生存率0%の未来世界からの脱出

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第一章 剣の刺さった狼犬

8話 転送ミス

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「……」
 自衛隊に保護されて一安心だと思いましたが、帰れる目途が立っていないようですね……

 とりあえず、避難民リストを見るために、出口に向かって進みましょう……

 避難民の横を通って気が付く、

 日本人だけではなく、いろんな多国籍の人がいて、誰もが疲労に満ちた表情でやつれている。更に、何日も風呂に入っていないような汗臭い異臭がする事に……

「もう限界だ……」「いつ帰れるんだ?」「お腹すいた……」
 そんな悲壮感のある声も聞こえて来る。

 あれ……? ここの方たちって何時からいるのでしょうか? この状況からするに、昨日今日の状態ではないですよね? 気になりますが、先に避難民リストを見に行きましょう。

 出入り口付近にボードが壁に立て掛けてあった。

 大勢の名前がリスト上にかいてありますが……私の両親も縫子さんもクラスメイトもいないようですね……

 長く深いため息が出る。

 結局、ここにはいないんですか……皆、無事だといいですけど……

 考えれば考える程、心が蝕まれて行く様な痛みが走る。

 敵は化け物だけではなくて、人間もいますしね……

 なんとなく外に出る。

 外は相変わらず濃霧が続いていて、先がほとんど見えない。

 出入り口付近には緑色のテントが張ってあって自衛隊が出入りをしている。更に周囲には鉄条網が張り巡らされていて、その手前付近の深い堀の中に銃で武装した自衛隊が外を見ていた。

 テレビとかで見る自衛隊車両などは無い。

 少しでもこの世界に対する情報が欲しいので、話を聞いてみましょう……

 一歩踏み出した瞬間、上から人の大声が聞こえて来る。

 その声はだんだん近づいていっているようだ。

「……?」
 上を見上げると何かが落ちてきて──

 地面に響く衝撃が走ったと同時に潰れる鈍い音が響く。

 思わず閉じた目を開けると……手足がありえない方に折れ曲がり、頭がぐちゃぐちゃに潰れて原型の無い人らしき物があった。

 ひ、人が落ちてきた……!?

 普段なら、目を覆いたくなる惨状だったが、自分でも驚くほど冷静に直視していた。

 あまりにも悲惨な状況を見てきたため、耐性がついたのかもしれません……

 潰れた人らしき物は苦しそうに動いている。

「またか……」
 近くに居た自衛隊が溜息を吐く。

 テントから複数の自衛隊が現れ、血だらけの担架でそれを乗せると、霧の奥に消えていった。

「……何が起きたのでしょうか?」

「初めて見たのか、多分、転送ミスって言うやつだ」

「転送ミス……?」

「目覚めた時、何処にいた? 地面だろ?」

「はい……そうですが?」

「そういうことだよ、運が悪いと、空中で転送されてそのまま落下したり、地面や岩の中に転送してそのまま終わる事もあるのさ」
 淡々と語る。

「岩の中……!!」
 フランス人男性が下半身が岩の中に埋もれていたのを思い出す。

「その反応からするに、それは見たという事だな。ああなったら助からん。一体化してるんだからな……」

「……!」
 ということは……私も運が悪かったら、そうなっていたという事ですね……
体が少し震えあがる。

「皆さんはいつからここにいるんですか?」
 どう考えても、数日たっているような感じですし……

「さぁな、一カ月ぐらいたったかもな……」
 遠いい目をしている。

「一カ月!? 私は一日もたっていないのに……」

「よく分からねえけど、タイムラグがあるそうなんだ」

「タイムラグ……」
 そんな事まで……だから、ここの方たちはあんな感じだったんですか……

「あの人は何処に運ばれたのでしょうか……? 病院?」

「病院があると思うか? 答えは知らない方がいい……」
 冷ややかに苦笑する。

「……」
 どう考えても助かる状況ではないですし、火葬でもしているのでしょうか?

「さて、仕事に戻らねえと……」
自衛隊は離れていった。

 私も戻りますか……洞窟の奥に水があるそうですし、飲みに行きましょう……とりあえず、疲れたので休みたいです。

 洞窟の奥に進むと、確かに湧水が流れている所があった。小さな小池を形成している。

「おい! 魚が泳いでるぞ!」
 男の小声が聞こえる。

「よし、久々のごちそうだ!」
 もう一人の男が舌なめずりをする。

 小池には黒い小魚が浅瀬で泳いでいた。

 最初の洞窟で見た小魚さんと似ていますね……

「しかも、捕まえてくれと言わんばかりだぜ……よし!」
 男が魚を素手で掴み上げた。

「捕まえた! これでまともな食事に……!!?」
 手元にあった黒い魚は粘土で作られているかのようにぐにゃりと変形した。

「……!」
 それを見て、首筋にナメクジが這ったかのようにゾッとした。

「ギャャャアアアア!!?」
 手首を抑えながら苦しそうな悲鳴を上げる。

 黒い魚は形を崩して、代わりに細長い黒い糸の様な物が手にまとわりついている。

「馬鹿野郎! だから、魚に触れるなと言っただろう!」
 違う避難民が怒鳴り声を上げる。

「離れてください!!」
 いつの間にか、複数の自衛隊が来ていた。

 手際よく、まとわりついている手首に布を被せて、洞窟の外に連れて行った。

「他に寄生された人はいますか?」
 残った自衛隊……秋人は私達を見る。

「……」
 誰も返答しない。

「大丈夫ですね、では失礼します」
 立ち去ろうとする。

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