生存率0%の未来世界からの脱出

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第二章 サイキック

19話 南アフリカ

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 時々、この世のものとは思えない悪魔の様な奇声が聞こえてくる。その度に肩が飛び上がって慌てて周りを見渡す。

 今の所は何も起きていないが、今にも霧の向こうから化け物と接敵しそうで、常に心拍数が上がっている。

 不安に駆られながらスノーの方を見るが、特に気にしていないようだ。

「クゥ~ン……」
 突然、スノーが空気が抜ける様な高い声を上げて、フロストの服を嚙んで引っ張る。

「なんだ?」
 立ち止まる。

「ワン、ワン」
 吠えた後、進む方向とは違う方に進み始める。

「あ、スノー……」
 呼び止めるが、振り向いて私たちを見る。

「まるで道を示してくれているようだな」

「そうですね……何か警告しているような気がします」

「そうか、少し遠回りになるかもしれないが、スノーに付いていこう」

「そうですね」

 私たちがスノーに近づくと、ゆっくり前に進み始める。


 スノーを先頭に付いていくが……

「フロストさん、スノーはどこに向かっているのでしょうか?」
 しばらく歩いている気がしますし……

「分からない……」
 スノーを信じたのは失敗だったか? と考えているような苦い表情をしている。

 だ、大丈夫でしょうか……?
 不安が深まるのを感じつつ、スノーを見る。

「ワン! ワン!」
 突然、足を止めて嬉しそうに吠える。

「……!」
 建物らしきものが見えたため、顔を上げる。

 ガラス張りの黒い箱が何重にも積み上がっているかのような高い建物がそびえ立っている。霧が晴れていたら、必ず目を奪われる程、幻想的だ。

 白い閉じているシャッターの上に『南アフリカ市役所』と英語で書いてある。

「み、南アフリカ!?」
 思わず叫んでしまう。

「らしいな。環境は元の世界と全く合ってないが……」
 フロストは冷静だ。

「え、えっと……もしかしてここがそうですか?」

「ああ、着いたな。化け物と接敵するのを覚悟していたが、スノーのお陰で無事だったな」
 笑みを浮かべながらスノーを撫でる。

「ナイスです! スノー!」
 私も頭を撫でる。
 そういうことだったんですね! 今まで化け物を避けていたんですね!

「ワン!」
 嬉しそうに吠える。

「さて、開けられるか?」
 閉じているドアに向かう。

 ドアは私の家にあったのと同じ、高級住宅街にあった如何にも頑丈そうな電子ロック式のドアだ。

「やってみます」
「ああ、ここ以外に入れる場所がない」

「……」
 電子ロックに近づくと、自動的に小さな蓋が開く。中には手の形をした窪みがあった。

 サイズはあっていませんが……試してみましょう。

 その中に手を入れる。

 案の定、サイズは大きかったが、ドアが開く音が聞こえた。

「開きました!」

「流石だ……やはり、お前には特別な力があるようだな」

「そのようですね……」
 ほんと、謎です。

「俺が先行しよう」
 ジャケットの内ポケットから拳銃を取り出す。

 拳銃持ってたんですね……

「弾はそんなにないから、中に化け物が居たら直ぐに撤退するぞ」

「分かりました!」

「よし、入るぞ」

「はい!」

 フロストが先行で中に入る。

 続いて私も入る。

「ウッ……!」
 乾燥したかび臭い匂いが鼻と喉に吸い付き、軽くせき込んでしまう。
真っ暗だったが、勝手に照明が点灯して明るくなる。

 建物の外見に反して、床にゴミやコンクリートの破片などが散乱し、壁や床は塗料が剥がれてボロボロだ。

 窓の部分は全てシャッターが下りていて、外からの光は全くない。

 そして……はっきりと紺色の作業服を着ている白骨化した死体が転がっているのが見える。

「ずいぶん経っている様だな」
周囲を見渡しながら言う。

「そのようですね……」
 餓死したのでしょうか? 

 しかし、違和感に気が付く。

 ここの転がっている白骨死体は見渡す限り、刃物で切られたかのように服が破けている。とても風化して出来たような傷には見えない。

「切られたような感じですね」

「そのようだな……服が破けている個所に骨が損傷しているな」
 死体を探りながら言う。

「一体何が……ここの人たちもスキャートフォンを持っているようですね。もしかしたら、何が起きたのか分
かもしれません」
 死体のスキャートフォンを外して、音声記録を確認しようとするが……

「あれ? 付かないですね……」
 画面が表示されない。

 自分のと見比べて見ると、スキャートフォンに付いてあるカプセル状のケースは割れていて、黒い結晶の様なものがなかった。

 壊れているということですよね、他には……

 他の死体を漁ろうとしたが、ドア枠の向こうにあるものが視界に入って手を止める。

 ……なんでしょうかこれ?

 縦に長い山形をした私と同じぐらいかそれ以上の陶器物だ。絵具をぐちゃぐちゃにかき混ぜたかのような奇妙な色をし、人らしき形をした目鼻口は福笑いでもしたかのようにデタラメな場所にある。
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