「一言じゃ言えないっていったろ? うーん、例えば……そうだ、礼子。あと、小百合ちゃんも」
オレは2人に向かって聞いた。黒川小百合を小百合ちゃんと呼ぶのは祐介の了解を得ている。
「2人は例えばさあ……どんな男が好き?」
「 「え?」 」
2人とも困った顔をした。礼子はオレの顔をみて、小百合は祐介の顔を見る。
「あ、えーっと例えば……オレ達2人に出会う前だとしたらって事で」
好きな男が目の前にいるのに、どんな男が好きかという質問は愚問だ。答えは『悠真』『祐介』みたいな人に決まっている。
小百合が弁当箱の縁を指先でなぞりながら言う。
「優しい人……でも、芯の強い人が好き……」
まあ祐介はそうだな。いまだにコミュ障は残っているが、小百合に対してはやさしいし、音楽に対しては一本筋が通っている。
礼子も箸を置いてオレの顔を見る。
「私は……誠実で、周りへの気遣いができる人かなあ……」
礼子の顔を見てドキッとしたが、オレは礼子に対しても他の子に対しても誠実だ。自分が言っている事に間違いはない。ハーレムをどう捉えるかは当事者だけの問題だ。
それも踏まえて、周囲には気を遣っているつもりでもある。
「ほら見ろよ。別にバンドのことなんか関係ないだろ?」
オレがそう言うと蓮が音楽室の床を足で強く踏みつける。
「じゃあなんで俺たちはダメなんだよ!」
祐介と目が合ったが、なんとも言えない。
「悠真~♡ 見学に来たよ~あれ? 誰? 新しいバンドのメンバー?」
バレー部の練習が早めに終わった美咲が音楽室に入ってきた。
凪咲「あれ~もう3時だよ~まだ帰らないの?」
純美「新入りさん? 見た事ないけど……こんにちは……」
菜々子「見学に来たよ~まだやってる?」
恵美「悠真くん、今日はあんまり話せなかったから……」
「おいおい悠真君、これはいったいどういう事なのかね?」
蓮と湊が憤怒の表情で仁王立ちになっていた。
次回 第51話 (仮)『実力テストの勉強は個別でマンツーマン(ワンツーワン)レッスン?』
山本先輩のおっぱいぷるん色気パワーでクソ先輩を撃退してから一週間後、オレ達はいつも通り音楽室で練習をしていた。
「祐介、昼飯まだだろ? ちょっと遅いけど、食おうぜ」
「おう」
高田礼子の弁当は絶品で、このころになると礼子のお弁当を食べるのが当たり前になっていた。
オレはお袋がつくる田舎料理とでも言うんだろうか、稲荷やオニギリに玉子焼き・かまぼこ・焼き魚・揚げ物・煮物・漬物・ 佃煮……。
それが嫌で嫌で仕方がなかった。子供って言うのは何でも他人と比べたがるから、サンドイッチや海老フライ・オムレツ・ハンバーグ・サラダ・から揚げ……。
そういう弁当が食べたくて食べたくて仕方なかった。
純和風の家なのだ。純だ。本当に。カレーを箸ではなくスプーンで食べるものだと、カルチャーショックを受けたくらいだ。そういうのがイジメの対象になったのかもしれない。
黒歴史以外の何物でもない。ただ、今は両親や祖父母の愛は理解できる。
いや、そういうんじゃないんだ。
ただ、羨ましかった。
だから、礼子の弁当はオレの胃袋をガッツリ掴んだんだよな。
祐介にはいつの間にか彼女になっていた黒川小百合が同じく弁当を作っていた。あーこの2人、卒業しても同じ高校にいって、そして大学に行っても行かなくても、そのまま結婚するんだろうな……。
そんな雰囲気を醸し出す、ケンカとは無縁の2人だ。
礼子もそうだが、小百合も洋楽がメチャクチャ好きだという訳ではない。だから長時間その空間にいることは苦痛じゃないかと思うんだが、好きな人と同じ時間を過ごすことの喜びの方が強烈に勝つようだ。
ギターを壁際に立てかけ、机を並べて座る。練習で少し疲れた体に、礼子の弁当箱から漂うから揚げとエビフライの香りが食欲をそそる。今日も美味そうだな。
「いただきます」
向こうの窓際では、祐介と小百合が仲良く弁当を食べていた。
祐介が『うまいぞ、これ』と言うと、小百合は照れくさそうに顔を赤くする。音楽室に差し込む午後の陽光が、4人の弁当箱を優しく照らす。
「うおーっす! 悠真! 祐介! 練習に来てやったぜ!」
オレが祐介と小百合にバレないように礼子の胸をちょんとさわり、いや~もうっ! という礼子の声を聞きながらじゃれあっていると、大声で双子の宇久蓮と弟の宇久湊がドアを開けて入ってきた。
口元にホクロがあるほうが兄貴の宇久蓮だが、蓮のパートであるドラムは音楽室にはない。どうやら練習は湊だけで、蓮はまあ、いつも2人一緒だからという理由だ。
「あれ? 悠真、えーっと、誰かなこの可愛い女子は?」
「え? あ、礼子ね……。オレの大切な人♡」
礼子が顔を赤らめる。
「は?」
蓮(兄・ドラム)が目を丸くする。
「なんでだよ」
湊も珍しく声を荒らげる。
「なんでって……」
「いや、お前らさ」
蓮が不思議そうに首を傾げる。
「同じバンドやってて、なんで俺たちだけ彼女いないんだよ」
「そうそう、ボーカルとベースだけモテるとか、そんなの納得いかねーよ」
? ? ?
「いや、そんな事オレに言われても……な。日ごろの行いじゃね? ね~♡」
オレは礼子に口あーんでミートボールを食べさせてもらう。
「おい、おいおいおい。人が大事な話をしてるときにそれはなんだ! 見せびらかしてんのか! ? いーや! こんなやつの日ごろの行いがいいはずがない!」
横で湊がうんうんとうなずく。
「まあまあ、落ち着けよ。イチャついたのは悪かったよ。でもこればっかりはしょうがないだろう? オレは50年以上の経験が……いや、なんでもない。とにかく小学校から数えて2年近くでやっとなんだよ。バンドは関係ないぞ(その前からだ)」
蓮が口を開きながら両手を広げる。
「2年! ? そんなに付き合ってたのかよ!」
「え? いや、違う違う。礼子と初めてしゃべったのは去年の5月。えーっと要するにだ、オレは小学校の6年の夏ぐらいだったか? ああ、6月だ。6月から準備してやってたんだよ、いろんな事を」
確かに、やってきた。
言葉遣いに気をつけ、立ち居振る舞いを大人っぽくした。挨拶を元気に明るくみんなにして、ウザがられない程度の微妙な距離感を保ったんだ。
イジメっ子には目には目を。どうせ中身は10歳のガキだ。オレを殺す勇気もなけりゃ病院送りにする勇気もない。だからオレは暴力でやり返し、2度と刃向かわないようにした。
最初が肝心なんだよな。
勘違いして欲しくないが、だからと言ってお山の大将を気取ったわけじゃない。
そんなもんはまーったく興味がないからだ。1円にもならないし、オレの目標であるハーレム構築に役には立たない。女ヤンキーに好かれようとは思わないのだ。
そういう積み重ねと、ビジュアルとしてのバンドが重なって今がある。
一言で説明はできないんだ。
腕を組みながら蓮がしかめっ面になった。
「準備って……何だよそれ」
「一言じゃ言えないっていったろ? うーん、例えば……そうだ、礼子。あと、小百合ちゃんも」
オレは2人に向かって聞いた。黒川小百合を小百合ちゃんと呼ぶのは祐介の了解を得ている。
「2人は例えばさあ……どんな男が好き?」
「 「え?」 」
2人とも困った顔をした。礼子はオレの顔をみて、小百合は祐介の顔を見る。
「あ、えーっと例えば……オレ達2人に出会う前だとしたらって事で」
好きな男が目の前にいるのに、どんな男が好きかという質問は愚問だ。答えは『悠真』『祐介』みたいな人に決まっている。
小百合が弁当箱の縁を指先でなぞりながら言う。
「優しい人……でも、芯の強い人が好き……」
まあ祐介はそうだな。いまだにコミュ障は残っているが、小百合に対してはやさしいし、音楽に対しては一本筋が通っている。
礼子も箸を置いてオレの顔を見る。
「私は……誠実で、周りへの気遣いができる人かなあ……」
礼子の顔を見てドキッとしたが、オレは礼子に対しても他の子に対しても誠実だ。自分が言っている事に間違いはない。ハーレムをどう捉えるかは当事者だけの問題だ。
それも踏まえて、周囲には気を遣っているつもりでもある。
「ほら見ろよ。別にバンドのことなんか関係ないだろ?」
オレがそう言うと蓮が音楽室の床を足で強く踏みつける。
「じゃあなんで俺たちはダメなんだよ!」
祐介と目が合ったが、なんとも言えない。
「悠真~♡ 見学に来たよ~あれ? 誰? 新しいバンドのメンバー?」
バレー部の練習が早めに終わった美咲が音楽室に入ってきた。
凪咲「あれ~もう3時だよ~まだ帰らないの?」
純美「新入りさん? 見た事ないけど……こんにちは……」
菜々子「見学に来たよ~まだやってる?」
恵美「悠真くん、今日はあんまり話せなかったから……」
「おいおい悠真君、これはいったいどういう事なのかね?」
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