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第59話 『テスト終わりとスカートの丈』
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1986年(昭和61年)3月6日(木)
春風が中庭の桜の蕾を揺らす3月初旬。期末テストがようやく終わり、1年生たちの間で春休みへの期待が高まっていた。
「やっと終わった~!」
教室で伸びをする悠真の横で、菜々子が笑顔を見せた。
悠真は立ち上がり、隣の菜々子の後ろに回ってそのポニーテールを軽くつまむ。
「も~、やめてよ!」
菜々子は頬をふくらませるが、表情はどこか楽しげだ。その仕草を見て悠真は少し得意げな顔をすると、くるくるっとポニーテールをなでてから、隣の恵美の方へふらりと歩いていった。
「次は恵美の番だな」
「えっ、なにする気?」
恵美が警戒しつつも笑いをこらえるような声を上げると、悠真はすっと手を伸ばして彼女の短めのポニーテールを触った。菜々子とはまた違う手触りと、ふわりとした別の香りがした。
「なんか、菜々子の髪よりしっかりしてる気がする。こっちは、さっぱり系だな」
「どっちでもいいでしょ~」
恵美が笑いながら軽く悠真の手を払いのける。悠真の無邪気な行動に文句を言いながらも、どこか悪い気はしていない様子だ。
「悠真ってば、本当に落ち着きがないんだから」
菜々子はそう言いながらも目元が緩んでいる。二人ともどこか満足げだ。
「菜々子、明日から制服の春服に変わるけど、スカートの丈はどうする?」
隣の席の恵美が尋ねた。春の衣替えを控え、女子たちの間では制服の着こなしが話題になっていた。
「え、そうだね……」
菜々子は少し考え込む。これまで校則通りの丈で着ていた制服だが、最近になって悠真の視線を意識するようになっていた。他の女子たちと比べて、自分の魅力をもっとアピールできないものかと、密かに思案していたのだ。
「私、ちょっと短くしようかな……」
菜々子の言葉に、恵美は少し驚いた様子を見せる。
「へぇ~、菜々子がそんなこと考えるなんて珍しいね」
実は菜々子には秘密の計画があった。
春休み前のこの時期に、少しでも悠真の目を引きたい。木曜日の下校時間は他の女子たちの邪魔が入らない。その時間を利用して、もっと悠真と仲良くなりたいと考えていたのだ。
放課後、菜々子は卓球部の活動を早めに切り上げ、更衣室で制服に着替えていた。明日から春服になるというのに、今日は少し肌寒い。菜々子は制服の上着の下に薄手のカーディガンを着込んでいる。
「あれ、菜々子? もう帰るの?」
同じ卓球部の恵美が声をかけてきた。
「うん。木曜日だから」
「あ、そうだったね」
恵美は分かっているという顔で微笑む。木曜日は菜々子と悠真が一緒に帰る日。それはもう、6人(美咲・凪咲・純美・礼子・菜々子・恵美)の中で自然な風景として定着していた。
木曜日は菜々子が、金曜日は恵美がなんらかの理由をつけて部活を早退するときがある。バレー部でもあるのだろう。それは悠真との下校の時間を少しでも増やすためだ。
音楽室の前を通りかかると、中からギターの音が聞こえてくる。悠真と祐介の練習の音だ。菜々子は下駄箱の前で待つことにした。
「お待たせ!」
いつもの声に振り返ると、悠真が軽く手を振りながらやってきた。
「練習、終わったの?」
「ああ。祐介、なかなかいい演奏してたよ。さすが才能はあるな! はっはっは~」
悠真は上履きを履き替えながら、楽しそうに話す。菜々子は今朝の出来事を思い出していた。悠真に髪を触られた時の、あの気恥ずかしさと嬉しさが混ざったような感覚。
二人で校門を出るといつもの木曜日の風景が続いているが、今日は少し違う。菜々子の心の中で、明日からの制服のことが大きく膨らんでいた。
「ねぇ、悠真」
「ん?」
「明日から春服なんだけど……」
「ああ、そう言や衣替えだったね」
「私ね、スカートの丈、ちょっと短くしようかなって」
言いながら、菜々子は悠真の反応を窺う。
「へぇ。菜々子らしくないね」
悠真が笑う。その笑顔に、菜々子の心が躍る。
「だって……」
言葉が詰まる。だって、あなたに見てほしいから。そんな本音は言えない。
夕暮れの通学路には二人の影が長く伸びて、ときどき重なる。
「菜々子」
悠真が急に真剣な顔になる。
「なに?」
「朝、髪の毛触ったの、怒ってた?」
「ううん、全然」
菜々子は首を振る。むしろ嬉しかった、なんて言えるはずもない。
「ちょっと寄っていく?」
シーサイドモールの前での悠真の提案に、菜々子はうなずいた。
店内で新しいノートを選びながら、悠真は商品棚の狭い通路で、意図的に菜々子の背中に触れる。制服の上からだが、その接触に菜々子は小さく息をのむ。
「このノート、字が書きやすいよ」
後ろから覗き込むような体勢で悠真が言う。その姿勢のまま、自然を装って菜々子の肩に手を置く。
「見てみて」
悠真は菜々子の後ろから体をぴったりとくっつけて、腕を覆い被せるようにして手でノートのページをめくる。どう考えても意図的な接触に、菜々子の心臓が大きく跳ねた。
「う、うん……」
緊張で声がうわずる。でも、この距離感が心地よい。狭い通路を出る時も、悠真は自然な流れを装って菜々子の背中に手を添えた。
「ごめん、ちょっと通路が狭くて」
言葉とは裏腹にその接触はどう考えても意図的で、レジに向かう間も悠真は何度か菜々子の制服に触れる。さりげない仕草の中に、確かな意図を感じる。菜々子は内心ドキドキしながらも、この距離感を楽しんでいた。
手を握って、肩を抱いた。ハグをしてキスをして、当たり前のようにボティタッチしてくる。菜々子はそれを恥ずかしがりながらも喜び、悠真との親密度の高まりを感じるのであった。
次回予告 第60話『3年生を送る会』
春風が中庭の桜の蕾を揺らす3月初旬。期末テストがようやく終わり、1年生たちの間で春休みへの期待が高まっていた。
「やっと終わった~!」
教室で伸びをする悠真の横で、菜々子が笑顔を見せた。
悠真は立ち上がり、隣の菜々子の後ろに回ってそのポニーテールを軽くつまむ。
「も~、やめてよ!」
菜々子は頬をふくらませるが、表情はどこか楽しげだ。その仕草を見て悠真は少し得意げな顔をすると、くるくるっとポニーテールをなでてから、隣の恵美の方へふらりと歩いていった。
「次は恵美の番だな」
「えっ、なにする気?」
恵美が警戒しつつも笑いをこらえるような声を上げると、悠真はすっと手を伸ばして彼女の短めのポニーテールを触った。菜々子とはまた違う手触りと、ふわりとした別の香りがした。
「なんか、菜々子の髪よりしっかりしてる気がする。こっちは、さっぱり系だな」
「どっちでもいいでしょ~」
恵美が笑いながら軽く悠真の手を払いのける。悠真の無邪気な行動に文句を言いながらも、どこか悪い気はしていない様子だ。
「悠真ってば、本当に落ち着きがないんだから」
菜々子はそう言いながらも目元が緩んでいる。二人ともどこか満足げだ。
「菜々子、明日から制服の春服に変わるけど、スカートの丈はどうする?」
隣の席の恵美が尋ねた。春の衣替えを控え、女子たちの間では制服の着こなしが話題になっていた。
「え、そうだね……」
菜々子は少し考え込む。これまで校則通りの丈で着ていた制服だが、最近になって悠真の視線を意識するようになっていた。他の女子たちと比べて、自分の魅力をもっとアピールできないものかと、密かに思案していたのだ。
「私、ちょっと短くしようかな……」
菜々子の言葉に、恵美は少し驚いた様子を見せる。
「へぇ~、菜々子がそんなこと考えるなんて珍しいね」
実は菜々子には秘密の計画があった。
春休み前のこの時期に、少しでも悠真の目を引きたい。木曜日の下校時間は他の女子たちの邪魔が入らない。その時間を利用して、もっと悠真と仲良くなりたいと考えていたのだ。
放課後、菜々子は卓球部の活動を早めに切り上げ、更衣室で制服に着替えていた。明日から春服になるというのに、今日は少し肌寒い。菜々子は制服の上着の下に薄手のカーディガンを着込んでいる。
「あれ、菜々子? もう帰るの?」
同じ卓球部の恵美が声をかけてきた。
「うん。木曜日だから」
「あ、そうだったね」
恵美は分かっているという顔で微笑む。木曜日は菜々子と悠真が一緒に帰る日。それはもう、6人(美咲・凪咲・純美・礼子・菜々子・恵美)の中で自然な風景として定着していた。
木曜日は菜々子が、金曜日は恵美がなんらかの理由をつけて部活を早退するときがある。バレー部でもあるのだろう。それは悠真との下校の時間を少しでも増やすためだ。
音楽室の前を通りかかると、中からギターの音が聞こえてくる。悠真と祐介の練習の音だ。菜々子は下駄箱の前で待つことにした。
「お待たせ!」
いつもの声に振り返ると、悠真が軽く手を振りながらやってきた。
「練習、終わったの?」
「ああ。祐介、なかなかいい演奏してたよ。さすが才能はあるな! はっはっは~」
悠真は上履きを履き替えながら、楽しそうに話す。菜々子は今朝の出来事を思い出していた。悠真に髪を触られた時の、あの気恥ずかしさと嬉しさが混ざったような感覚。
二人で校門を出るといつもの木曜日の風景が続いているが、今日は少し違う。菜々子の心の中で、明日からの制服のことが大きく膨らんでいた。
「ねぇ、悠真」
「ん?」
「明日から春服なんだけど……」
「ああ、そう言や衣替えだったね」
「私ね、スカートの丈、ちょっと短くしようかなって」
言いながら、菜々子は悠真の反応を窺う。
「へぇ。菜々子らしくないね」
悠真が笑う。その笑顔に、菜々子の心が躍る。
「だって……」
言葉が詰まる。だって、あなたに見てほしいから。そんな本音は言えない。
夕暮れの通学路には二人の影が長く伸びて、ときどき重なる。
「菜々子」
悠真が急に真剣な顔になる。
「なに?」
「朝、髪の毛触ったの、怒ってた?」
「ううん、全然」
菜々子は首を振る。むしろ嬉しかった、なんて言えるはずもない。
「ちょっと寄っていく?」
シーサイドモールの前での悠真の提案に、菜々子はうなずいた。
店内で新しいノートを選びながら、悠真は商品棚の狭い通路で、意図的に菜々子の背中に触れる。制服の上からだが、その接触に菜々子は小さく息をのむ。
「このノート、字が書きやすいよ」
後ろから覗き込むような体勢で悠真が言う。その姿勢のまま、自然を装って菜々子の肩に手を置く。
「見てみて」
悠真は菜々子の後ろから体をぴったりとくっつけて、腕を覆い被せるようにして手でノートのページをめくる。どう考えても意図的な接触に、菜々子の心臓が大きく跳ねた。
「う、うん……」
緊張で声がうわずる。でも、この距離感が心地よい。狭い通路を出る時も、悠真は自然な流れを装って菜々子の背中に手を添えた。
「ごめん、ちょっと通路が狭くて」
言葉とは裏腹にその接触はどう考えても意図的で、レジに向かう間も悠真は何度か菜々子の制服に触れる。さりげない仕草の中に、確かな意図を感じる。菜々子は内心ドキドキしながらも、この距離感を楽しんでいた。
手を握って、肩を抱いた。ハグをしてキスをして、当たり前のようにボティタッチしてくる。菜々子はそれを恥ずかしがりながらも喜び、悠真との親密度の高まりを感じるのであった。
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