神様project【七曜の女神と幾億の旅跡】

青衣

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第4章【水曜の湖畔《時雨》】

囚われと裏切【アシダカ軍曹視点】

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 軍曹は結局何も出来なくて惨めに泣いて、それで智美と一緒にスノーモービルで帰ったのは覚えている……けど泣き疲れて記憶が曖昧なのは確かなこと。
 けど目が覚めて意識がハッキリとしてくるならば当然辺りを見渡すのだが、ここがどこなのか全くわからない場所につれてこられて来たのがわかる。

 華やかで窓も無い空間というのは恵麻の家に似ているが、雰囲気がまるで真逆……あそこは心地よい涼しさを感じられると言うのにここは暑さは感じられないものの不思議と熱意を感じ、矛盾した不可思議な雰囲気は小さな少女の理解を苦しませ、それと同時に不安が押し寄せてきた。



 ……これは何なのだ?



 部屋の中央にはひときわ目立つ大きな出っ張った何かがあるものの、台座だと思われるソレは軍曹の心を妙に引き付けてならないもだったから警戒心の欠片もなくついつい上に立ってみた。
 するとガコンと心地の良い押しごたえのあるスイッチは当然子供と言えどそれなりの重さはあるのだからへこみ作動する。

「むっ!? 部屋の扉が開いたんだぞ!! これはスイッチだったのか……けど何で部屋の真ん中にこんなのかあるんだぞ? まぁ良い、出られればここがどこだか分かるんだぞ~。」

 軍曹は扉に近づこうとしたときだ、扉が閉じてしまったじゃないか!?
 あまり考えるのが得意じゃない軍曹にもこの仕掛けはすぐにでも理解できた、おにーさんがよく遊ぶ謎解きのテレビゲームでも似たようなのがあったから身代わりに何か乗せておけば扉は開いたまま、うむっ……閃くのは気持ちが良いんだぞ!!

 と言うわけでそれこそ大きくて重そうな机の脚を乗せてみると、やはり思惑通りスイッチが押されて作動し……なかったんだぞ、どういうことなのだ?

「うむむ? きちんと感圧されてボタンは押されてるはず……困ったぞ?」

 壊れてるのかと思い再び軍曹が乗っかってみると、やはり扉は開く。
 その後部屋にある押せそうなものはほとんど試したが結局は軍曹が乗らなきゃ開かない仕組みだと理解し、自らが押さないと開かない半面今のところ打開策など考えられるはずもなくフカフカなベッドに腰掛けた。

「お腹が空いたんだぞ……今は何時なんだぞぉ……。」

 泣いたにしろ寝ていたにしろ子供の代謝は半端じゃなく、ものの数時間もあれば胃袋はご飯を求めて鳴り響く。
 開かない扉、密閉空間……時計がない、この要素があるならたとえ部屋の広さはかなりあれど正気を保てる方が難しい。
















 どうにも暇すぎたのでうっかり眠ってしまったが、それもつかの間な気がする……突如として肩を揺さぶられる感覚に目が覚めた軍曹は始めの内は起こしてくれた主の顔を見つめるも意識がハッキリしてくるとまたもや子供らしからぬ怒りの表情へと豹変へざるをえなかった。
 否、こうしなきゃいけなかったんだぞ。

「がるるっ、よくも軍曹をこんなところに閉じ込めたなっ!! 何が目的なんだぞ!?」

「まぁまぁそう焦っちゃダメよ?」

 ベッドから跳ね起きては腰に添えた拳銃に手を伸ばしては笑顔が素敵な智美に銃口を向ける。



 ……あんなにも優しく慰めてくれたから軍曹はおにーさん以外に心を開いて信じてきたのに、なのに何でこんな仕打ちを。



 軍曹とて正直怖いんだぞ、あの威圧感は初対面の時に実感していたはずなのに、どうしてそんな笑顔を浮かべながら近寄りがたいオーラを出すことが出来るのかと。
 笑っているのか怒っているのか……矛盾したような表情は相手の心を蹂躙するには容易い、そうして今までにもたくさんの人を陥れては笑ってきたのだろう?

「こんな状況で焦らない方がおかしいんだぞ!! 返答次第では、う……撃つんだぞ!? 本物なんだぞ!? 当たったら血が出て痛い痛いなんだ……ぞ?」

「そう、なら撃ってみても良いわよ? とある偉い人が言ってたけど【人を殺すのは銃弾でもない、引き金を引く自分の意思だ】ってね。 軍曹は人を撃てる? 殺せる? 罪悪感を背負って死ぬまで生きれる?」

 笑っていた……いや、嗤っていた智美の表情が険しくなりそのマゼンタ色の瞳が軍曹の瞳を貫く。
 見続けたら頭がおかしくなりそうな悪寒に刈られるというのに動くことはおろか、視線も当然離せない。

「さぁて、お腹空いただろうから夜ご飯をね……。 まずは落ち着いて、そして今から話すことを食べながら聞いてちょうだい。 」

「り、り……理解したんだぞ。」

 震える腕をぎこちなく使っては出されたチャーハンとスープを食べ進めるが、箸を使わない物で良かったが軍曹にとっては明らかに初めての経験。
 おにーさんの部屋ではアシダカグモはニンゲンを除けばペットを飼っている訳じゃないなら食物連鎖の頂点、それは本人も慢心したくなる……それなのに初めて感じた敗北感。

「じゃ、要点を話すわ。 【明日までに魔法が使えなければ死ぬ】という名目でこの部屋に置いてるの。 リミットは明日の夕方にまでスイッチにアイスキューブを設置して脱出すること、じゃなきゃ……天井のスプリンクラーから毒ガスが降り注ぐわよぉ?」



 軍曹には今の言葉が正直理解できなくて、もう1度言って……いや、言わなくても良い。
 正確には……だ、理解の範疇を越えていたと言うべきだろう。



 その意味を理解した瞬間、軍曹はスプーンをとうとう力なく落としてしまったんだ。
 たぶんさっきの言ったことは嘘偽りのない本気の言葉だと。

「なっ、な……死ぬのか? い、嫌なんだぞ……死にたくないんだぞ!!」

 軍曹はとっさの判断で智美の胸ぐらを掴んでは抵抗し始め訴えた。
 普通の一般人ならこの時点で灰すら残さず焼き付くされるだろうが、智美はその怒りに任せた軍曹の瞳を見ては何かを考えながら引き剥がし、ベッドに放り投げる。
 フカフカなベッドは軍曹を優しく包んでキャッチしてくれるも宣言された言葉は重くのし掛かかっては寝るのすら恐ろしい。

「じゃあねぇ~。」

「ま、待ってぇええぇぇっ……。」

 智美が出ていくその瞬間、数秒だけ開いた扉を見ては逃げ出そうと試みようもベッドからの距離を考えればほぼ無理。
 軍曹の頭のなかは今やパンク寸前で空腹なのに目の前のチャーハンやスープを【死ぬ】という言葉を思い出すだけで口にするのすら恐怖を覚えては震える腕がスプーンを再び落とさせてしまう。
 もはや軍曹は考えるのを止めてベッドにうつ伏せになって……それから、それから……。
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