日々是成長×神様project・ＨDリマスター

十月

十月二十七日

十月二十七日。
これはこれは面倒なもの。














   風見の栽培所でも手間のかかる葛根湯の一式の生薬は、その品質からか高いお金を出してまでも夜朧で人気の一品なのだが、納品のときの玄弥はこれだけは忘れない。

 「いつもありがとうございます……。」

   聖奈のための特別な調合の葛根湯であるが、いつにもなく元気は無いと伺う玄弥は無理もないような素振りでため息をつく。
   そのため息の理由は彼女の心に刺すように響くとなると、表情も重くなりがちであろう。

 「聖奈は加減を知らないからな。 休むときにはしっかり休まなきゃ体がいつか本当にぶっ壊れる。 それこと風邪なんかの冗談じゃすまないレベルにな……。」
   
   聖奈は夜朧のためなら自分がどれほど疲弊しょうが治安や景気回復と言ったものには、全力を尽くすタイプであるが、完全にとは言わないが目の前が見えなくなるようだ。
   それは誰しもが同じだが、聖奈は特に激しいのだ。

 「自分の体の管理が満足に出来ない私は、失格なのでしょうか……。」

   聖奈は己を酷使し過ぎて弱って風邪をこじらせた体さらに布団に潜り込ませるも、甘くない言葉が飛んでくる。

 「失格だな。」

 「……。」

   自分でも、そんなことはない……等の言葉は期待したかったが、ストレートにそんな言葉を浴びせられると自分では失格と思っていても、心が重苦しくて仕方がない。
   それに、心配そうに見つめる玄弥の表情も怒ったようにも見えるのは、風邪からの視界のぼやけでは無いようにも思える。

 「聖奈は不気味すぎるほどに恋と同じく完璧主義者だ。 ……なのに自分の体調管理のひとつもできないようなら、当然夜朧の管理だって出来やしない。」

 「返す言葉もないものです。」

   寂しげな天井を見つめてはため息をつく聖奈だが、体調管理と夜朧の管理は別だと反論しようにも正論に思えてくるようで、口にした言葉を飲み込むも、心は以前と体のだるさからか晴れないまま。
   ゆっくりと敷布団に身を委ねては真っ暗な微睡みに落っこちていくしかないと思うと、たまにはこういうお休みがあっても悪くはないと感じる聖奈。

 「飯の時間になったらお粥作りに来るからよ、ウロチョロしてるんじゃねぇぞ。 聖奈の事だから動き回りそうで怖いんだよな……。」

   玄弥は振り向きもせずにポータルを開くと、苦笑いの声が聞こえるのと同時に風見へと帰って行く。
   動くなと言われた聖奈はゆっくりと夢の中へと今は溶けて行く。