自滅王子はやり直しでも自滅するようです(完)

みかん畑

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自滅王子は狂った世界でたった一つの愛を見つけたようです※王子視点

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「殿下……! なぜ我が息子を……レオンを手にかけたのですか!」
「言いがかりはよせ。彼は自分の意思で剣を取り、決闘に敗れた。ただそれだけだ」

 執務室に勢いよく突っ込んできた猪のような侯爵。
 彼はレオンの父親であるターク・ラドンである。

 ラドン卿は錯乱していて、話をまるで聞いてくれなかった。

「おや、執務の邪魔ですね」

 新たに護衛に就任したガルムが割って入る。

 長髪を束ね、真新しい騎士服に身を包んだガルム。
 彼の出生がグロノス族と関りを持っていることを知るのは俺だけだ。

「ラドン卿、退け。お前に勝てる相手じゃない」
「脅迫ですかな!?」

 ……聞く耳を持たない奴め。
 レオンの一件は俺にも落ち度があるが、もう知らない。

「ガルム! 尋常に手合わせ願おう! 息子の仇、取らせて頂く!」

 ラドン卿が剣を抜く。
 親子揃って相手の力量を読み違えるとはな。

 ラドン卿がいかに剣の達人であっても、死神を上回っているところは想像できない。

「親子共々、私との決闘で人生を終えるとは感慨深い」

 ラドン卿に応じる形でガルムが正眼に構えた。

「息子の仇め!」

 三合、打ち合いが生じる。
 ラドンの剣は迅雷が如く。
 速さと共に重心移動による過重が働き、ガルムを壁際に追い詰める程の力量を見せた。

(……意外とやるのか?)

 ラドンは王都に並ぶものなき剣の使い手だ。
 先代の剣聖の師でもあり、その実力は現役時代さながら、一切の衰えを感じさせない。

「うおおおお!」
「おっと……」

 しかし、ガルムの剣がラドンの肩を貫く。
 一瞬、何をしたのか分からなかった。
 というか、ガルムはいきなり型を崩して剣を下げたのだ。

 誘われたラドン卿が前に出た時には、もう決着はついていた。

「うがぁぁぁ!」

 失血と共に握力を失う老剣士。

 何度見てもガルムの剣術は神業だ。
 優秀な騎士の家系に生まれ、生涯で剣を極めたといわれたラドン卿ですら打ち倒すとは。

「み、見たこともない構え……。貴様、どこでその剣を習った!」
「先祖代々伝わる技ですよ」
「私は王国に存在する流派であれば全てを熟知している。貴様……まさか先住民の……」
「気づきましたか」

 刹那、ガルムの殺意がラドン卿の胸を抉った。

「あが……っ」
「お、おい、何をしている! まさかここで殺す気か!?」

 ドンドンドンドン!
 扉が激しくノックされる。
 勢いよく扉が放たれるのと、ガルムがトドメを刺すのは同時だった。

「……な、なぜラドン卿が!」
「宰相閣下、彼は私とレオンの決闘に納得がいかず、いきなり剣を抜いて襲い掛かってきたのです。言うなれば、これは正当防衛の結果です」

 護衛の騎士達を伴って入ってきた宰相が息を飲んでいる。
 目を見開いて事切れたラドン卿。

 まるで昆虫の標本のように床に縫いつけられている。

「ガルムを拘束しろ!」

 宰相の号令で近衛騎士が剣に指を掛けるよりも早く。
 ガルムが宰相を護衛していた二人の首を一閃した。

 首を押さえた騎士たちが崩れ落ちる。

「お、おい……。何をしている!」

 さすがにこれ以上はまずい!

「ストーリーを考えたのですよ。宰相とラドン卿は共謀して私を亡き者にしようとした。理由は……。そうですね、あとで適当に考えましょうか」

 宰相が逃げ出そうとするが、その背中を追いかけてガルムが剣を閃かせる。

「が……はっ」
「長く王宮に仕えた男の最後は儚いものでしたね」

 むせ返るような死の匂い。
 眩暈を感じる程の動悸に耐える。

 キャァァァァと扉の方から悲鳴が聞こえた。
 ウリアが、血だらけの執務室を見て腰を抜かしている。

「……ウリア。大丈夫だ」
「近づかないで!」
「ウリア、聞け。俺はこの者らに襲撃されたんだ。君もそう証言してくれ」
「殿下……?」
「いいから従ってくれ。本当に、俺たちは襲撃されたんだ。そうじゃなければこんなところで殺しあうはずないだろう」
「それは……確かにそうかもしれないです」
「そうだろ? 君は将来の王妃だ。暗殺の危機にさらされたこの俺を守ってくれ」

 説得を続けるとウリアは認めてくれた。

「私、証言します! 殿下が亡き者にされようとしていたと!」
「ありがとう。この狂った世界で、君だけが俺の希望だ」
「お慕いしています、殿下」
「素晴らしい愛情の深さですね」

(……ガルム。いかにお前が恐ろしい使い手でも、ウリアだけは渡さないからな)

「殿下たちに危害は加えませんので、ご安心を」

 ウリアの愛情だけが、俺にとって唯一の救いだった。
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