日々是成長×神様project・HDリマスター

青衣

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十月

十月二日

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十月二日
刈り取り。














   夜朧の広大な敷地の一角に風景にふさわしくないものがドンッとたたずんでいる。

   この地方はまだ二百年と時代が遅れているようなものであり、稲刈りなど手作業で行っている人が九割九分九厘異常なのだが、完全に十割ではないのはこの人のせい。

 「金色の稲穂のカーペットじゃねぇか!? うっほぉ、興奮するぜ!」

   玄弥は田園にコンバインを入れるとエンジンをかけては次々と米を収穫している。
   夜朧の民の一人一人に割り当てられた田園の数百倍を誇る田園はとても特別な存在な意味合いを持っており、風見の民の玄弥にここまで借地してもらえるのには意味がある。

   ご存じの通り風見の民は風や植物を操るといった魔法を使うことができるため、稲なども意図的に豊作にしてしまうことが可能であることや、品種改良などについての実験田園だったり、色々な活用法があるようだ。

   ただし、借地であることや夜朧の敷地で採れた米であるため当然課税はされ、三割を納めなくてはいけない。
   まぁ、彼にとっては税など痛くも痒くもないレベルだと思うが。

 「はぁー……夜朧だって寒い地域だからなぁ。 寒さに強い米を作らなきゃ、ここのヤツらは満足に白米だって食えないからな。」

   玄弥は風見だが、米の問題とあらばこちらの管轄になる。
   植物や穀物だって風見のエキスパートが解決に導くためなら、地方の隔て等関係無いのだ。

 「あー……考え事してたら腹が減ってきたな。」

   玄弥はコンバインの助手席に乗せてあるリュックから、大きな白米のおにぎりを取り出すと豪快にかぶりついては顔をしかめる。
   悪い意味でしかめているのではなく、梅干しの酸っぱさに感動しているのだ。

 「おにぎりが腐らないように梅干しを入れてるんだよな、考えたヤツ頭飯のか悪いのか。 あぐっ、もぐ。」

   白米が貴重なこの地方で豪快に巨大な白米のおにぎりにかぶりつく玄弥はとても幸せを感じていた。
   仕事が終われば風見に戻るのだが、毎日三食当たり前のように白米が食えてなおもお代わりしたいならいくらでもある……、そう考えれば夜朧の米の生産も頑張らなくてはいけない今後の課題となる。

 「将来、夜朧の地方の皆が毎日白米食えるように俺らが頑張らないとな。」

   玄弥は漂白でも取ることの出来なくなった泥のついた作業着で、汗を少しばかり吹きながら遠くに見据える夜朧城に誓う。
   そしてまたコンバインは前へ前へと力強く稲を刈り取って行った。














米は力の源である。
そりゃ食わなきゃ力がでないなら畑仕事も億劫になりますよ。
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