ほしいほしい妹にすべてをあげる姉の話

ほしいほしい妹にすべてをあげる姉の話

小さいころ、お母様とお父様に言われたのです。「姉は、妹にすべてをあげなければいけない」って。自分が幸せだと思うことも、ほしい物も、全部全部全部。私は妹に、楽しみも、幸せも、あげなければなりませんし、妹がほしがったものも、喜んで差し上げなければなりません。
私と違って妹は、有能なのです。昔から、私よりお母様とお父様に愛されていたのも、幼子ながらに感じ取っていました。与えられる服も、靴も、食べ物も、全部違っていたのですから。それでも妹は、私からすべてを奪っていきます。そういえば、婚約者を奪われたこともありましたね。私だって腐っても公爵家の長女。そこそこの婚約者をあてがわれたこともありました。その時に妹は、
「お姉ちゃんばっかりずるいですわ！！！わたくしに、その婚約者、くださいな」
といって、私から婚約者を奪ったのです。そこそこの婚約者と有能な妹が付き合うことになって両親は大激怒。私は殴られたり蹴られたりしました。あげろといったのは貴方たちでしょうに。それからすぐ、妹は婚約者と別れました。私が殴られるのも、計算のうちだったのでしょうかね。ひどい言葉を言われてふられた婚約者の方にも、嫌われました。末恐ろしい妹ですね。妹が私にいじめられたと嘘をいって、部屋に閉じ込められたこともありました。あの時は怖かったですわ。そのあと妹に見下されたのは、いい思い出ですわね。
さきほど、村の方がここへきて生贄をもらいにやってきました。この国には、国を守護しているというドラゴンに百年に一度公爵家の娘を生贄として捧げるという決まりがあるのです。両親は私達に、「どちらが生贄になるか決めておいで」といいました。私が生贄になるのは目に見えています。自ら汚い役はしたくなかったのでしょう。
そういうわけで、私は今妹とどちらが生贄になるか話し合っています。
「ねぇお姉ちゃん。どっちが生贄になります？」
妹は笑ってこちらを見た。妹が思っていることは分かっております。私は妹を見た。
「いいですわ、貴方に、生贄になる権利を上げますわ。」
妹は驚いた様子でこちらを見た。
「はぁ！？何言ってるのお姉ちゃん！！！お姉ちゃんが「わかっていますわ」」
私は妹の言葉を切った。
「遠慮しているのですわよね…でも、私は貴方に幸せをすべて上げなくてはいけないのですわよ」
妹はえらく激怒した様子で私に怒鳴った。
「死ぬことが幸せだっていうの！？」
あら、何を言っているのでしょうか…
「死ぬこと以外に、幸せがありますの？」
私がそう言ったら、妹は固まって、うつむいた。幸せになれることに喜びを感じていますのね。
「村人さん！！！」
呼んで現れた村人さんに、私は動かない妹を差し出した。村人さんは、動揺した様子で私を見た。
「こちらのお方で、よろしいのでしょうか…？」
村人さん、私に幸せにならなくていいのかと心配してくださっていますのね、お優しい方ですわ…でもいいんですの、自分一人で幸せになるのも素敵ですから。
「何なら、お母様とお父様も連れて行ってくださってもいいですよ！！幸せになってほしいですものね」
私がそう言ったら、村人さんは顔を青くして、去ってしまいました。あらら。もっとお話したかったですわ…。
でも、私は何て家族孝行な子なのでしょうか。やっぱり家族には幸せになってもらいたいですから、当然ですわね。さてと。
私もそろそろ、幸せになりましょうか。