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1皿目 魔牛のステーキ
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テオは、自分がいつ起き上がったのかさえもよく覚えていないほど夢中になってステーキを食べ続けた。
捕食される側だとか、逃げようだとかいうことも忘れて無心でステーキを咀嚼しては胃袋へと流し込み、リリアナと競うかのように「おかわり!」とハリスに空の皿を差し出す。
テオの体は内側からじんわり温かくなっていく。
不思議なことに、食べれば食べるほど体の痛みが取れて元気になり、さらに食欲が増すのだ。
ステーキの肉質は柔らかく、いくら食べてもあごが疲れない。
味は牛肉に近い気もするが、これまでこんな分厚いステーキを食べた経験のないテオには、なんの肉か相変わらずわからないままだ。
それでも舌と唾液と胃袋が、これは絶品だとテオに訴え続けている。
ハリスが1皿ごとに香辛料や付け合わせのハーブを替えて味に変化をつける細やかな気遣いをしてくれるため、単調な味に飽きるということもなく、どんどん食べられる。
ハリスは相変わらず黙々と肉を焼き続けていたが、テオの様子に満足しているのか口元には笑みを浮かべていた。
生肉が残り1枚となった時、リリアナがテオを睨んだ。
「最後の1枚はハリス先生の分だから。ずうずうしくまだ食べたいとか言っちゃダメよ」
「おまえがそれを言うか? いったい何枚食ったんだよ」
テオが呆れながら言い返す。
リリアナは恐ろしい魔物だ。
普段は鍛え上げた腹筋で引き締まっているテオの下っ腹がぽっこり出て少々苦しいというのに、リリアナの腰は薄っぺらいままだ。
あの大量の肉はどこへ消えたのか。
コイツに食べられたらその答えがわかるんだろうか。
そんなことを考えていたらいつの間にかテオの真ん前にリリアナの顔があって、驚いてのけぞった。
「うわっ」
「ずいぶん元気になったじゃないの。さすがは魔牛のステーキね」
「魔牛の肉だったのか……」
テオが牛肉に近い味がすると感じていたのは間違ってはいなかったらしい。
魔牛は黒毛の牛型の魔物で、頭部には2本の太いツノがある。普通の牛よりも体がかなり大きく獰猛だ。
まさかあの巨体1頭分の肉をこの食事で食べ尽くしたってことだろうかと考えて、テオの背筋が寒くなる。
「魔牛は干し肉しか食べたことがない。生肉を焼いたらあんなにも美味いんだな」
「しかも回復効果が干し肉よりも遥かに高いのよ」
リリアナに得意げに言われて納得した。
ステーキを食べれば食べるほど元気になっていったのは単に空腹が満たされたからというだけでなく、実際に体力も怪我も回復していたということだろう。
疲労回復効果を謳っている巷の商店の魔牛の干し肉は、実際は気休め程度の効果しかない。
それでも持ち運びが便利な上にそのまま食べられるため、最近ではもっぱら干し肉がテオの主食のようになっている。
「『トラブルメーカーのテオ』ってあなたのことだったのね。冒険者カードで名前を確認させてもらったの」
冒険者カードは名前と生年月日が印字されているほか、冒険者がガーデンで倒した魔物の記録も保存される金属製のプレートで、ガーデンに入る際には携帯が義務付けられている。
「とんでもない野生児でトラブルメーカーだっていう噂を聞いていたからきっと強いんだろうなって思っていたのに、あなたこんなちっちゃい子にズタボロにされるだなんて、意外と弱いのね」
リリアナがレオリージャの子供を抱きかかえてテオに見せる。
間近でふわふわの白い毛を見て気付いた。
倒れる寸前、テオの顔めがけて飛んできた物体はコイツだったのかと。
「ちげーし! 俺は弱くなんかない!」
テオはムスッとしながら叫んだ。
捕食される側だとか、逃げようだとかいうことも忘れて無心でステーキを咀嚼しては胃袋へと流し込み、リリアナと競うかのように「おかわり!」とハリスに空の皿を差し出す。
テオの体は内側からじんわり温かくなっていく。
不思議なことに、食べれば食べるほど体の痛みが取れて元気になり、さらに食欲が増すのだ。
ステーキの肉質は柔らかく、いくら食べてもあごが疲れない。
味は牛肉に近い気もするが、これまでこんな分厚いステーキを食べた経験のないテオには、なんの肉か相変わらずわからないままだ。
それでも舌と唾液と胃袋が、これは絶品だとテオに訴え続けている。
ハリスが1皿ごとに香辛料や付け合わせのハーブを替えて味に変化をつける細やかな気遣いをしてくれるため、単調な味に飽きるということもなく、どんどん食べられる。
ハリスは相変わらず黙々と肉を焼き続けていたが、テオの様子に満足しているのか口元には笑みを浮かべていた。
生肉が残り1枚となった時、リリアナがテオを睨んだ。
「最後の1枚はハリス先生の分だから。ずうずうしくまだ食べたいとか言っちゃダメよ」
「おまえがそれを言うか? いったい何枚食ったんだよ」
テオが呆れながら言い返す。
リリアナは恐ろしい魔物だ。
普段は鍛え上げた腹筋で引き締まっているテオの下っ腹がぽっこり出て少々苦しいというのに、リリアナの腰は薄っぺらいままだ。
あの大量の肉はどこへ消えたのか。
コイツに食べられたらその答えがわかるんだろうか。
そんなことを考えていたらいつの間にかテオの真ん前にリリアナの顔があって、驚いてのけぞった。
「うわっ」
「ずいぶん元気になったじゃないの。さすがは魔牛のステーキね」
「魔牛の肉だったのか……」
テオが牛肉に近い味がすると感じていたのは間違ってはいなかったらしい。
魔牛は黒毛の牛型の魔物で、頭部には2本の太いツノがある。普通の牛よりも体がかなり大きく獰猛だ。
まさかあの巨体1頭分の肉をこの食事で食べ尽くしたってことだろうかと考えて、テオの背筋が寒くなる。
「魔牛は干し肉しか食べたことがない。生肉を焼いたらあんなにも美味いんだな」
「しかも回復効果が干し肉よりも遥かに高いのよ」
リリアナに得意げに言われて納得した。
ステーキを食べれば食べるほど元気になっていったのは単に空腹が満たされたからというだけでなく、実際に体力も怪我も回復していたということだろう。
疲労回復効果を謳っている巷の商店の魔牛の干し肉は、実際は気休め程度の効果しかない。
それでも持ち運びが便利な上にそのまま食べられるため、最近ではもっぱら干し肉がテオの主食のようになっている。
「『トラブルメーカーのテオ』ってあなたのことだったのね。冒険者カードで名前を確認させてもらったの」
冒険者カードは名前と生年月日が印字されているほか、冒険者がガーデンで倒した魔物の記録も保存される金属製のプレートで、ガーデンに入る際には携帯が義務付けられている。
「とんでもない野生児でトラブルメーカーだっていう噂を聞いていたからきっと強いんだろうなって思っていたのに、あなたこんなちっちゃい子にズタボロにされるだなんて、意外と弱いのね」
リリアナがレオリージャの子供を抱きかかえてテオに見せる。
間近でふわふわの白い毛を見て気付いた。
倒れる寸前、テオの顔めがけて飛んできた物体はコイツだったのかと。
「ちげーし! 俺は弱くなんかない!」
テオはムスッとしながら叫んだ。
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