捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希

文字の大きさ
19 / 73

討伐終了したんだから、最速で母様の元へ戻ります!!

しおりを挟む
 ヨナリウスとウィリアムが深い眠りに落ちている早朝。
 陣営に、アンデッド討伐終了の知らせが届いた。

 すでに起きていた大人たちが集まり、状況確認が始まる。
 伝えられた内容に、一同は凍りついた。

「……報奨金が出る?」

「しかも、かなりの額だと?」

 討伐したのは、この一行ではない。
 バンーテーン王国から二つ隣の国――シュバリエ皇国から来た随行団が、昨夜のうちにすべて片づけたという。
 そして、その責任者の一存で、こちらにも等分の報奨が支払われるらしい。

 一同の脳裏に、同じ顔が浮かんだ。

「……まさか、ヨナ?」

「いや。二人とも、昨夜はぐっすり寝てたぞ……」

「……でも、可能性としては……」

 心当たりが多すぎて、顔面蒼白のまま、大人たちは決断した。

「叩き起こせ。今すぐだ!」

 眠い目をこすりながら、フリンクスに抱えられたまま、二人は会議用の大天幕へ運ばれてきた。
 そこには簡易の長机と、来賓用のソファーが並べられている。

 その瞬間、

「え?」

 シュバリエ皇国から来た随行団――その男は、ヨナリウスの顔を見た瞬間、息を呑んだ。
 まるで昔の記憶を引きずり出されたような目で。

「? どうかなさいましたか?」

 ハイランズ伯爵が問いかける。

「い、いえ……。お気になさらず……」

 男は口元を押さえ、何でもないと作り笑いを返した。
 伯爵が問いただそうとするも、

「う~ん……な~に~……」

 ぐずる声が響き、話は中断される。

「おーい、ヨナー。起きろー。」

 ドモンの声が降ってきて、ヨナリウスは「ふにゃ?」と、普段は出さないような声を漏らしながら目を開けた。

「どうしたの……? ぼく、まだねむ……」

「待て、寝るな! ヨナ!」

「ほら、起きよう! おっき! な?」

 再び眠りに落ちようとするヨナリウスを、フリーダムの面々が必死に引き留める。

「父様~……ど~かした~……」

 一方ウィリアムは、ソファーに腰掛けた父の膝の上で、目をこすりながら再び眠ろうとしていた。

「お前たち、昨夜はおとなしく寝ていたんだよな?」

 今回の指揮を執る、ウィリアムの父――ハイランズ伯爵が、息子の頭を撫でながら尋ねる。

「……うん。これでもういい?」

 ぶっきらぼうに答えると、ウィリアムはそのまま目を閉じた。

「ヨナ、ヨナもだよな?」

『うん』以外は許さないと言わんばかりに、ドモンがヨナリウスの体を前後に揺すり、返事を促す。

「なんでぇ~?」

 むにゃむにゃ言いながら、目をこすり続けるヨナリウス。

「それはですね。お仕事が、いつのまにか終わってしまったからなんですよ?」

 ケイオスがそう告げた瞬間――

「じゃあ、いますぐおうち!」

 眠気は、どこかへ消え去った。

 ヨナリウスはフリンクスの腕からぴょんと飛び降りると、ててて……と走り出し、伯爵の前でぴたりと止まる。
 そして、膝で眠るウィリアムを叩き起こした。

「ウィル! おうちに帰れるぞ!」

「……だから、なに~……」

 ヨナリウスの喜びとは対照的に、ウィリアムは完全に夢の中だった。
 伯爵は、その様子を微笑ましく見つめている。

 ――だが。

 ヨナリウスは、ふっと表情を変え、ウィリアムの耳元に口を寄せた。

「早くしないと、ぼくはせっぷ……」

 その一言で、ウィリアムは完全覚醒した。

「父上! 今すぐ帰りましょう! 帰りたい! おうちに帰るー! 母上ー!!」

 突如泣き出した息子を、伯爵は慌てて抱き上げる。

「よしよし……」

 苦笑しつつ背中をぽんぽんと叩き、優しくなだめる。

「確かに……。まだ四歳児が、母親と一晩も離れるのは酷でしたね……」

 周囲の大人たちも、すっかり同情的だった。

「怖いよう……怖いよう……。お腹きって、首を切って……」

 小さな声でそう呟き続けるウィルのことなど知らず――
 泣き止まないウィリアムと、目に涙を浮かべてしょんぼりするヨナを見た大人たちは、即座に帰還を決定した。

「今から戻れば、夕方には宿屋のある町に着くからね。」

 泣き止まない息子を抱き、あやしながら、伯爵はヨナリウスとともに馬車へ乗り込んだ。
 後の話し合いは、フリーダムのメンバーが引き受けてくれるらしい。

 護衛として、辺境伯家の騎士五名が付き、ヨナリウスたちは帰路についた。

 大人たちが外で簡単なやり取りを終え、馬車が動き出す。

 そこでヨナリウスが、ウィリアムに向かって言った。

「大丈夫だよ、ウィル……。すぐにおうちに着くからね?」

 そう言ったかと思うと――

(お馬さん、お願い!)

 両手を組み、祈るような仕草をするヨナリウス。

 次の瞬間。

「ヒヒーン!」

 馬車は、あり得ない速さで走り出した。

「え? なにが……?」

 ヨナリウスと息子を両脇に抱え、困惑する伯爵。

「お前たち、いったいどうしたんだ?」

 外の御者も戸惑った声を上げる。

「いったん止めてくれ! このままだと馬が潰れる!」
 
 伯爵が慌てて、大声を出して御者に指示するも、

「馬が言うことを聞いてくれませーん!」

 御者はお手上げ状態で、泣きそうな声を上げている。

「伯爵様ー!」

 次第に遠ざかっていく護衛騎士たちの声。

 だが馬たちは速度を緩めるどころか、ますます勢いを増していく。

 まるで、幼い祈りに導かれるように。

 そう――

(早く、母様のところへ――)

 一心にそう願い続けるヨナリウスに、応えるかのように……。

 行きは急いで二日で辿り着いた道のりだ。
 本来なら三日かかる旅路を――彼らは、その日の夕方までに走り切ってしまった。

 辺境伯領内へ入った途端、馬はまるで寿命を終えたかのように、ばたりと倒れ込む。
 あまりの速度で突っ込んでくる馬車があったと通報が入り、門の周辺ではすでに厳重な警戒態勢が敷かれていた。

 その報告を聞きつけ、ローウェン・ヴァレン辺境伯は自ら門へ向かう。
 ウィリアムの母ナターシャ、そしてヨナリウスの母であるユーリも、急ぎ駆けつけてきた。

 彼女たちの姿を見るなり、

「母様~!」

「母上~!」

 大声を上げて、それぞれの母親に抱きつく二人。
 馬車のすぐそばでは、真っ青な顔をした伯爵が、口を押さえて座り込んでいた。

「だ、大丈夫か?」

 辺境伯が声をかけ、背中を優しくさすっている。

「だ、大丈夫です……。兄上、こちらは変わりありませんか? ちなみに隣国の討伐は、全て終了しま…………」

 真っ青な顔で弟が報告する内容に、違和感を覚える辺境伯。

「え? もう? だって、うちが向かったのはおととい……」

「なんでも、我が領土から三つ先にあるシュバリエ皇国が、討伐してしまったと……。」

 水を飲み、ほっとしたのか顔色が少し良くなっている。

「なんであそこが隣の国に?」

「極秘情報らしいのですが……人捜しに来ていたついでらしいです。」

「人捜し?」

「ええ。現皇帝の弟君の奥方が、行方不明だそうで……。」

「……それは、極秘になるな……」

 辺境伯兄弟が、そのようなやりとりをしている頃。
 ドモン達フリーダムのメンバーは、伯爵の代わりに、今回の討伐についての報告会に参加していた。

 結局は、なぜか理由があやふやな中、多額の報酬金を受け取ることになり、困惑したままの一行に、とある人物が声をかけてきた。

「あの~、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「どうかされましたか? ディーバリー副団長殿。」

「さっきここにいた、子供についてなのですが……。」

「子供? ですか……。」

「銀髪に、紫の瞳をした子供についてなのですが……。」

 その一言に、フリーダムメンバーは瞬時に警戒した。

「その子が、何か?」

 胡散臭い笑顔で、ケイオスがディーバリー副団長に訪ねた。

「もしかして、伯爵様のお子様でしょうか?」

「うちのパーティーメンバーの子供だ。それが何か?」

 ドモンが、ぶっきらぼうに答えた。

「では、あの子のご両親はそちらの国の方で?」

「ええ。そうですよ? それが何か?」

 今度は、警戒心満載に、ケイオスが聞き返す。

「……いや。大変失礼しました。先ほどの子供が、あまりにも我が主の小さい頃に、そっくりだったもので……。」

「主?」

「はい。我が主、今回単独でアンデッド討伐を成し遂げ、報奨金をそちらと等分にするように指示をした、コンラッド・ウィン・ヴァーミリオン公爵です。」

 その一言に、フリーダムメンバーは困惑した。

「え? 公爵?」

「っていったら、貴族だよな?」

「しかも、シュバリエ皇国って、ずいぶん遠いぞ?」

 そのことから、彼らはある推測に至った。

「うちのメンバーは、全員平民ですけど……」

「貴族に関わり合いなんて……。」

「うちの、辺境伯様と伯爵様くらいじゃないですかねえ?」

 彼らは即座に、そう答えた。

「え?平民……ですか……。」

 フリーダムメンバーの返答に、即座に肩を落とし落胆するディーバリー副団長。

「ま、世の中には3人、同じ顔をした人がいるって言いますからね?」

「そうですよね、他人のそら似なんて、よくあることですし……。」

 ケイオスの一言に、 ディーバリー副団長は肩を落とした。

(他人の空似、か……)

 そう自分に言い聞かせ、彼はその違和感を胸の奥へと押し込めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです

鍛高譚
恋愛
内容紹介 「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」 王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。 婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。 「かしこまりました」 ――正直、本当に辞めたかったので。 これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し…… すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。 そしてその瞬間―― 王宮が止まった。 料理人が動かない。 書類が処理されない。 伝令がいない。 ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。 さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。 噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。 そしてついに―― 教会・貴族・王家が下した決断は、 「王太子廃嫡」 そして。 「レティシア、女王即位」 婚約破棄して宰相をクビにした結果、 王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――? これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの 完全自業自得ざまぁ物語。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...