白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美

文字の大きさ
67 / 80

3回目の会合です②

しおりを挟む
 冒険者協会の建物の中に入って一番にしたかったことはペットのくまーの召喚だった。

 会長室へ向かう旦那様と別れて、わたしはエルさんたちとともに会議室へ向かった。
 ペットはダンジョンと協会の敷地内でのみ召喚できる。
 ダンジョン地下49階のボススライムの最後の悪あがきで窒息し、意識を失う直前に見たのはくまーが必死にわたしの方へと駆け寄ってくる姿だった。
 ありがとうと、わたしは無事だということを伝えたい。

 会議室の手前の廊下で召喚すると、くまーはわたしを見るなり大喜びして緑色のもふもふな体で抱きしめてくれた。

「くまー、心配かけてごめんなさい。あの時わたしの顔に落ちてきたゼリーを取ってくれたんでしょう? ありがとう」

 あの時の状況をハットリに聞いたという旦那様によれば、わたしの顔面を覆う大量のゼリーをくまーとハットリで懸命に除去している途中でボスの討伐完了となったらしい。
 後でハットリにもお礼を言わないといけない。
 
 エルさんは召喚ペットを「高度なマジックアイテム」と言っているけれど、こんなに感情表現豊かな道具なんてあるんだろうかと思う。
 その証拠に、くまーは廊下の向こうから歩いて来たジークさんを見つけると憤怒の表情で怒り出したのだ。
 そして止める間もなく、ジークさんとの距離を詰めると見事な左フックをかましてジークさんを吹っ飛ばした。

「さすがヴィーのペットだね! よくやった」
 エルさんは手を叩いて喜んでいるけれど、協会内での冒険者同士のいざこざは旦那様が許さないはずだ。

 見つかったら氷漬けにされてしまうわっ!

 しかもタイミングの悪いことにそこへ旦那様がやって来て、足元に転がるジークさんを見下ろしている。

 廊下でひっくり返っているジークさんと尚もファイティングポーズをとり続けるくまー。
 何が起きたかは一目瞭然のはずだが、旦那様は無表情でその横を通り過ぎた。

「会議を始めます。みなさんどうぞ中へ」
 冷ややかな声でそう告げられただけでお咎めなしとなった。


 会議室に入ると、待ち構えていたようにユリウスさんにハグされた。
「ヴィーちゃん、今日は若奥様みたいな服装なんだね。それもよく似合っていてかわいいよ。それよりも心配していたんだよ、大怪我を負ったと聞いたから。元気そうでよかった」

 5日前のあの出来事は街で大きな噂となっていたようだ。
 その内容の大半がジークさんを酷評するもので、長く彼の腹心を務めていた取り巻きの人たちまでジークさんから距離を置くようになったらしい。
 無謀な挑戦の果てに仲間を見捨てて逃げたリーダーを見限ったのか、自分まで後ろ指を指されるのが嫌で離れるふりをしているだけなのかは知らないけれど。
 
「ユリウスさん、ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」
 室内の温度が急に下がった気がして慌ててユリウスさんから離れる。

 座長席を見ると、普段よりも冷ややかなアイスブルーの瞳がこちらに向けられていて戦々恐々とした。
 ちなみにわたしが協会長の妻であることは伏せる方向で旦那様と申し合わせている。
 協会職員として親族でも他人と同等の扱いをするっていうことなんだから、この冷たい視線は妻との距離が近すぎる男への嫉妬ではなく、単に早く会議を始めたいのだがという非難だと思うことにする。

 エルさんと並んで椅子に座り、その後ろにトールさんとくまーが立った。
 ジークさんへの牽制のために敢えてくまーの姿は見せたままにしたのだが、それは不要だった。

 驚いたことに、会議が始まってすぐにジークさんのほうから頭を下げてきたのだ。

「申し訳なかった。あんたの言う通り俺たちだけじゃ無理だった。意地を張って無茶なことをしたと今は反省してる。それと、みっともなくすぐに逃げ出した俺の代わりに仲間を助けてくれてありがとうございました」

 ジークさんの真面目な表情や声色、深々と頭を下げる様子からして、口先だけのパーフォーマンスではなさそうだ。
 周囲から総スカンをくらったことが相当こたえたのだろう。
 それにボススライムに苦戦した挙句、狂暴化に恐れをなして真っ先に逃げ出したことを自分なりに反省しているのならそれでいい。

 旦那様の事務的な声が響く。
「地下49階をクリアしたら、ジークさんに討伐隊のリーダーを任せることになっている件に関してはどうしますか?」

「お断りします! 俺には無理です!」
 ジークさんが首を横に振る。

 ここでもしジークさんが、約束通り俺がリーダーになると不遜な宣言をしたり、今度こそきちんと率いてみせるからリーダーをやらせてくれと懇願してきたら、ここにいる全員が反対しただろう。
 リベンジの機会を与えることも大事だが、この場面ではない。
 求心力と信用が失墜した今の彼にラスボス戦のリーダーは務まらない。
 
「では、リーダーは当初の予定通りロイパーティーのヴィーさんということでよろしいですね?」

 円卓に座る出席者をぐるっと見回しながら旦那様が言うと全員が拍手をし、わたしは立ち上がって頭を下げた。

「よろしくお願いします。力を合わせてマーシェスダンジョン踏破を達成しましょう」
 笑顔ではなく、唇を引き結んで力強く宣言する。
 
 義父を元気づけるために、そしてロイさんが安心して天に召されてくれるように、何としてでもラスボス討伐を成功させようと心に誓ったのだった。

 
 
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス
ファンタジー
王宮の広間は、冷え切った空気に満ちていた。  玉座の前にひとり、少女が|跪い《ひざまず》ていた。  エリーゼ=アルセリア。  目の前に立つのは、王国第一王子、シャルル=レインハルト。 「─エリーゼ=アルセリア。貴様との婚約は、ここに破棄する」 「……なぜ、ですか……?」  声が震える。  彼女の問いに、王子は冷然と答えた。 「貴様が、カリーナ嬢をいじめたからだ」 「そ、そんな……! 私が、姉様を、いじめた……?」 「カリーナ嬢からすべて聞いている。お前は陰湿な手段で彼女を苦しめ、王家の威信をも|貶めた《おとし》さらに、王家に対する謀反を企てているとか」  広間にざわめきが広がる。  ──すべて、仕組まれていたのだ。 「私は、姉様にも王家にも……そんなこと……していません……!」  必死に訴えるエリーゼの声は、虚しく広間に消えた。 「黙れ!」  シャルルの一喝が、広間に響き渡る。 「貴様のような下劣な女を、王家に迎え入れるわけにはいかぬ」  広間は、再び深い静寂に沈んだ。 「よって、貴様との婚約は破棄。さらに──」  王子は、無慈悲に言葉を重ねた。 「国外追放を命じる」  その宣告に、エリーゼの膝が崩れた。 「そ、そんな……!」  桃色の髪が広間に広がる。  必死にすがろうとするも、誰も助けようとはしなかった。 「王の不在時に|謀反《むほん》を企てる不届き者など不要。王国のためにもな」  シャルルの隣で、カリーナがくすりと笑った。  まるで、エリーゼの絶望を甘美な蜜のように味わうかのように。  なぜ。  なぜ、こんなことに──。  エリーゼは、震える指で自らの胸を掴む。  彼女はただ、幼い頃から姉に憧れ、姉に尽くし、姉を支えようとしていただけだったのに。  それが裏切りで返され、今、すべてを失おうとしている。 兵士たちが進み出る。  無骨な手で、エリーゼの両手を後ろ手に縛り上げた。 「離して、ください……っ」  必死に抵抗するも、力は弱い。。  誰も助けない。エリーゼは、見た。  カリーナが、微笑みながらシャルルに腕を絡め、勝者の顔でこちらを見下ろしているのを。  ──すべては、最初から、こうなるよう仕組まれていたのだ。  重い扉が開かれる。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...