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賢王クードリファはグリフォンに跨ったまま結界を越えて、辺境伯の暮らしていそうな屋敷を探して回る。
そうして、一際大きな屋敷に目をつけて降りると、辺境伯とその妻らしき人物が畑を育てているところへ遭遇した。
辺境伯は冷徹で笑わないことで有名だったので、自然な笑顔を見せていることに多少戸惑う。
クードリファを認めると、すぐに表情を曇らせたが。
「その王冠……国王か。結界のことで何か用か?」
「この結界を張っているのは……あなたの妻と見受けられる」
「そうだ。レールディアが結界を維持している」
「それではその、彼女を王都に借りられないだろうか。魔王をこのまま見逃すことはできないだろう?」
クードリファが相談を持ち掛けると、ユージンは冷徹に哂った。
「こいつは王都でずっと虐げられていたらしい。王都に呼び戻した瞬間、心が黒く染まって結界を維持できなくなるかもしれないぞ。そうなれば王都どころか世界が滅びる」
「そう……なのか? レールディア嬢」
「ええ、はい……。私は王都で家族から虐待を受けていました。この力に目覚めたのはユージン様のお陰ですし、ユージン様の傍を離れることなどできません」
クードリファは目を瞑る。
「そうか。なら、別の解決策を探ろう。邪魔をしてすまなかった」
本当は別の解決策など存在しない。
失意のクードリファはグリフォンに跨ると、空へ飛び立った。
(手ぶらで帰る前に結界の範囲を見ていくか)
国境沿いを滑空する。
すると、結界の前で騒ぎが起こっているのを発見した。
「何の騒ぎだ?」
クードリファがグリフォンで駆けつけると、拘束された一家が地面に転がされていた。
「いったい何があったのだ」
「そのグリフォンと王冠は……国王陛下!? じ、実は結界に阻まれた邪悪な者達がいまして」
「……ほう。名は何と申す?」
「じゃ、邪悪な者達なんかじゃないわ! あたしはこの結界を維持しているレールディアの妹、アズナ・ゲーテなのよ!? 今すぐ縄を解きなさいよ!」
「この者らが例の一家か」
クードリファは剣呑に瞳を輝かせる。
「聖女レールディアは、父母と妹を拒絶しているようだが」
「せ、聖女? あの女を聖女と仰るのはおやめください、陛下。あいつは魔法が一種類しか使えない愚か者で、この結界も他の者が維持しているに違いません。真偽を確かめる前に情報を鵜呑みにするのは……」
「ほう、君はこの私が情報の真偽も確かめず君の姉を称賛していると考えたのかな?」
「え、まさか本当に……」
クードリファが剣に手をかけた。
「な、何をする気なの!?」
「殺した方が王都にとって得だと思ってな。お前達が生きているとレールディアが王都へ戻れないらしい」
「はぁ!? どうして……あたし達は何もしてないわ!?」
「家族ぐるみで聖女を虐待していたそうじゃないか。大罪だ。命をもって償うがいい」
「あ、あんな無能のせいであたしが死ぬの!? いやぁぁぁ!」
ジョロロロ……。
「この匂い……まさか漏らしたのか?」
クードリファからもたらされる死の香りに、アズナは失禁する程震え上がった。
そうして、一際大きな屋敷に目をつけて降りると、辺境伯とその妻らしき人物が畑を育てているところへ遭遇した。
辺境伯は冷徹で笑わないことで有名だったので、自然な笑顔を見せていることに多少戸惑う。
クードリファを認めると、すぐに表情を曇らせたが。
「その王冠……国王か。結界のことで何か用か?」
「この結界を張っているのは……あなたの妻と見受けられる」
「そうだ。レールディアが結界を維持している」
「それではその、彼女を王都に借りられないだろうか。魔王をこのまま見逃すことはできないだろう?」
クードリファが相談を持ち掛けると、ユージンは冷徹に哂った。
「こいつは王都でずっと虐げられていたらしい。王都に呼び戻した瞬間、心が黒く染まって結界を維持できなくなるかもしれないぞ。そうなれば王都どころか世界が滅びる」
「そう……なのか? レールディア嬢」
「ええ、はい……。私は王都で家族から虐待を受けていました。この力に目覚めたのはユージン様のお陰ですし、ユージン様の傍を離れることなどできません」
クードリファは目を瞑る。
「そうか。なら、別の解決策を探ろう。邪魔をしてすまなかった」
本当は別の解決策など存在しない。
失意のクードリファはグリフォンに跨ると、空へ飛び立った。
(手ぶらで帰る前に結界の範囲を見ていくか)
国境沿いを滑空する。
すると、結界の前で騒ぎが起こっているのを発見した。
「何の騒ぎだ?」
クードリファがグリフォンで駆けつけると、拘束された一家が地面に転がされていた。
「いったい何があったのだ」
「そのグリフォンと王冠は……国王陛下!? じ、実は結界に阻まれた邪悪な者達がいまして」
「……ほう。名は何と申す?」
「じゃ、邪悪な者達なんかじゃないわ! あたしはこの結界を維持しているレールディアの妹、アズナ・ゲーテなのよ!? 今すぐ縄を解きなさいよ!」
「この者らが例の一家か」
クードリファは剣呑に瞳を輝かせる。
「聖女レールディアは、父母と妹を拒絶しているようだが」
「せ、聖女? あの女を聖女と仰るのはおやめください、陛下。あいつは魔法が一種類しか使えない愚か者で、この結界も他の者が維持しているに違いません。真偽を確かめる前に情報を鵜呑みにするのは……」
「ほう、君はこの私が情報の真偽も確かめず君の姉を称賛していると考えたのかな?」
「え、まさか本当に……」
クードリファが剣に手をかけた。
「な、何をする気なの!?」
「殺した方が王都にとって得だと思ってな。お前達が生きているとレールディアが王都へ戻れないらしい」
「はぁ!? どうして……あたし達は何もしてないわ!?」
「家族ぐるみで聖女を虐待していたそうじゃないか。大罪だ。命をもって償うがいい」
「あ、あんな無能のせいであたしが死ぬの!? いやぁぁぁ!」
ジョロロロ……。
「この匂い……まさか漏らしたのか?」
クードリファからもたらされる死の香りに、アズナは失禁する程震え上がった。
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