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夜会に参加しました③

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 夜会当日の今日も旦那様は仕事があるらしい。
 夕方に一度こちらへ戻って支度を整え、わたしと共に夜会へ出かける予定になっている。
 
「いってくるよ、ヴィクトリア」
 お見送りの際にはわたしの額に口づけを落とし、ここでもしっかりとラブラブアピールをした旦那様はさすがだ。

「いってらっしゃいませ、お気をつけて」
 今朝ベッドの中で茶番とはいえ逞しい腕に抱きしめられたことを思い出しながら、自然と頬をほんのり染めることに成功したわたしのことも褒めていただきたい。

 
 午前中は、庭園のバラを見せてもらった。
 領地の庭師であるマックの腕も大したものだと思っているけれど、本宅の庭師もさすがだ。
 ベルベットのような花びらが幾重にも重なった大輪の赤いバラの前で足を止めた。
 
「これ、もしかして……」
 庭師のヨーンに話しかけると、よく日焼けした顔を綻ばせながら教えてくれた。
「さすがは若奥様! それは若旦那様が婚約を申し込みに行くときに持参されたバラです」
「やっぱり! ここのお庭のバラだったのね」
 
 ヨーンによれば、早咲きのバラと同時期から開花が始まり、花期が長くて次々に蕾をつけるバラなんだとか。
 あの時、旦那様はわたしの前で跪いて「私の妻になってください」と言ってこのバラを差し出したのだ。
 実家の両親も使用人たちも、あんなに素敵なプロポーズは見たことがないと、旦那様の帰宅後に大騒ぎしていたっけ。
 
「若旦那様が、これから愛しい人に会いに行くのだとおっしゃって、ご自分でお選びになったバラでございます」
 ヨーンが得意げに続ける。
 
 ちょっと待って。
 今の話がヨーンの脚色でないのなら、それはわたしではなくて愛人に渡すための花束だったのではないの?
 まさか旦那様ったら、同じバラを?
 このバラなら間違いなく女が喜ぶだろってこと?
 
 ゴゴゴゴッ! と怒りが込み上げたせいで指先から悪いオーラが出てしまったのかもしれない。
 目の前の見事なバラが急に萎れ始めた。

 しまった!
 バラには何の罪もないっていうのに、わたしとしたことが!

 感情の揺れで魔法が暴発しそうになった時は、耳たぶを引っ張るといいよ!と教えてくれたのは、わたしの魔法の師匠であるエルさんだ。
 
 おまじないみたいなものだろうと聞き流していたが、実際にやってみると冷たい耳たぶが熱を吸い取ってくれるように指先がクールダウンしていく。
 落ち着け、落ち着けと念じながら両方の耳たぶを引っ張る。
 
 突然萎れ始めたバラと、奇妙な行動をとるわたしを交互に見ながら、ヨーンがオロオロしている。
 
「あら、土が乾燥しすぎているんじゃないかしら」
 指の熱が落ち着いたところで、わざとらしくならないようにしゃがんで根元の土を触り、バラにごめんねと謝った。
 
 ついでに、わずかに掴んだ土でお得意のイモ虫を作って地中に数匹放っておく。
 このイモ虫は、地中を動き回って土をふかふかにするだけでなく、害虫を追いかけまわして追い払う役目も果たしてくれる。
 回収せずに放置しておくと、3日程度で元の土に戻るという優れものだ。
 
 ただのイモ虫をここまで高性能にしてくれたのは、もちろんエルさんのおかげだった。
 きっとこのバラもすぐに元気を取り戻して、さらに綺麗な花を咲かせてくれるだろう。

 その後は義父のお見舞いをして昼食を済ませると、もう夜会の支度が始まった。
 湯浴みをして髪には香油を、全身と顔は泥パックを塗りたくられた。
 泥パックにこっそり「赤ちゃんのような極上のお肌にしてちょうだい」とお願いしておく。
 すると泥を流したわたしの肌艶に驚いたメイドたちが「凄い!」と称賛の言葉を連呼していた。
 
 なるほど、これは商売になるかもしれないわね。
 旦那様と離婚したら『赤ちゃん肌を取り戻せ♡ 極上泥パック』っていう謳い文句で商品化しようかしら。
 
 将来の泥パックビジネスに思いを馳せているうちに、とんでもないドレスを着せられていた。

 せ、背中が……丸見えなんだけど!?

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