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絆と禁忌
禁じられた獣の真実
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コネコルームから出てきた男は三日前とはまるで別人だった。
以前はパイロットして精気がみなぎっていたのに、影も形もない。
「わだじは今までなんてことを」
彼は体中の水分が流れ出るんじゃないかと思うぐらい、大量の涙を流していた。
「その罪を贖う方法があるよ。だから、あなたが知っていることを教えて」
リコリスさんが聖母を想わす声色で男を優しく諭した。
それは罪人に赦しを与える聖母のようだった。
だが、騙されてはいけない。彼女も彼をこんな風に変えた共犯者なのだ。
リコリスさんは僕らと違って優しいので、いつもならこういうことに加担しないが、今回は事情が違う。
ミドリを毒で苦しめた共和国に対して、彼女も相当怒っているのだ。
彼は懺悔するかの如く自身が知る情報を教えてくれた。
いちいち泣き喚くせいで、若干聞き取りにくかったのが難点だった。
彼は重要な情報を握っていた。
共和国が殺そうとするのも当然だ。
まずは新機獣について。
あの機獣の名前はスコーピロイドというそうだ。
スコーピロイドは自然界に生まれた機獣ではない。
錬金を用いて、人工的に作り出した機獣なのだそうだ。
共和国では錬金獣と呼ばれているらしい。
スコーピロイドは唯一の成功例であり、現在も開発が進められているそうだ。
錬金獣が生まれた発端は共和国内で古代文明の遺跡が発見されたことにある。
遺跡から超大型の錬金装置が見つかったらしい。
その装置は異なる種類の機獣のケルンを錬金によって、合成することを可能にする代物で、錬金獣はこれによって生み出されたそうだ。
あの機獣の素性はなんとなく予想はできていた。
スコーピロイドと交信を試みたんだけど、複数の心を感じられたのだ。まるで一つの器に複数の心があるみたいに。
彼らの心には痛み、苦しみ、悲しみを中心とした様々な負の感情が渦巻いていた。
その中でも全ての心に共通している物がある。
それは憎悪だ。
その心はいずれも人間への激しい憎悪に染まっていた。
長時間、交信を試みていたら、僕の頭がおかしくなっていたに違いない。
パイロットの話では、スコーピロイドが初めて錬金され、ケルンから肉体が再生された時、その場にいた研究者たちを殺し尽くしたそうだ。
その討伐にはかなりの戦力を消費したらしい。
修復しなくても助かった。
僕らなら最小限の被害で押さえることもできただろうが、小さくとも被害が出る。
戦争の原因も錬金獣に関係している。
この国には同じ時代の遺跡が残っているそうだ。
発見された遺跡から他の遺跡の場所を示す地図が発見されたらしい。
共和国は帝国が遺跡を見つけ、同じ技術を手に入れる前にそれを手中に収めようと考えているみたいだ。
遺跡の場所はこの町とは逆方向。
帝国に続く国境にある霊峰。ジラリンフ霊峰だ。
この国の国名であるジラリンフ王国の名の由来にもなっている。
ジラリンフ霊峰は数千メートル級の山々が連なるこの星、最大級の連峰だ。
険しいだけでなく、モンスターが闊歩する危険地帯でもある。
山岳行動に長けた機獣でも踏破は不可能。
イドの長い歴史の中で、幾度となく挑戦者たちを阻んできたのだ。
帝国との交易ルートを開拓するために、何度も部隊を派遣してきたが、未だ成功していないそうだ。
鳥型機獣を使って、空から越えることも難しい。
山の上空は激しい風が吹き荒れ、近づくことさえ困難だそうだ。
この国が帝国から軽視されているのはジラリンフ霊峰のせいでもある。
踏破不可能な霊峰が自然の城壁となるため、この国を落とされても、帝国本国へ攻め入られる危険がないからだ。
それに金属鉱石などの資源も乏しいし。
一通りの情報を引き出したので、もうパイロットに用はない。
このまま解放しても良かったんだけど、ほっといたら自殺しかねないので、ウラノス教に入信させておいた。
少し触れただけなのに、すでに熱心な信者になっている。
悪い宗教って人の心の隙を突いてどんどん広がっていくんだよね。良い勉強になった。
共和国から命を狙われる心配はないだろう。
この国には隠し持っていた毒薬で自殺されたと伝えておいた。
生体認証でもされない限り、同一人物とは分からないぐらい変わり果てているし、名前も変えている。
洗礼名とか戒名みたいなやつだ。これからはウラノス教の信者として、機獣を大事にして生きてもらいたいものだ。
乳母さん経由の情報なんだけど、共和国は戦争を継続する意向を見せている。
近々何かしらの声明を出すそうだ。
共和国は錬金獣の強大さを誰よりも理解している。
引き下がるわけにはいかないのだろう。
以前はパイロットして精気がみなぎっていたのに、影も形もない。
「わだじは今までなんてことを」
彼は体中の水分が流れ出るんじゃないかと思うぐらい、大量の涙を流していた。
「その罪を贖う方法があるよ。だから、あなたが知っていることを教えて」
リコリスさんが聖母を想わす声色で男を優しく諭した。
それは罪人に赦しを与える聖母のようだった。
だが、騙されてはいけない。彼女も彼をこんな風に変えた共犯者なのだ。
リコリスさんは僕らと違って優しいので、いつもならこういうことに加担しないが、今回は事情が違う。
ミドリを毒で苦しめた共和国に対して、彼女も相当怒っているのだ。
彼は懺悔するかの如く自身が知る情報を教えてくれた。
いちいち泣き喚くせいで、若干聞き取りにくかったのが難点だった。
彼は重要な情報を握っていた。
共和国が殺そうとするのも当然だ。
まずは新機獣について。
あの機獣の名前はスコーピロイドというそうだ。
スコーピロイドは自然界に生まれた機獣ではない。
錬金を用いて、人工的に作り出した機獣なのだそうだ。
共和国では錬金獣と呼ばれているらしい。
スコーピロイドは唯一の成功例であり、現在も開発が進められているそうだ。
錬金獣が生まれた発端は共和国内で古代文明の遺跡が発見されたことにある。
遺跡から超大型の錬金装置が見つかったらしい。
その装置は異なる種類の機獣のケルンを錬金によって、合成することを可能にする代物で、錬金獣はこれによって生み出されたそうだ。
あの機獣の素性はなんとなく予想はできていた。
スコーピロイドと交信を試みたんだけど、複数の心を感じられたのだ。まるで一つの器に複数の心があるみたいに。
彼らの心には痛み、苦しみ、悲しみを中心とした様々な負の感情が渦巻いていた。
その中でも全ての心に共通している物がある。
それは憎悪だ。
その心はいずれも人間への激しい憎悪に染まっていた。
長時間、交信を試みていたら、僕の頭がおかしくなっていたに違いない。
パイロットの話では、スコーピロイドが初めて錬金され、ケルンから肉体が再生された時、その場にいた研究者たちを殺し尽くしたそうだ。
その討伐にはかなりの戦力を消費したらしい。
修復しなくても助かった。
僕らなら最小限の被害で押さえることもできただろうが、小さくとも被害が出る。
戦争の原因も錬金獣に関係している。
この国には同じ時代の遺跡が残っているそうだ。
発見された遺跡から他の遺跡の場所を示す地図が発見されたらしい。
共和国は帝国が遺跡を見つけ、同じ技術を手に入れる前にそれを手中に収めようと考えているみたいだ。
遺跡の場所はこの町とは逆方向。
帝国に続く国境にある霊峰。ジラリンフ霊峰だ。
この国の国名であるジラリンフ王国の名の由来にもなっている。
ジラリンフ霊峰は数千メートル級の山々が連なるこの星、最大級の連峰だ。
険しいだけでなく、モンスターが闊歩する危険地帯でもある。
山岳行動に長けた機獣でも踏破は不可能。
イドの長い歴史の中で、幾度となく挑戦者たちを阻んできたのだ。
帝国との交易ルートを開拓するために、何度も部隊を派遣してきたが、未だ成功していないそうだ。
鳥型機獣を使って、空から越えることも難しい。
山の上空は激しい風が吹き荒れ、近づくことさえ困難だそうだ。
この国が帝国から軽視されているのはジラリンフ霊峰のせいでもある。
踏破不可能な霊峰が自然の城壁となるため、この国を落とされても、帝国本国へ攻め入られる危険がないからだ。
それに金属鉱石などの資源も乏しいし。
一通りの情報を引き出したので、もうパイロットに用はない。
このまま解放しても良かったんだけど、ほっといたら自殺しかねないので、ウラノス教に入信させておいた。
少し触れただけなのに、すでに熱心な信者になっている。
悪い宗教って人の心の隙を突いてどんどん広がっていくんだよね。良い勉強になった。
共和国から命を狙われる心配はないだろう。
この国には隠し持っていた毒薬で自殺されたと伝えておいた。
生体認証でもされない限り、同一人物とは分からないぐらい変わり果てているし、名前も変えている。
洗礼名とか戒名みたいなやつだ。これからはウラノス教の信者として、機獣を大事にして生きてもらいたいものだ。
乳母さん経由の情報なんだけど、共和国は戦争を継続する意向を見せている。
近々何かしらの声明を出すそうだ。
共和国は錬金獣の強大さを誰よりも理解している。
引き下がるわけにはいかないのだろう。
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