生存率0%の未来世界からの脱出

UG21

文字の大きさ
4 / 29
第一章 剣の刺さった狼犬

1話 500年後

しおりを挟む
「……」
 津波のように押し寄せてきた疲労感により、壁を背にして座り込んでしまう。

 嘔吐したため、喉が焼けるように熱い上、喉がカラカラだ。水が欲しいが、スクールバックの中にある為、持っていない。

 ……あ、あの化け物はなんでしょうか? ど、どうして、私を攻撃しなかったのでしょうか? 興味が無かったからなのでしょうか? なんにしても、襲われなくてよかったです……もし襲われてたら……

 頭の潰れた男子生徒を思い出して、震えあがってしまう。

 あ、あの人、頭が潰れていてどう考えても致命傷なはずなのに、生きていましたね……化け物のせいでしょうか?

 そもそも、本当にここ何処でしょうか? 地球なのでしょうか? まさか流行りの異世界転生ですか? そんなわけないですよね……

 ここで待っていても、救助が来る確率は極めて低いと思いますし、怖いですけど、動くしかないですね……それに、吐いてしまって喉がカラカラです……脱水症状を発症するかもしれませんし……

 立ち上がって、暗いトンネルの前に待つ。

 確か、化け物が来た道の他に進むところがあったはずです……

「……ッ!」
 足がすくむ。嫌でも化け物の存在が脳裏に焼き付き、恐怖に叩きつけられる。

 激しく鼓動する胸を抑えながら、ゆっくり呼吸を整える。

 す、進まないと……!

 意を決して震える足で踏み込む。

 スマホのライトをつけるのは怖かったが、自分の手先すらも見えない為、やむを得ず、ライトをつける。

 一歩一歩、最大限音を出さない様に意識する。しかし、それでも僅かに足音や呼吸音が洞窟中に響く。今にもライトの先からあの化け物と出くわしそうだ。 

 一歩一歩進むごとに、自分の寿命が削り取られている。そんな気が狂いそうな感覚が体中に突き刺さる。

 ゆっくり進んでいると、ライトの先に血だまりと肉片が転がっているのが見える。

 どうやら、化け物と出くわした所にたどり着いたようだ。

 鉄臭い血の匂いが鼻に吸い付く……

 そして、記憶通り血が垂れている道と、そうではない道の二手に分かれている事に気が付く。

 血が垂れている方は化け物が進んだ方向です……必然的にこっちになりますね……

 血が垂れていない方の道を進むと光が見える。

 あれは……!

 歩く速度を上げる。

 草や花が広がる中心に小さな池がある。曇り空だが、上から光が差し込んでいて幻想的だ。

 水面に顔を近づける。

 底まで見える程の透き通っている水だ。

 濁っていないので、飲めそうではありますが……あ、小魚さんが泳いでいます!

 一匹の金魚のような黒い小魚が水面近くで泳いでいるのが見える。

 なら、大丈夫そうですね! 動物にとっても害は無いという事ですし!

 池の中に手を入れる。

 程よく冷たくて気持ち良さを感じた。

 手で水をすくって口の中に入れると、一気に喉が潤される。

 美味しいです……飲めてよかったです……

 水を飲んだお陰か、多少緊張感が和らぐ。

 ……にしても、この小魚さん逃げようとしないですね。ずっと浅瀬で泳いでいます。私でも捕まえられそうですが、捕まえた所で調理できないですし、保留にしましょうか。

 立ち上がって、周りを見渡す。

 他に出口があればいいのですが……ん? あれは……?

 陰で良く見えないが、大きな何かがあるのが見える。

 スマホのライトで照らす。

「……ッ!?」
 思わず息を飲む。

 それは、雨風にさらされて相当放置されたかのようなボロボロの服を着ている。茶色く色あせて、所々に亀裂が走っている頭蓋骨が天井を向いていた。

 じ、人骨……!? 完全に白骨化しているようですね……

 一瞬、驚いたりしたが、自分でも驚くほど冷静だ。

 いつもでしたら、直ぐに警察ですが、こんな状況ですからね。いつ、この人の仲間になるか分からないです……

 ん? これは……?

 よく見たら白骨化した腕に何かが巻き付いている。

 それは、腕時計にも見えるが、時間を表示している物は無く、代わりに中央に小さな突起物がある。

 腕時計でしょうか? それにしては、針もないですし……ですが、どうしてでしょうか? なぜか既視感を感じます……

 気になりますが、死体損害罪に問われるのもありますし、なのより倫理的に……いいえ、そんなこと気にしている場合ではありませんよね……もしかしたら、何か役に立つかもしれませんし……失礼します!

 心が重くなるのを感じながら、それを慎重に取り出そうとする。しかし、少し触れただけで、片腕の骨が音を立てながらバラバラに崩れた。

「……」
 申し訳ないです……
 より心が重くなる。

 土汚れを手で拭き取り、腕に巻き付いていたものを見る。

 腕時計にも見えるが、やはり時間を表示している物は無く、透明な小さなカプセル状のケース内に黒い結晶の様なものが浮遊している。

 なんでしょうか? 初めて見るはずなのに、やっぱり既視感があります……

 それをなんとなく、腕時計の様に腕に付ける。

「……!?」
 思わず、目を見開く。

 突然、突起物を中心に、画面が広がる。スマホの画面が浮いている様だ。

 き、起動しました!? 

 見たことのない文字が表示される。

 何語でしょうか? ですが……『ようこそ、市民番号A─1番』と書いてありますね。私の能力はここでも通じるようですね……

 市民番号? なんでしょうか? まるでSF映画みたいですね……

 『バージョン更新中』と表示される……が、『電波が確認できません。更新に失敗しました』と表示されて切り替わる。

 透明な画面に様々なアプリケーションが表示される。

 凄い技術ですね……ここはやはり異世界なのでしょうか?

 何か現状を変える方法がないか、色々調べてみましょう。あ、ボイスレコーダーがありますね。何かないですかね……

 とりあえず画面をタッチすると、再生ボタンが表示される。

 一軒だけ、あるようですね。日付が……えっ!?

 2522/4/23と表示されている。

 何度か見直すが見間違いではない。

 2522年……500年後の世界という事ですか? つまり、ここは未来の世界という事ですか!? それなら、この技術も納得ですが……いや、決めつけるのは早いです。これだけで地球と判断するのは根拠が薄いです……

 とりあえず、再生ボタンを押す。

 聞いたことのない言語の音声が流れるが、読み取ることが出来た。

「ここに逃げ込んで一週間は経ち、食料も水も尽きた。そして唯一の出入り口には化け物が住み着いた。ジェイブの話によると、あの化け物には視力は無く、音だけを頼りにしているそうだ。実際それで、あいつはここから逃げれたそうだが、冗談じゃねえ。ここから逃げた所でなんの希望がある? 化け物に掴まれば、苦しみ続けることになる。それならここでくたばった方がましだ。『天使の雫』でおれは永遠の眠りにつくことにしよう。もし、このメッセージを聞いている物がいたら、俺が化け物になる前に、火葬して欲しい。では、さよならだ」

 ここで再生は終了した。

 『天使の雫』……毒薬か何かでしょうか? それにしても、この人が完全に白骨化になるまで相当な時間が経っているのに化け物は生きているんですね……

 よく考えたら、いくら500年後の世界とはいえ、あの化け物の存在はおかしいです。よって、私の知っている地球とは違うパラレルワールドだと思った方がいいでしょう……

 あの化け物には視力が無かったそうですね。だから、私は襲われなかったんですか。ですが、もしここから出るとなると、あの化け物のそばを通る事になるんですよね……

 心が鉛が乗っているかのように重くなる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...