生存率0%の未来世界からの脱出

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第一章 剣の刺さった狼犬

10話 幼虫食

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「食事です!! 夕食の準備が出来ました!」
 洞窟の出入り口から大声が響く。

 ご、ご飯が来ましたね! と、とりあえず、何でもいいから食べたいです!

「前から順番に並んでください!!」

 30分ぐらい並んで、ようやく、食事を配給している所にたどり着くことが出来る。

「はい」
 エプロンをした自衛官が煮えている鍋から細い木の枝を取り出して、私に渡す。

「こ、これは……!」

 木の枝に突き刺さっているのは明らかに白い幼虫だ。3匹胴体に突き刺さっていて、カブトムシの幼虫ぐらいサイズがある……

「これしかないのでしょうか!?」
 今すぐにでも、投げ捨てたい気持ちを抑える。

「これで精いっぱいだ。嫌なら返してくれ」

「そんな……」
 幼虫を見る。
 少し焦げているが……弱弱しく動いている。

 生きています……これを食べる……! 

 食べていないのに一気に空腹感が満たされてしまう。

「早くしろ!」
 後ろに並んでいる人から怒鳴られる。

「す、すいません!」
 とりあえず、持ったまま離れた。

 周りを見る。多くの避難民が苦い顔をしながらそれを食べていた。

 そうでした……外は危険だらけですし、いつ死ぬか分かりません。生きるのにも精一杯。それなのに、自衛官の皆さんは避難民全員の食料を配ってくれましたね……

 避難民の方や自衛官の顔色が悪い理由が分かりました。こんなものしか食べられてなかったんですね……

「何の幼虫でしょうか?」
 近くにいる自衛官に聞く。

「分からねえ、だが、他と違って毒はないようだ」

「毒は無い……」
 
 避難民の横を通って奥の洞窟に進む。

 小さな湧水があるのが見える。その周囲に、私と同じ、串に刺さった幼虫を嫌そうに食べている人たちがいる。

 考えることは皆さん同じですか……吐くかもしれないので、水と一緒に流し込む作戦です。

 改めてみると、やはり幼虫は弱弱しく体をうねらせて生きている。

 せめて死んでいてくれたら、食べやすいんですけど……そうでした! スキャンしてみましょう!

 スマートウォッチ的な物でスキャンをする。

『変異体モパニワーム』
 南アフリカ大陸に生息する蛾の幼虫。元々は食物連鎖の下位層にあたり、たんぱく質も豊富で食用として好まれていた。しかし、世界変異によって成体になると、全長500センチまで成長し、急性呼吸不全を引き起こす鱗粉をまき散らすようになった。

 500センチ……でかすぎませんか? 私の身長の3分の1ぐらいありますよ。それに、この成体も危険なそうですね……急性呼吸不全を引き起こすんですね、恐ろしいです……

 お腹がより激しくなる。食欲はないが、空腹感は痛いほど強い。

 嫌ですけど、これしか食べる物が無いんですよね……

 確か、カミキリムシの幼虫とかはマグロのトロみたいに美味しいって聞いたことがありますし……もしかしたら、この幼虫もおいしいかもしれません。

「……!」
 覚悟を決めましょう!!

 目を瞑って、芋虫を食い千切る。

「ウッ!?」
 虫を食べている事実と、口の中で動いている感触の不快感で吐き出しそうになる。そして、食い千切った胴体から流れる腐葉土を溶かしたような苦い味。

「……ッ!」
 しかし、手で口を塞いで無理やり抑える。

 湧水に顔を入れて、一気に水と一緒に飲み込む。

 顔に付いた水を拭って息を整える。

 不味い……不味すぎます……!!

 ですが、これしか食べる物がありませんし……調味料とかあれば少しはましかもしれませんけど、そんなものありませんし……

 鼻を摘まんでみましょう。そうすれば、味がしないって聞きますし……

 鼻を摘まんで口の中に入れる。

 しかし、再び吐きそうになり結局は水で無理やり流し込む。

 残りも……噛むのを止めて無理やり流し込んだ方がいいですね……

 吐きそうになりながらもなんとか食べることが出来た。

 何とか完食することが出来ました……避難民の中には水なしでこれを食べている人もいます……凄いですね……

 ですが、ほとんどの人が抵抗があるようですね。私はそこまで虫嫌いではないので、大丈夫でしたが、無理な人は無理でしょうしね。その人はどうするのでしょうか? 特に幼い子供とかどうしているのでしょうか? こんな幼虫なんて食べれないでしょうし……恐らくですが、非常食的な物を私達とは別に与えているのでしょうか? だとしたら羨ましいですね……私ももう少し幼かったら……いいえ、皆さん我慢していますし、私も我慢しないとですね。

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