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82 集落にて
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「手の込んだ召喚術だな。しかし、私の使役する精霊の足元にも及ばない」
「……何?」
エルフの少女が詠唱を開始する。
「大いなるエルフの森を守護する精霊よ! その力を以って我が敵を打ち破りたまえ! 風の大精霊、シルフ!」
翼の生えた女性のような存在が、霊体として顕現する。
風の大精霊シルフ。その実体は、彼女のイメージが具現化した霊的存在である。
ただのイメージであるが故に肉体を持たず、微笑んでいるように見えるが自我も持たない。強い思い込みが生み出した想像の産物ってところだな。
鑑定すると、『スピリット』という名称が表示された。
低位の人工精霊だ。
そういえば、エルフは精霊を作成する『精霊獲得』という技能があったな。
無意識に使っているようだが、本物のシルフの足元にも及ばない贋作だ。
見ていて虚しくなるぞ。
「シルフ様、憎き敵を滅ぼしてください!」
「……痛々しくて見てられないな」
自分が勝手に作ったモノをありがたがり、敬称までつけて呼んでいるのだ。
本物の精霊はアクアスのように強い自我と肉体を持つ。
あんな風に薄ら笑いを浮かべて浮遊したりしていない。
俺は精霊の名誉を守る為、一撃で消すようシトに命じた。
「潰してやれ。アクアスも何か言いたげだしな」
「撃滅します」
言うが早いが、『テレポート』であっさり後ろを取ると、シトは大鎌の一振りでシルフを消し去った。
「え、あれ……。私のシルフ様は……」
「死んだ」
「えええええ!」
先ほどまであれだけイケイケだったエルフが、俺の死神を見てビビりまくってる。
「ひぃぃぃぃ!」
「どうした。もう一度呼び出して芸を見せてみろ。面白かったら逃がしてやるぞ」
「ごめんなさいぃぃぃ!」
ついには尻尾を巻いて逃げ出した。
が、すぐにエルフは戻ってきた。
「え、なんで!? うああああ!」
また逃げ出すが、『ミスト』の力は逃走を許さない。
再度戻ってきたエルフがへっぴり腰で地面にしゃがんだ。
「コイツは何なの! どうして逃げられないの!?」
「シトは死神だ。対象を確実に殺す力を持った神なんだよ。シトに目をつけられた奴は逃げられない」
「どうして……。私は悪くない! 悪いのは聖域を穢した貴様らだ!」
「勝手に侵入したことは謝るが、いきなり殺そうとするのは酷いだろ。魔法を撃ってもいいのは、最初から撃たれる覚悟がある奴だけだ」
「断罪しますか?」
シトが大鎌を振り上げる。
「ヒィ……! やめてちょうだい! あ、あなたのモノになるから許して!」
無様に命乞いをするエルフだ。スカートを捲り上げ、大して大きくない胸を見せてくる。
「いいことしてあげるから、殺さないで……」
少し脅し過ぎたか……。
「しまってくれ。俺達はただ、エルフと同盟関係を結びたいだけだ」
「殺さないの……? お、犯したり……」
「しない。その点は安心してくれ。本当に、同盟が結びたいだけだ」
「え……私達と?」
「エルフは耳が良いですよね。「風の声」を聞いて情報を集めていると聞きます。その力を、我々の勇者を守る為に役立てていただけないでしょうか」
レイナは自分の考えを打ち明けた。
それはエルフ国の大使館をラムネアに設け、水面下で情報を収集して欲しいという内容だった。
「しかし、我々には聖域を守護するという役目が――」
「希望者だけで構わないんだ。族長がいるなら話だけでもさせてもらえないか?」
「……そういうことなら分かりました。タクマ様と仰いましたね。あなたを村に案内します」
「本当に案内してくれるんだな」
「村についた瞬間にエルフから略奪したりしませんよね?」
「そんなことするか」
「……なら平気です。どのみち、族長に話を聞いてもらうしかなさそうですので」
というわけで、ひとまず村に案内してもらえることになった。
「うまい方向に話が転がっているようだな」
『隠蔽』状態だったトワが姿を現わす。
「あら? こんなところに人が隠れていました」
レイナが楽しそうに驚くが、トワが同行することは伝えてある。
「いや、気づいてただろ。二人で自分達の世界に入りやがって……。まあそれはいいが、頭数が多い方が向こうも話を聞くだろう。私も出ているぞ」
「気が利く魔族だな」
「魔族!? 貴様、魔族の分際でエルフの聖域に――」
またエルフがヒートアップしてしまった。
「ところで、お前の名前は何と言うんだ?」
「私? 私は、エルフの族長の娘、メルアです」
「綺麗な名前だな。族長は何て言う名前なんだ?」
「ええと、シャーリスという。……あ、言います」
「そうか。もっとメルアの話が聞きたいな。どうして一人で森を歩いてたんだ? 狩りの途中だったのか?」
「いえ、私は将来の族長として、仲間を守れるよう修行を兼ねた自警団のようなものを自発的に行ってまして」
スラスラと語りだした。
トワのことを誤魔化す為だったが、この調子で村につくまで話していてもらおう。
俺は適当な相槌を打ち続けた。
そして、三十分ほど歩いてエルフの集落に到着した。
原始的な木造の家々が並んでいる。
女性が多く――というか、男がいなかった。
聞けば男達は森で暮らし魔物を狩り、村を守るのは女達の役目だということだった。
「しかし、一人もいないのか。もしかしてあまり仲が良くないのか?」
「う……それは言えないです。エルフの恥部なので」
思わせぶりな発言をするメルアだ。
気になるが、今はこれからの交渉に集中しよう。
俺達が村に入ると、エルフの女達が警戒心剥き出しで近づいてきた。
「どういうことですか! なぜ人間の男が森に……!?」
「メルア、説明なさい! あなたが手引きしたのでしょう!」
エルフの女は美人が多かった。
しかし、美人が怒ると迫力があって怖ろしい。
逃げ帰るわけにもいかないのだろうが。
レイナが笑顔で進み出た。
「私はラムネアの国王の娘、レイナです。そして彼は神によって召喚された勇者、タクマです」
「妃殿下と勇者……!? すぐに族長をお呼びしないと……!」
慌てた様子でエルフ達が走り去っていく。
まあ、名のある二人がいきなり来たんだから慌てるよな。
しばらくすると人だかりの中心にエルフの美女がやってきた。
「初めまして、人間の方々。私はエルフの族長シャーリスです。どうぞ、私の家へお越しください」
シャーリスは二十代前半くらいの外見の美女で、規格外の巨乳が魅力的な女だった。エルフは長命なので幾つか分かりづらいが、とても綺麗だ。
思わず見惚れてしまうが、さすがに失礼だと思い居住まいを正す。
彼女の住む素朴な家に案内された俺達は、レイナ、アクアス、トワ、シトの順に挨拶をした。そして、俺は最後に名乗った。
「俺は聖剣の勇者タクマだ。よろしく頼む」
「勇者タクマ、あなたの噂はこの耳にも届いています。魔王を追い払った英雄だと」
「まあ、ラムネアにとってはそうなるな」
絶賛魔王とは同盟中だが。
「それにしても、姫君まで来られるとは思いませんでした。いったいどのようなご用向きでこられたのでしょう」
「単刀直入に言います。タクマ様が神に命を狙われ、新たな勇者が差し向けられようとしています。私の許で勇者の身を守る為、エルフ族の皆さまにご助力いただけないでしょうか」
「なるほど、勇者の代替わりですか。かつてもそのようなことがありましたね。あの時は先代の勇者が敗れましたが」
古い勇者の話か。そういえば、アルジャンがかつて言っていたな。過去の勇者も『鑑定』を所持していたと。つまり、この世界に転生したプレイヤーは俺以外にもいたということだ。恐らく、ジュリと戦い敗れているのだが。
「しかし、勇者の代替わりは神の意思ではないのでしょうか。私は抗うべきではないと思いますよ」
「魔王を追い払ったタクマ様が、勇者に相応しくないと?」
「レイナ、良いんだ」
剣呑な空気になりかけたので止めておく。
「シャーリスの言葉は正しい。俺は勇者として不適合だと判断されたのかもしれない。いや、確実にそうなんだろうな」
「否定しないのですね?」
「元々なりたくて勇者になったわけでもない。偶然、こいつに選ばれただけだ」
聖剣の柄を軽く叩く。
「もし聖剣が俺以外を選ぶなら甘んじて受け入れるつもりだ。喜んで勇者の座など譲ってやる。だが、俺はどんな手を使ってでも勇者を倒す。俺が勇者に敗北すれば、今まで支えてくれた女達にも地獄が待ってるからだ」
ラムネアの民達は俺を信じていた分、裏切られたと感じて牙を剥くだろう。
だが、俺はそいつらに力を知らしめてやるつもりだ。
例え勇者の座は譲っても、俺の力は健在だと――女に手を出せば破滅が待っていることを教えてやらなければならない。
「戦うのなら私達を巻き込まず、勝手に競い合えばいいでしょう。正直に申し上げて迷惑です。我々は人間と関わらず、森で静かに生きてきました。これからもそのつもりです。第一、先ほども話した通り、代替わりは神の意思でしょう。ならば、我々は抗わずに受け入れるべきなのです」
シャーリスの意思は固い。
そんな中、言葉を発したのは意外なことに族長の娘だった。
「私は反対です。次にどんな勇者が来ても、タクマ様に勝てるとはとても思えません。だって、タクマ様の召喚した悪魔は私の目の前でシルフを粉々に消し去ったんですよ?」
「あなたの呼び出した者はシルフではありません……。ただのイメージの具現化です。本物のシルフ様でない以上、倒すことなど容易いでしょう」
「お母様……?」
なるほど、シャーリスは気づいていたか。
「本物の精霊とは余のような者を言うのじゃ。シャーリスは分かっているようだな」
「あなたは本物の精霊なのですか?」
「そうだとしか答えようがないのう。ところで、お前さん方はなぜ、あの地を聖域などと呼ぶのじゃ? あの地は何もないただの森じゃ」
エルフは森を聖域と呼ぶ。
そして、聖域を守ることに喜びを感じている。
だが、そんなものはごっこ遊びに過ぎない。
「かつては本当に聖域でしたから」
「なるほどのう。しかし、そうして古い考えに固執していては未来はないぞ。悪いことは言わんからタクマについておれ。この男は何者にも負けぬと余が保証してやるぞ?」
「……それでも、力は貸せません。私達は男を信用しませんから」
「それは、男が里の外にいることと関係がしてそうだな」
「タクマ様、エルフの男達はお母様を――」
「やめなさい、メルア。それは、エルフの恥部です」
俺はメルアを鑑定した。
そして、エルフ達が隠している情報について知ってしまった。
――なるほどな。少数のエルフ族。
そして、代々女王が治めてきた統治体制。
これを批判し、女王を複数人で強姦し、王の座を奪おうとしたのか。
この里の男達は……。
女王はエルフの男衆を返り討ちにしたが、心に深い傷を負い、以降、エルフの村は女性達によって管理運営されるようになった。だがそれは、エルフが終わることを意味する。
「男は、子供のエルフも含めて集落を出ていったのか?」
「もう、この村には女しかいません」
「なるほどな。まあ、事情は分かった。これ以上の干渉はよそう」
エルフ達は身内の問題でごたついている。
とても俺達の問題に介入している余裕はなさそうだ。
「一晩でしたら泊まっていただいても結構ですよ」
迷う。泊まっていくべきか、帰るべきか。
まあ、帰るべきだろうな。
「帰ろう。邪魔したな」
エルフ達の助力は得られなかったが、彼女達の事情は分かった。
可能性を虱潰しにしていくという意味では、有意義だったと言えよう。
「タクマ様、私も連れていっていただけないでしょうか」
「ん?」
「メルア、何を言ってるのですか……」
族長が当然止めに入る。しかし、メルアの意思は固いようだった。
「こんな村にいるより、私はタクマ様と外の世界を見たい。だから、お願いします!」
シャーリスを見ると、頭を抱えて首を横に振っていた。
到底、納得できないという意味だろう。
「母親を説得できないなら無理だ」
「お母様、どうか許可を……!」
「駄目です。あなたはまだ若い。外を知るにしてもまだ先でいいでしょう」
結局、メルアはついてこれなかった。
「一人前のエルフと認められたら面倒を見てもいい」
「分かりました。いずれ必ず追いつきます」
名残惜しそうにする彼女と別れて、俺達はエルフの集落を離れた。
「……何?」
エルフの少女が詠唱を開始する。
「大いなるエルフの森を守護する精霊よ! その力を以って我が敵を打ち破りたまえ! 風の大精霊、シルフ!」
翼の生えた女性のような存在が、霊体として顕現する。
風の大精霊シルフ。その実体は、彼女のイメージが具現化した霊的存在である。
ただのイメージであるが故に肉体を持たず、微笑んでいるように見えるが自我も持たない。強い思い込みが生み出した想像の産物ってところだな。
鑑定すると、『スピリット』という名称が表示された。
低位の人工精霊だ。
そういえば、エルフは精霊を作成する『精霊獲得』という技能があったな。
無意識に使っているようだが、本物のシルフの足元にも及ばない贋作だ。
見ていて虚しくなるぞ。
「シルフ様、憎き敵を滅ぼしてください!」
「……痛々しくて見てられないな」
自分が勝手に作ったモノをありがたがり、敬称までつけて呼んでいるのだ。
本物の精霊はアクアスのように強い自我と肉体を持つ。
あんな風に薄ら笑いを浮かべて浮遊したりしていない。
俺は精霊の名誉を守る為、一撃で消すようシトに命じた。
「潰してやれ。アクアスも何か言いたげだしな」
「撃滅します」
言うが早いが、『テレポート』であっさり後ろを取ると、シトは大鎌の一振りでシルフを消し去った。
「え、あれ……。私のシルフ様は……」
「死んだ」
「えええええ!」
先ほどまであれだけイケイケだったエルフが、俺の死神を見てビビりまくってる。
「ひぃぃぃぃ!」
「どうした。もう一度呼び出して芸を見せてみろ。面白かったら逃がしてやるぞ」
「ごめんなさいぃぃぃ!」
ついには尻尾を巻いて逃げ出した。
が、すぐにエルフは戻ってきた。
「え、なんで!? うああああ!」
また逃げ出すが、『ミスト』の力は逃走を許さない。
再度戻ってきたエルフがへっぴり腰で地面にしゃがんだ。
「コイツは何なの! どうして逃げられないの!?」
「シトは死神だ。対象を確実に殺す力を持った神なんだよ。シトに目をつけられた奴は逃げられない」
「どうして……。私は悪くない! 悪いのは聖域を穢した貴様らだ!」
「勝手に侵入したことは謝るが、いきなり殺そうとするのは酷いだろ。魔法を撃ってもいいのは、最初から撃たれる覚悟がある奴だけだ」
「断罪しますか?」
シトが大鎌を振り上げる。
「ヒィ……! やめてちょうだい! あ、あなたのモノになるから許して!」
無様に命乞いをするエルフだ。スカートを捲り上げ、大して大きくない胸を見せてくる。
「いいことしてあげるから、殺さないで……」
少し脅し過ぎたか……。
「しまってくれ。俺達はただ、エルフと同盟関係を結びたいだけだ」
「殺さないの……? お、犯したり……」
「しない。その点は安心してくれ。本当に、同盟が結びたいだけだ」
「え……私達と?」
「エルフは耳が良いですよね。「風の声」を聞いて情報を集めていると聞きます。その力を、我々の勇者を守る為に役立てていただけないでしょうか」
レイナは自分の考えを打ち明けた。
それはエルフ国の大使館をラムネアに設け、水面下で情報を収集して欲しいという内容だった。
「しかし、我々には聖域を守護するという役目が――」
「希望者だけで構わないんだ。族長がいるなら話だけでもさせてもらえないか?」
「……そういうことなら分かりました。タクマ様と仰いましたね。あなたを村に案内します」
「本当に案内してくれるんだな」
「村についた瞬間にエルフから略奪したりしませんよね?」
「そんなことするか」
「……なら平気です。どのみち、族長に話を聞いてもらうしかなさそうですので」
というわけで、ひとまず村に案内してもらえることになった。
「うまい方向に話が転がっているようだな」
『隠蔽』状態だったトワが姿を現わす。
「あら? こんなところに人が隠れていました」
レイナが楽しそうに驚くが、トワが同行することは伝えてある。
「いや、気づいてただろ。二人で自分達の世界に入りやがって……。まあそれはいいが、頭数が多い方が向こうも話を聞くだろう。私も出ているぞ」
「気が利く魔族だな」
「魔族!? 貴様、魔族の分際でエルフの聖域に――」
またエルフがヒートアップしてしまった。
「ところで、お前の名前は何と言うんだ?」
「私? 私は、エルフの族長の娘、メルアです」
「綺麗な名前だな。族長は何て言う名前なんだ?」
「ええと、シャーリスという。……あ、言います」
「そうか。もっとメルアの話が聞きたいな。どうして一人で森を歩いてたんだ? 狩りの途中だったのか?」
「いえ、私は将来の族長として、仲間を守れるよう修行を兼ねた自警団のようなものを自発的に行ってまして」
スラスラと語りだした。
トワのことを誤魔化す為だったが、この調子で村につくまで話していてもらおう。
俺は適当な相槌を打ち続けた。
そして、三十分ほど歩いてエルフの集落に到着した。
原始的な木造の家々が並んでいる。
女性が多く――というか、男がいなかった。
聞けば男達は森で暮らし魔物を狩り、村を守るのは女達の役目だということだった。
「しかし、一人もいないのか。もしかしてあまり仲が良くないのか?」
「う……それは言えないです。エルフの恥部なので」
思わせぶりな発言をするメルアだ。
気になるが、今はこれからの交渉に集中しよう。
俺達が村に入ると、エルフの女達が警戒心剥き出しで近づいてきた。
「どういうことですか! なぜ人間の男が森に……!?」
「メルア、説明なさい! あなたが手引きしたのでしょう!」
エルフの女は美人が多かった。
しかし、美人が怒ると迫力があって怖ろしい。
逃げ帰るわけにもいかないのだろうが。
レイナが笑顔で進み出た。
「私はラムネアの国王の娘、レイナです。そして彼は神によって召喚された勇者、タクマです」
「妃殿下と勇者……!? すぐに族長をお呼びしないと……!」
慌てた様子でエルフ達が走り去っていく。
まあ、名のある二人がいきなり来たんだから慌てるよな。
しばらくすると人だかりの中心にエルフの美女がやってきた。
「初めまして、人間の方々。私はエルフの族長シャーリスです。どうぞ、私の家へお越しください」
シャーリスは二十代前半くらいの外見の美女で、規格外の巨乳が魅力的な女だった。エルフは長命なので幾つか分かりづらいが、とても綺麗だ。
思わず見惚れてしまうが、さすがに失礼だと思い居住まいを正す。
彼女の住む素朴な家に案内された俺達は、レイナ、アクアス、トワ、シトの順に挨拶をした。そして、俺は最後に名乗った。
「俺は聖剣の勇者タクマだ。よろしく頼む」
「勇者タクマ、あなたの噂はこの耳にも届いています。魔王を追い払った英雄だと」
「まあ、ラムネアにとってはそうなるな」
絶賛魔王とは同盟中だが。
「それにしても、姫君まで来られるとは思いませんでした。いったいどのようなご用向きでこられたのでしょう」
「単刀直入に言います。タクマ様が神に命を狙われ、新たな勇者が差し向けられようとしています。私の許で勇者の身を守る為、エルフ族の皆さまにご助力いただけないでしょうか」
「なるほど、勇者の代替わりですか。かつてもそのようなことがありましたね。あの時は先代の勇者が敗れましたが」
古い勇者の話か。そういえば、アルジャンがかつて言っていたな。過去の勇者も『鑑定』を所持していたと。つまり、この世界に転生したプレイヤーは俺以外にもいたということだ。恐らく、ジュリと戦い敗れているのだが。
「しかし、勇者の代替わりは神の意思ではないのでしょうか。私は抗うべきではないと思いますよ」
「魔王を追い払ったタクマ様が、勇者に相応しくないと?」
「レイナ、良いんだ」
剣呑な空気になりかけたので止めておく。
「シャーリスの言葉は正しい。俺は勇者として不適合だと判断されたのかもしれない。いや、確実にそうなんだろうな」
「否定しないのですね?」
「元々なりたくて勇者になったわけでもない。偶然、こいつに選ばれただけだ」
聖剣の柄を軽く叩く。
「もし聖剣が俺以外を選ぶなら甘んじて受け入れるつもりだ。喜んで勇者の座など譲ってやる。だが、俺はどんな手を使ってでも勇者を倒す。俺が勇者に敗北すれば、今まで支えてくれた女達にも地獄が待ってるからだ」
ラムネアの民達は俺を信じていた分、裏切られたと感じて牙を剥くだろう。
だが、俺はそいつらに力を知らしめてやるつもりだ。
例え勇者の座は譲っても、俺の力は健在だと――女に手を出せば破滅が待っていることを教えてやらなければならない。
「戦うのなら私達を巻き込まず、勝手に競い合えばいいでしょう。正直に申し上げて迷惑です。我々は人間と関わらず、森で静かに生きてきました。これからもそのつもりです。第一、先ほども話した通り、代替わりは神の意思でしょう。ならば、我々は抗わずに受け入れるべきなのです」
シャーリスの意思は固い。
そんな中、言葉を発したのは意外なことに族長の娘だった。
「私は反対です。次にどんな勇者が来ても、タクマ様に勝てるとはとても思えません。だって、タクマ様の召喚した悪魔は私の目の前でシルフを粉々に消し去ったんですよ?」
「あなたの呼び出した者はシルフではありません……。ただのイメージの具現化です。本物のシルフ様でない以上、倒すことなど容易いでしょう」
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「……それでも、力は貸せません。私達は男を信用しませんから」
「それは、男が里の外にいることと関係がしてそうだな」
「タクマ様、エルフの男達はお母様を――」
「やめなさい、メルア。それは、エルフの恥部です」
俺はメルアを鑑定した。
そして、エルフ達が隠している情報について知ってしまった。
――なるほどな。少数のエルフ族。
そして、代々女王が治めてきた統治体制。
これを批判し、女王を複数人で強姦し、王の座を奪おうとしたのか。
この里の男達は……。
女王はエルフの男衆を返り討ちにしたが、心に深い傷を負い、以降、エルフの村は女性達によって管理運営されるようになった。だがそれは、エルフが終わることを意味する。
「男は、子供のエルフも含めて集落を出ていったのか?」
「もう、この村には女しかいません」
「なるほどな。まあ、事情は分かった。これ以上の干渉はよそう」
エルフ達は身内の問題でごたついている。
とても俺達の問題に介入している余裕はなさそうだ。
「一晩でしたら泊まっていただいても結構ですよ」
迷う。泊まっていくべきか、帰るべきか。
まあ、帰るべきだろうな。
「帰ろう。邪魔したな」
エルフ達の助力は得られなかったが、彼女達の事情は分かった。
可能性を虱潰しにしていくという意味では、有意義だったと言えよう。
「タクマ様、私も連れていっていただけないでしょうか」
「ん?」
「メルア、何を言ってるのですか……」
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「こんな村にいるより、私はタクマ様と外の世界を見たい。だから、お願いします!」
シャーリスを見ると、頭を抱えて首を横に振っていた。
到底、納得できないという意味だろう。
「母親を説得できないなら無理だ」
「お母様、どうか許可を……!」
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