聖女の力を姉に譲渡し国を出て行った元聖女は実は賢者でした~隣国の後宮で自重せずに生きていこうと思います~

高井繭来

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2章

【236話】

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 タ―――――ッン!

 軽い銃声音が鈴蘭たちから離れた位置で聞こえた。
 そして同時に鈴蘭が拳を天に翳していた。

「え、何かあったの!?」

 ユラがオロオロと周りを見渡す。
 何処にも人影はないし、何故鈴蘭が拳を掲げているのか分からない。

(え~と我が一生に一片の悔いなし?)

「ユラ姉ちゃん多分違うで」

 ユラの心を見透かしたミヤハルがユラに突っ込みを入れた。
 流石は血縁者。
 ユラの考えをトレースる事などミヤハルには容易い事だ。

「ふむ、700ヤードはありそうな距離から私の脳天を狙ってきたな。大した腕だ」

 鈴蘭が拳を開く。

 ポトリ

 その手から銃の弾が落ちてきた。

「鈴蘭大丈夫か?」

「心配するなマオ、何処も怪我してはいない。それにしても真っ先に私を狙うとはやるではないか。これだけ大人が居る中で、標準を完全に私に定めて来た。
私がこのチームのリーダーだと見抜いた上だろう。
気配の消し方も上々。並みの人間なら標準を合わせる時点で殺気が漏れるが、この相手は撃つ瞬間ですら殺気が無かった。
虫のような殺意だな。
殺すことに躊躇が無いしそれに力を入れることも無い。ただ殺す、その動作を機械的にやって見せたのだろう。
相手がどんな人物か見るのが楽しみになった」

「え、と、つまり鈴蘭君が誰かに撃たれた訳?」

「おん、大分離れた位置からや。ウチも音を拾うまで気付かんかったわ。その弾を掴んで止めてしまう鈴蘭さんは相手以上に化け物やけど」

「ミヤハル、大物と言え。私は化け物ではないぞ?」

「鈴蘭さん、もっと自分のスペック認識してから反論してんか」

 うんうん、とチームの他の者たちも頷いている。
 だが鈴蘭の行動でチームの士気は上がった。
 鈴蘭が居れば「虫のような殺意の狙撃手」ですら赤子の手を捻る様なものなのだと見て思ったのだ。
 そして少し前にミヤハルが言った「人間の気配は1人」と言う言葉。
 つまり敵は狙撃した人物1人だけだ。
 それなら駐屯地で悲惨な目に合う事は無いだろう。

「狙撃手には手こずらないが、建物には小動物、と言うより「小型の魔獣」が群れで居ることを忘れるな。私は己とマオを中心的に守る。
皆は己の身は己で護れ。おんぶ抱っこの足手まといは必要ないぞ?」

 安心した矢先冷たい言葉が飛んできた。
 全員を護ることなんて容易い事であろうに、鈴蘭は何時もこうして自分の身を自分で護れるよう突き放すのだ。
 鈴蘭が居なくてもやっていけるように、と言う事なのだが鈴蘭が居なくなるだなんて思っていない皆にしては鈴蘭の行動は冷たい物に見える。
 だがやはり鈴蘭は常識外れの能力を持っている。
 突き放されても、邪険にされない範囲で傍に居たいと思うのが皆の考えなのである。

 今は魔獣や魔物としか戦っていない。
 だが何時か崩壊の時のように「神」、またはそれに連なる者のような輩が地上に現れないとは限らない。
 そうなると普通の人間ではひとたまりも無いだろう。
 
 鈴蘭なら神すら殺せる。

 そう思うから皆鈴蘭に着いてくるのだ。

「ミヤハル、狙撃手の相手は任せて良いか?」

「おん、人相手の実践は初めてやけど頑張るわ。で、生きたまま連れてきた方が良いん?」

 もう1人、神をも殺せそうな人物がいた。
 ミヤハルである。
 今も鈴蘭の指示を受けて、中々の実力者でありそうな狙撃手を殺す気満々で居た。
 殺意が半端ない。
 普通相手を任されたからと言って殺すことまで視野に入れるだあろうか?
 それもおそらく人間ー同族が相手である。
 
「ミヤハルちゃん、女の子なんだから無理したら駄目だからね。綺麗な顔に傷なんてついたら私泣くわよ!」

「おん、心配しんときユラ姉ちゃん。穏便に解決するわ」

 ミヤハルの殺意満々の言葉に引いていたチームの皆の心が解れる。
 ユラがミヤハルを普通の女の子として扱うからだ。
 力がどれだけあってもユラはミヤハルを大切な姪として扱う。
 護られる側なのに、ユラの心は何時もミヤハルを護ろうとする。
 だから皆、ミヤハルの異質さを恐れずにいられるのだ。

「ユラさんを連れて来て正解だったな鈴蘭」

「あぁ、ミヤハルだけではチーム内で孤立しそうでな。本当に人の心に入り込むのが上手い人だよユラさんは。ドラジュもそんなところに惹かれたのであろうな」

「ドラジュ…早く会いたいな………」

「会えるさ、きっともう少しだ」

「予知か?」

「まだ予感程度だが、ここで何かが変わる。私たちに都合の良い方へ変わると信じて居よう」

「分かった」

 鈴蘭とマオが顔を近づけて小声で話す。
 聞き取れているのはミヤハルくらいだろう。
 闘気で身体強化されているので聴力も強化されているのだ。

 別々の騎獣に乗った2人が身を寄せ合って話している姿は倒錯的だ。
 美少年と美形の男性が今にも口付けしそうな距離で話している。
 絵力が凄くて周りはゴクリと唾を飲む。
 何か見てはいけないものを見ている気分になるのだ。

「美少年×美形男性おいしい(*´Д`)ハァハァ」

「うん、ユラ姉ちゃん落ち着こうな。どうどう」

 こっちでもこっそり腐った会話がされていたが、鈴蘭たちが目立ってくれるおかげでミヤハルとユラのお腐れ様については、チーム内では浸透しないでいた。
 それについてミヤハルは心の中で多大に鈴蘭とマオに感謝している。

 自分の叔母がチーム内で腫れもの扱いされるのを危惧しているのだ。
 ユラは腐っているところさえなければ天然気質の美女だ。
 チームの男性陣にも人気がある。
 どうかこれからもユラが皆に快く受け入れられるよう、悪いが鈴蘭とマオには目立っていてもらおうと思うミヤハルだった。
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