魔法の薬は猫印。

長島 江永

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学院新生活6

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 レレとベルの二人は学園から然程遠くないアルファの森に到着した。西の空は茜色に染まっており、生い茂る木々のせいで森の中は夜とあまり変わらない暗さになっていた。
「ごめんね、結局暗くなっちゃったね」
「いや、講義なら仕方がない。サボりもせずにきちんと出席している事には驚いているが……」
「ちょっと、どういう意味だよ!」
「さて、キノシタ草だが……」
「無視するな!」
 横で毛を逆立ててワーワー騒ぐレレを無視して、ベルは片膝をついて地面を調べ始めた。
 木の根元に重なっている落ち葉をめくると、青白く光るキノコが幾つか生えている。
「わあ、綺麗……」
「アオヤコウタケだな。これも使い道があるから摘んでいこう。そして本命は……」
 アオヤコウタケを摘み取ると、その下には小さな白い多肉植物が生えている。
「木の下でよく見られるからキノシタ草……かと思いきや、アオヤコウタケの下に生えるからこの名前になったらしいな」
「あ、キノコノシタって事か」
 実験で使用するにはまだ数が足りないため、もう少し探索を続ける事になった。
 とはいえ、アオヤコウタケの光を頼りに探せばいいため、キノシタ草を集める事自体はそこまで苦労しそうにない。
「あれ、さっき夜に探すのは面倒って言ってたよね? むしろ暗い方が楽なんじゃ……」
 ランタンにカバーをして辺りを見渡すと、落ち葉の下がほんのり光っている場所がぽつぽつと点在している。それを辿ればすぐに終わりそうなものだが、ベルはそうじゃないと首を横に振る。
「アオヤコウタケが好物なモンスターがいるんだ。奴らは日中は地面に穴を掘って隠れていて、夜になってから活動を開始する。特に強力な種ではないが、相手が何であろうと、夜の森での戦闘はなるべく避けたいからな……」
 そう言っている間に、レレの耳が藪をかき分けてこちらに近付いて来る音を捉えた。
「そのモンスター、来ちゃったかも……」
「近くに何かいるのか?」
「うん、あっちの方向から音が二つ」
 レレが指をさした方向に注意を向けると、ベルの耳にも徐々にその音が聞こえてきた。
「ベルにはこれをあげる」
 レレが手渡したのは液体の入った小瓶だった。
「これは暗視のポーション。飲めばしばらくの間、暗闇の中でも見やすくなるはず」
「……助かる」
 この辺りは草木が多く、影で死角が出来やすい事から、ランタンの光だけを頼りにするのは心許ない。
 それならばいっその事、ランタンの灯りは最小限にして、薬の効果で暗闇を見渡す方が良いという判断だろう。
 薬を一気に飲み干し、ランタンの灯りを絞って藪の方に視線を向けると、光る眼が二対こちらを睨みつけている。
「猪タイプのモンスター、グラウンドボア……こいつがさっき話した奴だ」
「気を付けることは?」
「突進を食らえばただでは済まない。それだけだ」
「了解! 単純で助かるよ!」
 レレは拳を、ベルは剣を構える。
 二人と二体は睨みあいながら、じりじりと間合いを見極めあっている。
 その均衡を最初に破ったのはグラウンドボアの方だった。
 二体がそれぞれ二人の方へと突進を開始した。カウンターを入れるつもりだった二人だったが、想像以上の速度で迫って来たため、すぐに回避をする判断に切り替えた。
 急には止まれない二体はそのまま太い木の幹に激突した。その時の音は凄まじく、次で倒れてしまいそうなほど幹が抉られている。
「ひゃああ……」
「すぐに次が来るぞ……!」
 ベルの言う通り二体とも既にこちらを振り返って突進の予備動作に移っていた。
「次は回避と一緒に、横っ腹に一発入れてやるー!」
「ああ、俺もそのつもりだ」
 確かに突進は素早く強力だが、一度スピード感を確認した今であれば反撃のビジョンが浮かぶ程度のものだ。
「来たっ……!」
 再び突進を仕掛けて来た二体に対して回避と反撃の構えをする二人。
 しかしここでグラウンドボア側が予想外の行動に出た。
「っ!? しまった……!」
 また各個に突進をするものかと思いきや、ベルに向かっていた一体が急に向きを変えてレレの方へ標的を変更したのだ。
(こいつら、二体での狩りに慣れている……!)
 二体が別方向からレレに対して同時攻撃を仕掛ける形となり、回避の方向とタイミングが難しくなる。
「上に跳べ!!」
 ベルはすぐに援護のために駆け寄りながら、レレに向かって叫ぶ。
 しかし、レレは跳躍に切り替えるような素振りは見せず、あろう事か、拳を突き出して詠唱を始めた。
(「鉄の胃袋亭」で見たクガイって人からイメージを補強して……!)
『呼び覚ませ! 獣の番外──「猛虎」!!』
 詠唱の直後、グラウンドボア二体の鋭利な牙がレレに襲い掛かる。
 何かが激突する鈍い音と、雷が弾けるような轟音が同時に響き渡った。
 一瞬ベルの脳裏を嫌な予感がよぎったが、すぐに安どの表情へと変わった。
「…………ふう、肝を冷やしたぞ……」
「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎ……!」
 レレは二体の牙をそれぞれ片手で掴み、突進を一人で受け止めたのだ。
 ジャイアント・ケイヴワームの攻撃を避けた時の魔法とはまた異なるようで、レレの顔には虎柄の青白く光る模様が浮かび上がっている。
「は、や、く! もうキツイ……!」
 突進を防いだものの、二体の動きを止めておくのはキツイらしい。耳や尾からは電撃がバリバリと漏れ出しており、犬歯を剥き出しの鬼のような形相で耐えている。
「ああ任せろ──『纏え! 雷の弐番!!』」
 ベルは付与の魔法を詠唱して電撃を剣に纏わせ、二振りでグラウンドボアの首をそれぞれ落とした。
 汗だくのレレは気が抜けたのか、牙を手から離してその場に座り込んだ。
「ふう……ふう……」
「悪かった。援護が遅れた」
 ベルは謝りながら水筒を手渡した。
 レレはそれを受け取って一口飲むと、疲れのせいか少し気の抜けたような緩い笑みを返した。
「ふふ、ベルにも私と連携する気はあるんだね。二か月間の間に何かあったの?」
「……何の話だ」
 初対面の時の身勝手な印象と違って、しっかりと声出しをして、二人で戦おうという意識がしっかりと感じられる。
 むしろ私生活での身勝手さは、レレの方が目立つようになってきた。
 ベルの意識を変えるような出来事が何かあっただろうか、とレレは記憶を探るが特に思い当たる事は無い。
「ま、良いや」
 レレは両腕と尻尾をピンと上げて伸びをしてから、元気よく跳ねるように立ち上がった。
「うーん、元気全開! お水ありがと!」
 水筒を返されたベルは呆れ顔でリュックにしまう。
「毎日酒なんか飲んでいないで、水で良いんじゃないか。お前の夜の過ごし方には、故郷のおばさんも泣いてるぞ」
「それとこれとは話が別です」
 説教など聞きたくないという様子で、レレはベルから逃げるようにキノシタ草採取に戻った。
 その後は特にトラブルもなく、必要分のキノシタ草を集める事が出来たため、学院に戻ろうと来た道を引き返し始めた時だった。
「ベル、誰かいる」
 レレの耳と鼻が、暗い森の中に何者かの存在を捉えた。
「モンスターか?」
「ううん、人間」
 腰の剣に手をかけたベルを、レレが片手で制止する。
「大丈夫、この感じは……オーフェだよね? どうしたのこんな所で」
 暗闇の先から現れたのは、レレと同じ特別推薦組のオーフェリアだった。
「こ、こんばんは、レレさん……とベルさんですよね?」
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