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第一章 剣の刺さった狼犬
1話 500年後
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「……」
津波のように押し寄せてきた疲労感により、壁を背にして座り込んでしまう。
嘔吐したため、喉が焼けるように熱い上、喉がカラカラだ。水が欲しいが、スクールバックの中にある為、持っていない。
……あ、あの化け物はなんでしょうか? ど、どうして、私を攻撃しなかったのでしょうか? 興味が無かったからなのでしょうか? なんにしても、襲われなくてよかったです……もし襲われてたら……
頭の潰れた男子生徒を思い出して、震えあがってしまう。
あ、あの人、頭が潰れていてどう考えても致命傷なはずなのに、生きていましたね……化け物のせいでしょうか?
そもそも、本当にここ何処でしょうか? 地球なのでしょうか? まさか流行りの異世界転生ですか? そんなわけないですよね……
ここで待っていても、救助が来る確率は極めて低いと思いますし、怖いですけど、動くしかないですね……それに、吐いてしまって喉がカラカラです……脱水症状を発症するかもしれませんし……
立ち上がって、暗いトンネルの前に待つ。
確か、化け物が来た道の他に進むところがあったはずです……
「……ッ!」
足がすくむ。嫌でも化け物の存在が脳裏に焼き付き、恐怖に叩きつけられる。
激しく鼓動する胸を抑えながら、ゆっくり呼吸を整える。
す、進まないと……!
意を決して震える足で踏み込む。
スマホのライトをつけるのは怖かったが、自分の手先すらも見えない為、やむを得ず、ライトをつける。
一歩一歩、最大限音を出さない様に意識する。しかし、それでも僅かに足音や呼吸音が洞窟中に響く。今にもライトの先からあの化け物と出くわしそうだ。
一歩一歩進むごとに、自分の寿命が削り取られている。そんな気が狂いそうな感覚が体中に突き刺さる。
ゆっくり進んでいると、ライトの先に血だまりと肉片が転がっているのが見える。
どうやら、化け物と出くわした所にたどり着いたようだ。
鉄臭い血の匂いが鼻に吸い付く……
そして、記憶通り血が垂れている道と、そうではない道の二手に分かれている事に気が付く。
血が垂れている方は化け物が進んだ方向です……必然的にこっちになりますね……
血が垂れていない方の道を進むと光が見える。
あれは……!
歩く速度を上げる。
草や花が広がる中心に小さな池がある。曇り空だが、上から光が差し込んでいて幻想的だ。
水面に顔を近づける。
底まで見える程の透き通っている水だ。
濁っていないので、飲めそうではありますが……あ、小魚さんが泳いでいます!
一匹の金魚のような黒い小魚が水面近くで泳いでいるのが見える。
なら、大丈夫そうですね! 動物にとっても害は無いという事ですし!
池の中に手を入れる。
程よく冷たくて気持ち良さを感じた。
手で水をすくって口の中に入れると、一気に喉が潤される。
美味しいです……飲めてよかったです……
水を飲んだお陰か、多少緊張感が和らぐ。
……にしても、この小魚さん逃げようとしないですね。ずっと浅瀬で泳いでいます。私でも捕まえられそうですが、捕まえた所で調理できないですし、保留にしましょうか。
立ち上がって、周りを見渡す。
他に出口があればいいのですが……ん? あれは……?
陰で良く見えないが、大きな何かがあるのが見える。
スマホのライトで照らす。
「……ッ!?」
思わず息を飲む。
それは、雨風にさらされて相当放置されたかのようなボロボロの服を着ている。茶色く色あせて、所々に亀裂が走っている頭蓋骨が天井を向いていた。
じ、人骨……!? 完全に白骨化しているようですね……
一瞬、驚いたりしたが、自分でも驚くほど冷静だ。
いつもでしたら、直ぐに警察ですが、こんな状況ですからね。いつ、この人の仲間になるか分からないです……
ん? これは……?
よく見たら白骨化した腕に何かが巻き付いている。
それは、腕時計にも見えるが、時間を表示している物は無く、代わりに中央に小さな突起物がある。
腕時計でしょうか? それにしては、針もないですし……ですが、どうしてでしょうか? なぜか既視感を感じます……
気になりますが、死体損害罪に問われるのもありますし、なのより倫理的に……いいえ、そんなこと気にしている場合ではありませんよね……もしかしたら、何か役に立つかもしれませんし……失礼します!
心が重くなるのを感じながら、それを慎重に取り出そうとする。しかし、少し触れただけで、片腕の骨が音を立てながらバラバラに崩れた。
「……」
申し訳ないです……
より心が重くなる。
土汚れを手で拭き取り、腕に巻き付いていたものを見る。
腕時計にも見えるが、やはり時間を表示している物は無く、透明な小さなカプセル状のケース内に黒い結晶の様なものが浮遊している。
なんでしょうか? 初めて見るはずなのに、やっぱり既視感があります……
それをなんとなく、腕時計の様に腕に付ける。
「……!?」
思わず、目を見開く。
突然、突起物を中心に、画面が広がる。スマホの画面が浮いている様だ。
き、起動しました!?
見たことのない文字が表示される。
何語でしょうか? ですが……『ようこそ、市民番号A─1番』と書いてありますね。私の能力はここでも通じるようですね……
市民番号? なんでしょうか? まるでSF映画みたいですね……
『バージョン更新中』と表示される……が、『電波が確認できません。更新に失敗しました』と表示されて切り替わる。
透明な画面に様々なアプリケーションが表示される。
凄い技術ですね……ここはやはり異世界なのでしょうか?
何か現状を変える方法がないか、色々調べてみましょう。あ、ボイスレコーダーがありますね。何かないですかね……
とりあえず画面をタッチすると、再生ボタンが表示される。
一軒だけ、あるようですね。日付が……えっ!?
2522/4/23と表示されている。
何度か見直すが見間違いではない。
2522年……500年後の世界という事ですか? つまり、ここは未来の世界という事ですか!? それなら、この技術も納得ですが……いや、決めつけるのは早いです。これだけで地球と判断するのは根拠が薄いです……
とりあえず、再生ボタンを押す。
聞いたことのない言語の音声が流れるが、読み取ることが出来た。
「ここに逃げ込んで一週間は経ち、食料も水も尽きた。そして唯一の出入り口には化け物が住み着いた。ジェイブの話によると、あの化け物には視力は無く、音だけを頼りにしているそうだ。実際それで、あいつはここから逃げれたそうだが、冗談じゃねえ。ここから逃げた所でなんの希望がある? 化け物に掴まれば、苦しみ続けることになる。それならここでくたばった方がましだ。『天使の雫』でおれは永遠の眠りにつくことにしよう。もし、このメッセージを聞いている物がいたら、俺が化け物になる前に、火葬して欲しい。では、さよならだ」
ここで再生は終了した。
『天使の雫』……毒薬か何かでしょうか? それにしても、この人が完全に白骨化になるまで相当な時間が経っているのに化け物は生きているんですね……
よく考えたら、いくら500年後の世界とはいえ、あの化け物の存在はおかしいです。よって、私の知っている地球とは違うパラレルワールドだと思った方がいいでしょう……
あの化け物には視力が無かったそうですね。だから、私は襲われなかったんですか。ですが、もしここから出るとなると、あの化け物のそばを通る事になるんですよね……
心が鉛が乗っているかのように重くなる。
津波のように押し寄せてきた疲労感により、壁を背にして座り込んでしまう。
嘔吐したため、喉が焼けるように熱い上、喉がカラカラだ。水が欲しいが、スクールバックの中にある為、持っていない。
……あ、あの化け物はなんでしょうか? ど、どうして、私を攻撃しなかったのでしょうか? 興味が無かったからなのでしょうか? なんにしても、襲われなくてよかったです……もし襲われてたら……
頭の潰れた男子生徒を思い出して、震えあがってしまう。
あ、あの人、頭が潰れていてどう考えても致命傷なはずなのに、生きていましたね……化け物のせいでしょうか?
そもそも、本当にここ何処でしょうか? 地球なのでしょうか? まさか流行りの異世界転生ですか? そんなわけないですよね……
ここで待っていても、救助が来る確率は極めて低いと思いますし、怖いですけど、動くしかないですね……それに、吐いてしまって喉がカラカラです……脱水症状を発症するかもしれませんし……
立ち上がって、暗いトンネルの前に待つ。
確か、化け物が来た道の他に進むところがあったはずです……
「……ッ!」
足がすくむ。嫌でも化け物の存在が脳裏に焼き付き、恐怖に叩きつけられる。
激しく鼓動する胸を抑えながら、ゆっくり呼吸を整える。
す、進まないと……!
意を決して震える足で踏み込む。
スマホのライトをつけるのは怖かったが、自分の手先すらも見えない為、やむを得ず、ライトをつける。
一歩一歩、最大限音を出さない様に意識する。しかし、それでも僅かに足音や呼吸音が洞窟中に響く。今にもライトの先からあの化け物と出くわしそうだ。
一歩一歩進むごとに、自分の寿命が削り取られている。そんな気が狂いそうな感覚が体中に突き刺さる。
ゆっくり進んでいると、ライトの先に血だまりと肉片が転がっているのが見える。
どうやら、化け物と出くわした所にたどり着いたようだ。
鉄臭い血の匂いが鼻に吸い付く……
そして、記憶通り血が垂れている道と、そうではない道の二手に分かれている事に気が付く。
血が垂れている方は化け物が進んだ方向です……必然的にこっちになりますね……
血が垂れていない方の道を進むと光が見える。
あれは……!
歩く速度を上げる。
草や花が広がる中心に小さな池がある。曇り空だが、上から光が差し込んでいて幻想的だ。
水面に顔を近づける。
底まで見える程の透き通っている水だ。
濁っていないので、飲めそうではありますが……あ、小魚さんが泳いでいます!
一匹の金魚のような黒い小魚が水面近くで泳いでいるのが見える。
なら、大丈夫そうですね! 動物にとっても害は無いという事ですし!
池の中に手を入れる。
程よく冷たくて気持ち良さを感じた。
手で水をすくって口の中に入れると、一気に喉が潤される。
美味しいです……飲めてよかったです……
水を飲んだお陰か、多少緊張感が和らぐ。
……にしても、この小魚さん逃げようとしないですね。ずっと浅瀬で泳いでいます。私でも捕まえられそうですが、捕まえた所で調理できないですし、保留にしましょうか。
立ち上がって、周りを見渡す。
他に出口があればいいのですが……ん? あれは……?
陰で良く見えないが、大きな何かがあるのが見える。
スマホのライトで照らす。
「……ッ!?」
思わず息を飲む。
それは、雨風にさらされて相当放置されたかのようなボロボロの服を着ている。茶色く色あせて、所々に亀裂が走っている頭蓋骨が天井を向いていた。
じ、人骨……!? 完全に白骨化しているようですね……
一瞬、驚いたりしたが、自分でも驚くほど冷静だ。
いつもでしたら、直ぐに警察ですが、こんな状況ですからね。いつ、この人の仲間になるか分からないです……
ん? これは……?
よく見たら白骨化した腕に何かが巻き付いている。
それは、腕時計にも見えるが、時間を表示している物は無く、代わりに中央に小さな突起物がある。
腕時計でしょうか? それにしては、針もないですし……ですが、どうしてでしょうか? なぜか既視感を感じます……
気になりますが、死体損害罪に問われるのもありますし、なのより倫理的に……いいえ、そんなこと気にしている場合ではありませんよね……もしかしたら、何か役に立つかもしれませんし……失礼します!
心が重くなるのを感じながら、それを慎重に取り出そうとする。しかし、少し触れただけで、片腕の骨が音を立てながらバラバラに崩れた。
「……」
申し訳ないです……
より心が重くなる。
土汚れを手で拭き取り、腕に巻き付いていたものを見る。
腕時計にも見えるが、やはり時間を表示している物は無く、透明な小さなカプセル状のケース内に黒い結晶の様なものが浮遊している。
なんでしょうか? 初めて見るはずなのに、やっぱり既視感があります……
それをなんとなく、腕時計の様に腕に付ける。
「……!?」
思わず、目を見開く。
突然、突起物を中心に、画面が広がる。スマホの画面が浮いている様だ。
き、起動しました!?
見たことのない文字が表示される。
何語でしょうか? ですが……『ようこそ、市民番号A─1番』と書いてありますね。私の能力はここでも通じるようですね……
市民番号? なんでしょうか? まるでSF映画みたいですね……
『バージョン更新中』と表示される……が、『電波が確認できません。更新に失敗しました』と表示されて切り替わる。
透明な画面に様々なアプリケーションが表示される。
凄い技術ですね……ここはやはり異世界なのでしょうか?
何か現状を変える方法がないか、色々調べてみましょう。あ、ボイスレコーダーがありますね。何かないですかね……
とりあえず画面をタッチすると、再生ボタンが表示される。
一軒だけ、あるようですね。日付が……えっ!?
2522/4/23と表示されている。
何度か見直すが見間違いではない。
2522年……500年後の世界という事ですか? つまり、ここは未来の世界という事ですか!? それなら、この技術も納得ですが……いや、決めつけるのは早いです。これだけで地球と判断するのは根拠が薄いです……
とりあえず、再生ボタンを押す。
聞いたことのない言語の音声が流れるが、読み取ることが出来た。
「ここに逃げ込んで一週間は経ち、食料も水も尽きた。そして唯一の出入り口には化け物が住み着いた。ジェイブの話によると、あの化け物には視力は無く、音だけを頼りにしているそうだ。実際それで、あいつはここから逃げれたそうだが、冗談じゃねえ。ここから逃げた所でなんの希望がある? 化け物に掴まれば、苦しみ続けることになる。それならここでくたばった方がましだ。『天使の雫』でおれは永遠の眠りにつくことにしよう。もし、このメッセージを聞いている物がいたら、俺が化け物になる前に、火葬して欲しい。では、さよならだ」
ここで再生は終了した。
『天使の雫』……毒薬か何かでしょうか? それにしても、この人が完全に白骨化になるまで相当な時間が経っているのに化け物は生きているんですね……
よく考えたら、いくら500年後の世界とはいえ、あの化け物の存在はおかしいです。よって、私の知っている地球とは違うパラレルワールドだと思った方がいいでしょう……
あの化け物には視力が無かったそうですね。だから、私は襲われなかったんですか。ですが、もしここから出るとなると、あの化け物のそばを通る事になるんですよね……
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