自滅王子はやり直しでも自滅するようです(完)

みかん畑

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重すぎる愛※アレン視点

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 ドンドンドンドンドン。

 しつこく扉をノックされて、僕は「入ってください」と伝える。
 慌ただしく執務室に入ってきたのは、主であるジュン・アルガスだった。

「団長、こんな真夜中にどうされたんです?」
「リリナ嬢と、ついにデートをすることになった」
「あの、まさかデートプランを考えろと?」
「……頼む。今回は絶対に失敗できないんだ。相談に乗ってくれ」

 こっちの話なんて聞かずに勝手にソファに腰を下ろす団長だ。
 仕方なく、僕は紅茶を二人分用意して向かいのソファに腰かけた。

 団長はともかく、リリナ嬢にはアリシアの一件で恩がある。
 こんなことで返せたとは思わないが、彼女の為になると思えばデートの手伝いくらいやぶさかではない。

「まあ、相談に乗るのはいいんですけど。団長って確か女嫌いでしたよね。婚約前、中央に居た頃は手紙でよく愚痴ってたじゃないですか」

 声をかけたらクスクスと笑われたとか、生まれが平民だと知るや否や食事に水をかけられたとか。中央でロクな思い出がなかったことは、僕も知っている。鉄面皮の彼なので渦巻く殺気を察するのは無理だったろうけど、恐ろしいことをするものだと思う。

 僕がこの世で一番恐ろしいと思うのは、彼を敵に回すことだ。

 ジュンが本気になればこの世の絶望くらい簡単に見せてもらうことができる。
 それ程の悪鬼をドブネズミと勘違いしていた女性たちは、巡り合わせが良かったとしか言いようがない……。

 出会った場所がスラムだったなら、二度と日の光を見ることはなかっただろう。
 彼は闇そのものを体現したような男だから……。

「実際、中央の令嬢にはクズしかいなかったな。あまりいい思い出はない」
「……それでよく中央の女性を捕まえてきましたね」
「リリナだけは違ったんだ。彼女は、俺が婚約を申し出ても嫌な顔一つしなかった。俺は何人もの人間を見てきたから分かる。リリナは、俺を差別しなかった唯一の令嬢だ」
「まあ、デートプランの件は引き受けましたよ」

 リリナ嬢に逃げられたら大変ですからね。
 あの方ほど人格者で仕事ができる令嬢がいるとは思えませんし。

「ところで、デートの終わりに彼女へプレゼントがしたいと思うんだが」
「あの、そこまでする必要があるんですか? リリナ嬢のこと、まだ好きではないんでしょう?」
「俺は確かに女性が苦手だが、彼女には何かやらないと気分が悪い。リリナは善良な女性だから」
「ぜ、善良? あの団長が生身の人間の善性を認めるだなんて……」

 天変地異の前触れか?
 真剣に、耳を疑った。
 団長が……嘘だろ?

「おい、俺だって人間の良し悪しは認めるさ。リリナは……俺の手を宝物みたいに握ってくれたんだ。こう、ギュって」

 嘘だろ団長……。正気になってくれよ!
 リリナ嬢が怖い……。

 僕は、今までジュン・アルガスが一番恐ろしい人間だと思っていた。

 でも、もしかしたら違うのかもしれない。

 リリナ嬢には、人を無理やり変えてしまう力があるのかもしれない。

 そういえば、人を全く信用しない野犬みたいだったアリシアが、花を摘んでリリナ嬢の元へ走っていくのを見たことがある。

 団長も……団長も花を摘んで走っていくようになるのか?
 それは歓迎すべき変化なのだろうけど、元の団長の人格はどこへ行ってしまうんだ?

 というか、僕自身、リリナ嬢のことは憎からず思っている。

 常に腹の内では自分が楽をすること、得をすることしか考えていなかったこの僕が、他人のデートプランに知恵を使うこと自体、お、おかしいんじゃ――

「どうしたアレン。顔色が悪いぞ」
「い、いえ、何でもないです。というか当たり前みたいに心配しないでください気持ち悪い」
「お前なぁ……」

 スーハ―……。スーハ―……。
 僕の名前はアレン・クーイ。
 17歳の乙女座で、三度の飯より金儲けと女漁りが好きな人間の屑だ。

 女のことは食い物だとしか思ってないけど、団長の女だけは怪物なので手を出さないことにしてる。
 あと、アリシアはスラムで亡くした妹にそっくりだったから……見捨てられなかったんだ……。

 大丈夫だ……。僕は僕のままだ。
 魔性の女の誘惑には負けてない。

「フー……。団長、行きましょう。早い所デートプランを立てちゃいましょう。今日は早めに休みたい気分なんで」
「そうだな。ところでプランを詰める前に押さえておきたいところがあるんだが」
「何ですか?」
「初デートで彼女に着せる防具について悩んでるんだ。俺のお勧めは鎖帷子くさりかたびらだが、あまり身体のラインが際立つものは着せたくないからな。余計な視線を集めてしまう」
「団長は一切、案を出さないでください。心配なのは分かりますが防具を新調する必要はありません。あんたがその手で守ってください」
「アレン、もっと真剣に検討してくれ……。彼女は侯爵令嬢だ。危機への対処能力は俺よりも劣る。安全を第一に考えることの何が悪いんだ?」
「ガシャガシャいいながらティーカップを持ち上げるリリナ嬢を想像してみてください! 彼女の評判を貶めるつもりですか……!?」

 思わぬところでつまずいた。
 リリナ嬢の防具を新調するべきか否か……。

『防具はいりません。ジュンが私のことを守ってくれますから』

 彼女の一言で団長が胸を押さえるまで、討論は続くのだった……。
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