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大樹に花が咲きました①

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 その夜、わたしたちは本当の夫婦になった。

 旦那様は跪いてわたしに許しを請い、わたしが許すと今度は一晩中、愛の言葉を囁き続けてくれた。

 明け方まで眠らせてもらえず短い仮眠をとっただけなのはお互い様のはずなに、旦那様は妙にツヤツヤしていて花見に行くぞと張り切っている。
 旦那様の体力はどうなっているんだろうかと呆れながら重たい体をどうにか持ち上げてベッドに座ると、旦那様が寝室のカーテンを開けた。

「ヴィー、見ろ。ここからでも白い花が咲いているのがわかるほど満開だ」

 声色からしておそらく嬉しそうに笑っているであろう旦那様の顔も、窓から見えるはずの大樹も、差し込む朝日が眩しくてベッドからではよくわからない。
 すぐに立ち上がれないまま目をすがめていると、それに気づいた旦那様がこちらへと歩み寄って来た。

「無理をさせすぎたな、悪かった」
 形の良い眉を八の字して申し訳なさそうに笑っている。
 そして軽々と掬い上げるようにわたしの体を持ち上げた旦那様は、そのまま横抱きで窓際まで連れて行ってくれた。

「ほら、これで見えるだろう」

 窓の向こうに大樹が見える。
 いつもは緑の葉が生い茂っているのに、今日は白くきらきら光るものに覆われているようだ。

「わぁっ、綺麗」
 すぐ近くにある旦那様の顔に視線を移すと甘く微笑みながらこちらを見つめる旦那様としっかりと目が合って、急に恥ずかしくなってしまった。

「花見には行けそうか? 無理ならこの部屋から眺めながら一日中ふたりきりでベッドで過ごすのもいいかもな」

 何を言っているのかしら、旦那様はっ!

「大丈夫です、お花見に行きましょう!」
 わたしは慌てて答えた。


 少々遅い朝食を旦那様と一緒にそのまま寝室で摂った。
 使用人たちは、わたしと旦那様が濃密な夜を過ごしたことを当然知っているはずだ。
「心得ております」というような意味ありげな微笑みがなんとも気恥ずかしい。
 でもこれで余計な心配をかけることもなくなるだろう。
 
 馬車の揺れが響くだろうからと大樹へと向かう道中は旦那様の膝の上に座らされた。
 どうして転移魔法でひとっ飛びしないのかと尋ねると、ふふんと笑われた。

「魔法は好きじゃないと言っただろ。それに、このほうがヴィーと長くくっついていられるからな」

 額にちゅっと唇を寄せられて、馬車の中が甘い雰囲気で満たされる。

 旦那様がロイさんで、それを隠し続けていた理由を昨晩聞いた。
 ラスボスを担うにあたりあれこれと守秘義務が生じて上手く説明する自信がなかったことや、わたしがそれを理由に冒険者を引退するようなことになってほしくなかったという弁明も理解した。

 今になって振り返ると、もっと早く旦那様がロイさんだと気づいてもおかしくないようなヒントがそこかしこに散りばめられていたのに、視野が狭くなっていたわたしはまったく気付いていなかった。
 昨日トミーさんたちが冗談で言っていた「ロイさんは自分がラスボスだって気付いてなかった」が真実だったというのも、あまりにも滑稽で笑ってしまう。

「わたしの旦那様は本当に破天荒な人ですね」
「いや、ヴィーほどではないな」

 わたしたちはくすくす笑いながら口づけたのだった。

 
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