自滅王子はやり直しでも自滅するようです(完)

みかん畑

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辺境伯の評判

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 ジュンと私の乗った馬車が彼の治める領地に到着すると、歓迎のセレモニーが始まった。領民たちが街道に集まり、歓迎の声を上げている。

「別にいいんですけどね。ここまで歓迎してくれなくても」

 ジュンは笑顔で手を振っているものの、本心では素直に喜べてないみたいだった。

 農村を抜けて彼が交易の中心にしたいと語っていた都市の方へ到着する。
 ギランドという名称の道幅が広い大きな都市が、彼の治めるアルガス領の中心らしかった。

「アルガス卿、よく戻られました。こちらは手紙にあった?」
「ええ、妻になる女性です。リリナにも紹介しましょう。彼は領主代行のガル・エミエル。帝国では市長という役職だったらしいですが、今は領主代行をお願いしています」
「代行などと恐れ多いですがね。重要な案件は全てアルガス卿に決めていただいてます。私の手柄にして構わないと仰れていますが、肩身が狭いですよ」

 元帝国人の……と身構えそうになるけど、表面上は穏やかなやり取りをしている。
 裏ではトリテ王国の民を恨んでるかもしれないけど。

 ジュンに目配せされて挨拶をする。

「初めまして、リリナ・カフテルです。まだ右も左も分かりませんが、皆さんのお役に立てればと思っています」

 軽く挨拶を終えると、ガルは感心したように頷いてた。

「元帝国民ということで不興を買ってしまうのではないかと恐縮していましたが、リリナ様はとてもお優しい方のようですね」

 なぜだか褒められてしまった。
 いつも愛想笑いする癖がついてるだけなんだけど。

 ジュンと私たちは領主の屋敷に移った。
 それから、ジュンは大々的なセレモニーについて自分の考えを伝えた。

「皆も仕事があって大変だったでしょう。忙しければ無理に出てくることはありません」
「皆、あなたに感謝しているのですよ。アルガス卿から受けた恩は返しきれぬものがありますから」

 ガルは気安い態度でジュンに接している。
 それだけ信頼関係があるらしい。

 元敵国の、それも自分たちの街を占領し支配下に置いている相手に対する態度とは思えない気安さだ。訝しく思っていると、ガルが私に話を振ってきた。

「ところで、先の大戦時、この地で起きたことをリリナ様はご存知ですか?」
「いえ、恥ずかしながら」
「では是非ともお伝えせねば。実は戦争末期、我が故国の精鋭である帝国軍は、防衛ラインを引き下げる際に街から食糧を略奪し、井戸が使えなくなるよう毒まで撒いて後退していったのですよ」
「……そのような非道なことを?」
「帝国軍は民を道具か玩具程度にしか考えていませんでした。かの国ではそれだけ、軍人の立場が強いのです。アルガス卿がギランドに入る頃には、食糧不足で餓死者も出る程でした。当時は赤子にやるミルクさえ足りていない状態で……」

 ガルは当時のことを相当、恨みに感じているらしい。
 言葉の端々から味方であるはずの帝国軍への恨みが感じられた。

「そうして我々が貧窮し、無力に終わりを待っていた時、アルガス卿は兵站を削ってまで、敵国の民であった我々に手を差し伸べてくださったのです。あの時の感動は言葉にできません。我々はアルガス卿に心酔しているのですよ」
「とても立派な行いをされたのですね」
「ええ、それはもう。私に代行を任せたのも民をおもんばかってのこと。思慮深き英雄に民の信頼は厚くなるばかりです」

 私は感心していたけど、ジュンは「またか」と思ってるらしく顔に出ていた。
 それだけ愛さているということなんだろうけど。

「失礼します」

 と、応接間に年若い文官が入ってきた。
 赤毛の童顔の青年だ。

「戻られていましたか、団長」
「もう団長ではありませんよ、アレン」
「そういえばそうでした。こちらは奥方様でしょうか」
「まだ婚約中ですけどね」
「そうですか。お初にお目にかかります。団長の副官を務めるアレン・クーイです。以後、お見知りおきを」

 悪びれた風もなく手を差し出してくる。
 握手をするとニッコリと微笑まれた。

「よろしくお願いします。リリナ・カフテルです」
「殿下の知恵袋とも名高いリリナ嬢にお会いできるとは光栄です」
「……私、そんな風に思われていたんですね」

 戸惑っていると、ジュンが助け船を出してくれた。

「アレン、少し距離が近いぞ。あまりリリナ嬢を困らせないでくれ。まだこっちの気安い空気には慣れていないんだ」
「団長は中央で垢抜けましたね。きちんと敬語が使えてましたし」
「馬鹿にしているのか? ……こほん、失礼」

 とジュンが咳払いをする。
 彼の素顔が見れたみたいで、私は嬉しかったけれど。

「話を変えたいと思います。リリナ、質問を一つよろしいでしょうか」
「はい、構いませんが」

 何の質問だろう。

「リリナはアルガス領の民を見て気づいたことはありますか? もしくは街の雰囲気でも構いませんが」
「……率直にお伝えしても?」
「構いません。それこそが、あなたをアルガスへ引きこんだ理由なのですから」

 でしたら遠慮なく。

「まず、街に活気がないですね。通りは広いのに閑散としていました。店が少なく、商人もあまり見ませんでした。あとは、馬鹿にするわけではないですが、中央と比べればやはり身なりがその……」
「みすぼらしいですね。まるで農奴だ」

 言いづらいことをジュンがハッキリ言う。

「僕はせっかく手に入れたこの領地を、ただの辺境で終わらせる気はありません」
「その為に私を呼んだのですか?」
「ええ、僕はこの地を交易の中心にしたいんです。その為に王都の学園で学び、さらに夢を共有できる仲間を募ろうとしました。しかし、誰もが僕を辺境伯と侮り、取り合ってくれなかった。まあ、元は成り上がりの平民ですからね。僕についてきてくれるものはいませんでした。君を除いて」
「それこそ利害の一致ですけど。私は逃げたかったので」
「その辺りは僕に運が傾いたのだと思っています」

 ジュンの仲間なんて見つかるわけがなかった。
 事実、王都にいる間、彼はずっと孤立していたようだし。

 そんな彼がついに見つけた協力者が私……って、嫁さんを見つけて帰る理由がこれだったのか。

 嫁だって貴族の協力者には含まれる。
 やり方がせこい気はするけど。

「これから協力してもらいますよ」

 王子の子守りの次は領地運営の道具ですか。

 ま、いいですけどね。
 彼が私に期待している程の結果が出せるかは分からないけれど、執務の手伝いくらいはできるだろうから。

「ふふ、アルガス卿も戻られましたし、リリナ様とどのようにこの街を発展させていくのか。領民の一人として楽しみに思います」

 あまり期待のハードルをあげないでもらいたいんだけど。

 私は差し出されたジュンの手を握る。

「よろしくお願いします、ジュン様」
「よろしくお願いします、リリナ」

 こうして新天地での私の新たな生活が始まった。
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