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第一章 剣の刺さった狼犬
7話 自衛隊
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「……!!」
悲鳴を上げる男子生徒の顔を化け物が鉈で叩き潰している。
肉の塊が『助けて』と叫び声を上げている。
嫌です……!
生首が悲鳴を上たり、上半身だけの男がもだえ苦しんでいる。
止めてください……!!
血だらけの犬の化け物が残忍な笑みを浮かべながら私に近づいてくる。
嫌です!! こないでください!!
「……ハッ!?」
息を飲んで目を開ける。
「起きたか、うなされていた様だが、大丈夫か?」
聞きなれた言語、日本語が聞こえる。
私を見下ろしているのは緑色の迷彩服を着た男性だ。やつれてはいるが、力強い目をしている。
「い、一応……」
寝起きで頭の回っていない中、とりあえず返事をした。
「怪我とかしていないか? 痛い所とかは?」
優しく声を掛けて来る。
「ないです……」
上半身を起こす。
やや広い洞窟の中の様だ。周囲に軽く見ただけでも数十人以上の人がいる。
松明を光源にしている様だが、薄暗い。
「良かった。問題ないようだな」
迷彩服の男性は立ち上がる。
「あなたは……もしかして、自衛隊ですか?」
ようやく、頭が回って来た。
「そうだ。発見した民間人を避難させている」
「……!」
ようやく求めていた人物に出会えて、心の底から湧き上がる喜びに打ち震える。
これで、ようやく助かるんですね!
「俺の名は西園寺 秋人(あきと)だ。君は?」
「アールです……!」
笑みが零れてしまう。
「アールちゃんか、さっそくであるが、あそこで何が起きたのか教えてくれないか? 銃声がして駆け付けた時にはその……君が倒れていた」
確かに、説明した方がいいですよね。
「分かりました。実は……」
これまでの経緯を説明する。
しかし、スノーが人肉を食べていたことだけは伏せた。
「なるほど、そんな事が……」
「はい、それで……スノーは見ていませんか?」
「君に懐いてたという巨大な狼犬か……我々がたどり着いた時には居なかったな」
「そうでしたか……」
あの時、最低な事を言いましたよね? 助けてもらったのに、それを拒否してしまいました……
思い出すと、胸が痛くなる。
ですが、人肉を食べたのが……いくら悪人とは言え……流石に……いいえ、これは自分のエゴですね。こんな世界では食料調達も困難かもしれませんし、それに、元の世界と常識が違うんですから仕方ない……
スノーが人の頭を食い潰しているのを思い出す。
「ウッ……!」
胃から込みあがってくる物が飛び出そうになるのを手で押さえる。
「大丈夫か!?」
心配そうに声を掛ける。
「だ、大丈夫です……」
なんとか、喉まで湧き上がっていた物を胃の中まで戻すことに成功する。
ごめんなさい、無理です! もう、考えないようにしましょう……
「そうか……所で、さっき話に上がっていた、スマートウォッチ的な物はそれか?」
私の腕に巻いてある物を指さす。
「そうです。それで、物をスキャン出来たりしました」
「そうなのか!? 見せてくれ!」
これまでのやつれていた表情を吹き飛ばすかのような輝きの表情を浮かべる。
「分かりました……!」
履歴から、適当にあの『ベノムフラワー』でも開いてみましょう。
スマートウォッチ的な物を操作して、秋人に見せる。
「こ、これは……」
一転して眉間に皺を寄せる。
「どうでしょうか? こんな感じなのですが……」
「……本当に読めているのか?」
「そうです」
「……ちょっと来てくれ!」
近くに居たもう一人の自衛官を呼ぶ。
「なんでしょうか?」
「読めるか?」
「読めるですか? そもそも何も見えませんが……?」
不思議そうに首を傾げる。
「……えっ?」
スマートウォッチ的な物の画面を確認するが、はっきりと『ベノムフラワー』についての説明文が見える。
「やっぱりな……ありがとう。元に戻っていいぞ」
「分かりました」
離れていった。
「文字が見えないんですか?」
「……申し訳ないが、俺の目には何も見えない」
明らかに失意の表情を浮かべている。
「そうなんですか!? 画面もですか!?」
信じられず聞き返す。
「画面も何も見えないな……」
「そんな、どうして……!?」
「……もしかしたら、君は疲れているのかもしれない」
憐れむような目で私を見る。
「……!」
確かに疲れてはいますが、これは幻覚にはとても見えません! 幻覚にしてははっきりし過ぎています! ですが……どうして、他に人には何も見えてないのでしょうか!?
「君の寝所はあそこだ」
避難民がいる一番奥を指さす。
「……」
何もない地面ですね……
「すまない、物資が枯渇していてね。寝袋も足りていないんだ……」
私の表情を見て悟ったのか、申し訳なさそうに言う。
「いいえ、大丈夫です。本当にありがとうございます……」
贅沢は言えません、避難民の中には幼い子供もいるようですし……
「洞窟の奥に湧水がある。自由につかっていい。トイレは洞窟の外だ」
「分かりました……所で、私の両親の蒼井零士と蒼井セナを見ていませんか?」
「出入り口に避難民リストというのがある。それで、確認してくれ」
「そうですか……」
「では、失礼する……」
「あ……いつ帰れるのでしょうか?」
「……分からない」
少し沈黙した後に重苦しく答える。
そのまま、避難民の横を通って洞窟の出口に向かっていった。
悲鳴を上げる男子生徒の顔を化け物が鉈で叩き潰している。
肉の塊が『助けて』と叫び声を上げている。
嫌です……!
生首が悲鳴を上たり、上半身だけの男がもだえ苦しんでいる。
止めてください……!!
血だらけの犬の化け物が残忍な笑みを浮かべながら私に近づいてくる。
嫌です!! こないでください!!
「……ハッ!?」
息を飲んで目を開ける。
「起きたか、うなされていた様だが、大丈夫か?」
聞きなれた言語、日本語が聞こえる。
私を見下ろしているのは緑色の迷彩服を着た男性だ。やつれてはいるが、力強い目をしている。
「い、一応……」
寝起きで頭の回っていない中、とりあえず返事をした。
「怪我とかしていないか? 痛い所とかは?」
優しく声を掛けて来る。
「ないです……」
上半身を起こす。
やや広い洞窟の中の様だ。周囲に軽く見ただけでも数十人以上の人がいる。
松明を光源にしている様だが、薄暗い。
「良かった。問題ないようだな」
迷彩服の男性は立ち上がる。
「あなたは……もしかして、自衛隊ですか?」
ようやく、頭が回って来た。
「そうだ。発見した民間人を避難させている」
「……!」
ようやく求めていた人物に出会えて、心の底から湧き上がる喜びに打ち震える。
これで、ようやく助かるんですね!
「俺の名は西園寺 秋人(あきと)だ。君は?」
「アールです……!」
笑みが零れてしまう。
「アールちゃんか、さっそくであるが、あそこで何が起きたのか教えてくれないか? 銃声がして駆け付けた時にはその……君が倒れていた」
確かに、説明した方がいいですよね。
「分かりました。実は……」
これまでの経緯を説明する。
しかし、スノーが人肉を食べていたことだけは伏せた。
「なるほど、そんな事が……」
「はい、それで……スノーは見ていませんか?」
「君に懐いてたという巨大な狼犬か……我々がたどり着いた時には居なかったな」
「そうでしたか……」
あの時、最低な事を言いましたよね? 助けてもらったのに、それを拒否してしまいました……
思い出すと、胸が痛くなる。
ですが、人肉を食べたのが……いくら悪人とは言え……流石に……いいえ、これは自分のエゴですね。こんな世界では食料調達も困難かもしれませんし、それに、元の世界と常識が違うんですから仕方ない……
スノーが人の頭を食い潰しているのを思い出す。
「ウッ……!」
胃から込みあがってくる物が飛び出そうになるのを手で押さえる。
「大丈夫か!?」
心配そうに声を掛ける。
「だ、大丈夫です……」
なんとか、喉まで湧き上がっていた物を胃の中まで戻すことに成功する。
ごめんなさい、無理です! もう、考えないようにしましょう……
「そうか……所で、さっき話に上がっていた、スマートウォッチ的な物はそれか?」
私の腕に巻いてある物を指さす。
「そうです。それで、物をスキャン出来たりしました」
「そうなのか!? 見せてくれ!」
これまでのやつれていた表情を吹き飛ばすかのような輝きの表情を浮かべる。
「分かりました……!」
履歴から、適当にあの『ベノムフラワー』でも開いてみましょう。
スマートウォッチ的な物を操作して、秋人に見せる。
「こ、これは……」
一転して眉間に皺を寄せる。
「どうでしょうか? こんな感じなのですが……」
「……本当に読めているのか?」
「そうです」
「……ちょっと来てくれ!」
近くに居たもう一人の自衛官を呼ぶ。
「なんでしょうか?」
「読めるか?」
「読めるですか? そもそも何も見えませんが……?」
不思議そうに首を傾げる。
「……えっ?」
スマートウォッチ的な物の画面を確認するが、はっきりと『ベノムフラワー』についての説明文が見える。
「やっぱりな……ありがとう。元に戻っていいぞ」
「分かりました」
離れていった。
「文字が見えないんですか?」
「……申し訳ないが、俺の目には何も見えない」
明らかに失意の表情を浮かべている。
「そうなんですか!? 画面もですか!?」
信じられず聞き返す。
「画面も何も見えないな……」
「そんな、どうして……!?」
「……もしかしたら、君は疲れているのかもしれない」
憐れむような目で私を見る。
「……!」
確かに疲れてはいますが、これは幻覚にはとても見えません! 幻覚にしてははっきりし過ぎています! ですが……どうして、他に人には何も見えてないのでしょうか!?
「君の寝所はあそこだ」
避難民がいる一番奥を指さす。
「……」
何もない地面ですね……
「すまない、物資が枯渇していてね。寝袋も足りていないんだ……」
私の表情を見て悟ったのか、申し訳なさそうに言う。
「いいえ、大丈夫です。本当にありがとうございます……」
贅沢は言えません、避難民の中には幼い子供もいるようですし……
「洞窟の奥に湧水がある。自由につかっていい。トイレは洞窟の外だ」
「分かりました……所で、私の両親の蒼井零士と蒼井セナを見ていませんか?」
「出入り口に避難民リストというのがある。それで、確認してくれ」
「そうですか……」
「では、失礼する……」
「あ……いつ帰れるのでしょうか?」
「……分からない」
少し沈黙した後に重苦しく答える。
そのまま、避難民の横を通って洞窟の出口に向かっていった。
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