届かなかったので記憶を失くしてみました(完)

みかん畑

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届かなかったので記憶を失くしてみました

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 ……全てが終わったと感じた。
 結局、また俺は失敗するのか。

 今や完全にアーサーの魔力は尽きている。

「アーサー、ごめんね」
「……君は悪くない。君を愛したことを後悔などしない」
「ありがとう。その気持ちだけ持っていくね」

 エレノアの言葉の意味が分からない。

「何を……」
「メア、私の記憶を全部消して! さようなら、アーサー。ずっと、愛してる」
「よせ! やめてくれ!」

 メアに、アーサーの声は届かない。

 契約は指輪によって譲渡された。
 アーサーの想いと共に。

 一瞬の静寂の後、大切な彼女を昏睡から救い出す為に作りだされた従魔は、新たな主との契約に従い、その願いを聞き届けた。

「エレノア?」

 ……返事はない。
 まるでガラス玉のような瞳が、虚空を見つめている。

 無慈悲な程に、何もなかった。

 ――そして、力が戻ってくる。

 エレノアを抱きしめるが、その心はガランドウ。

 届かなかったから、エレノアは記憶を失くしたのだ。

 気づけば涙を流していた。

 かつてない程の魔力が、アーサーのなかに満ちる。

「許さない」
「ユルサナイ」

 兎の従魔がアーサーの言葉を真似て嗤う。

 おごりがあったのだろう。
 今の爆発と初戦で二度、手を合わせた相手だ。

 消耗した今なら敵ではないと。
 だが、ブラッドの従魔は敗北を知覚することさえなく、アーサーの従魔に滅ぼされた。

 エレノア。

 無意識に名を与えられた従魔が、少女の形を伴って現れる。

「な、なんだその従魔は……」

 ブラッドが狼狽うろたえる。

 完全な人型の従魔など、存在しないはずだ。
 人間とは神によって創られた、神自身の模倣体……。
 それを人為的に再現することなど、可能なはずがない。

 人が従魔に与えられるのは、家畜の姿なだけのはずだ。

 まるで神を相手にしているような錯覚さえ覚える。

『あなたは罪を重ねすぎました。人を愛する心を利用し、呪いをかけるなど、到底人間とは思えない所業です。未来永劫、あなたが人として生まれ変わることはないでしょう』

「何だ……! 何をする気だ! わ、私の身体が……崩れて」

 ブラッドの魂が肉体を抜け出し、己の作り出した従魔に吸収される。
 兎の従魔の顔がブラッドに変わると、ブラッドは絶叫しながらその身体を灰と化した。

「エレノア……」

『アーサー。きっとまた……』

 従魔エレノアが輪郭を薄れさせ、消滅する。

 アーサーは傷ついた身体のまま、壁に背中を預けた。

 手当てをしなければ死んでしまいそうだったが、エレノアの温もりを抱きしめて、このまま永遠に眠ってしまえたら幸せだろうなと、考えた。

 従魔の最後に見せた笑顔が、彼女自身の笑顔と重ねって……。

 まるで背中を押されているようだった。
 だけど、無理だなと思った。

「俺はヘタレだから。このまま、眠らせて欲しい……」

 エレノア……。
 君の期待には応えられそうにない。

 憔悴しょうすいした表情で、アーサーは目を瞑った。
 だが、その頬が強く叩かれる。

 誰だ、と思い見ると、ミナだった。

「生きなさいよ。エレノアからもらった命……粗末にしたら許さない」

 睨まれる。アーサーは涙を流すが、殴られる。何度も。
 そうして精神を奮い立たせられて、アーサーは泣きながら自分に治癒の魔法を使った。

 温もりと残り香だけが腕の中にあって、嗚咽が止まらなかった。

 それが、アーサーとエレノアの離別だった。
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