生存率0%の未来世界からの脱出

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第二章 サイキック

18話 人間ホイホイ

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「起きろ」

「……!」
 体を揺さぶられて目を開ける。

「そろそろ出発するぞ」
 フロストの不愛想な顔が見える。

「……」
 現実ですか……
 一瞬でも、今までの事が悪い夢であることを期待した為、心が重くなる。

 気怠い上半身を起こして、体を伸ばす。

「あ……」
 唸り声の様な声が自分のお腹から鳴る。

 お腹が減りました、缶詰一つでは足りないです……
 空腹感の余り、若干胃が痛い。

「……これで最後だ」
 ツナ缶を私に投げる。
「あ、ありがとうございます……こんな、貴重な食糧を貰っていいのでしょうか?」

「いつ最後の晩餐になるか分からない。それなら、少しでもマシな物を食べたほうがいいだろう」

「そうですね。すいません、本当にありがとうございます!」

 申し訳なさを感じつつ、ツナ缶を間食した。まだまだ満腹とは程遠いが十分だ。

「ごちそうさまです!」
 
「よし、食べたのなら行くぞ」
 リュックサックを担いで立ち上がる。

「ワン!!」

「分かりました!」
 歯磨きをしたいですが……後でどうやっているのか聞いてみましょう。


 外は相変わらず、濃霧が続いていて、殆ど先が見えない。

 フロストはポケットから紙を広げる。

「地図ですか?」

 覗き込もうとするが、背伸びをしても見えない。

 こういう時、自分の身長のなさにガッカリします……

「ああ、周囲を探索したとき自分で書いた」

「そうですか」

「……あっちだ」
 歩き始める。

 私達も後ろに付いていく。

「この濃霧、いつ晴れるんですかね……」
 ここに来てから3日経ちますが全然晴れないですし……

「さぁな。ここに来てから霧が晴れるのを見たことがない」

「……」
 おかしいです。雨も降っていないのにこんなにもずっと霧が続いているのは……いや、それ以上に化け物もいますし、常識に囚われたら駄目ですよね……

「!!」
 突然、フロストは足を止める。

「!」
 遅れて私も足を止めた。

 何かあったのでしょうか……?

 遠く離れてない距離で人の叫び声が聞こえる。

「……なんて言っているか分かるか?」

「ギリシャ語で『おーい!! 誰か! 助けてくれ!!』と叫んでいます……」
 また、助けを呼ぶ声がしますね……

 いい思い出が無い為、胸騒ぎがする。

「そうか、先を急ごう」
 驚くほど淡々と言う。

「……助けないのでしょうか?」

「助けるか……俺たちに何ができる?」
 呆れているかのような言い方をする。

「な、何ができるって……それでも、何かは……」

「怪我でもしていたら治療してあげるのか? 化け物に襲われていたら、救出するのか?」
 責め立てるように言う。

「……!」
 私を見るその表情は虫の死骸でも見ているかのような冷たさだ。

「お前は何もしないし、できないよな? 所詮は口だけだ……」
 冷たく言い放つと前を向く。

「すいません……!」
 重たい一言一言が胸に突き刺さる。

 確かに、フロストさんの言う通りです! 私は口だけで、何も出来ないのに偉そうに言ってしまいました……私は無力です…… 

 胸が締め付けられる思いをする。

「しかし、進行方向か……」
 双眼鏡で声のする方を覗く。

「行かなくて正解だった……」

「化け物が来たんですか?」

「それもあるが、違う、見てみろ……」
 双眼鏡を私に渡す。

 双眼鏡で覗く。霧ではっきりは見えないが、男性の下半身が地面に埋まっているのが薄っすら見える。

 人が……ここに転移された時、地面と一体化したのでしょうか? だとしたら、やっぱり助けようが……!

 双眼鏡の端から男性に向かっている化け物の存在に気が付く。

 それは人間を粘土で形作ったかのように灰色の全身をしている。没した肋骨に手足は枯れ木の様に異常に細長い。本来あるべき目鼻などは無く、刺の様な鋭い歯がむき出しに並んでいる。

 それが男性に迫っていた。

 男性が化け物に襲われると思った瞬間──

 男性を中心にワニの様な鋭い口が現れ、化け物と共に男性を飲み込む。そして、地面の中に消えていく。

 余りにも一瞬だ。気が付いたら、そこにはあらかじめ何も無かったかのような静寂が訪れている。

「な、何が起きたのでしょうか……?」
 
「最初の化け物は見たことないが、地面から出てきたのは見ての通りだ。ああして人間で獲物を呼び寄せて捕食する」

「そんな化け物が……」
 怖すぎです……知らなかったら、絶対に引っ掛かりそうです……

「……!?」
 更に目を疑うことが起きた。

 食われたはずの男性が地面から出てきて、何事も無かったかのように助けを呼ぶ声を上げているからだ。

「えっ!? ど、どうなってるんですか!?」

「分からない。あれが人間なのか、あれも地面に住んでいる化け物の一つなのか……」

「でしたら、多分、後者ですかね……よく聞いてみたら同じセリフを繰り返していますし……」

「スキャンできるか?」

「……遠すぎますね」
 スキャートフォンは反応を示さない。

「そうか、迂回して先を急ごう」

「そうですね……」
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