戦場を駆ける魔法配達士は戦い続ける

天羽睦月

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第1章 運命の歯車が動く時

第5話 側にある戦い

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「姉さん喜び過ぎだよ。そんなに嬉しかったの?」
「え!? そんなに喜んでる顔をしてた!?」

 自身の顔を両手で抑えている久遠に、美桜が武蔵に美味しい店があるから一緒に行きましょうと誘い始める。

「武蔵かー。行ったことないけどいい場所って聞くわね。行けたら行きたいわー」
「私が連れて行くから安心して。一緒なら簡単に入れるからね」

 武蔵に入るには厳重な警備による検査を通らなくてはいけないため、簡単には入ることが出来ないのが通常であるも、第2王女である美桜からのこの提案は久遠にとってとても魅力的であった。

「その時が来たらお願いするわ。武蔵には一度行ってみたかったのよね」

 二人は武蔵のことを話しながらサンドイッチを食べ続けていた。
 出雲は欠伸をしながら楽しそうな二人を見ていると、先に寝ているねと話しかけて仮眠室に行こうとする。

「もう寝るの? ていうか12時を過ぎているし、もう寝ましょうか」
「私はどこで寝たらいいの?」
「仮眠室は5つあるから1人1部屋使えるわよ。案内をするわね」

 久遠と美桜が話しながら移動を始めると、出雲は二人を後ろを付いていくことにした。仮眠室で寝ることが久しぶりな出雲は少し高揚しているようである。
 拓哉からはなるべく家に帰って寝るようにと言われていたので、仮眠室では数回しか寝たことがなかったのである。

「さ、ここが仮眠室よ。入って入って!」

 食堂から出て左に進んだ先に見える部屋に仮眠室はあった。
 久遠は美桜に仮眠室の1部屋に入ってと言うと、久遠も美桜と同じ仮眠室に入ろうとした。

「二人で入るの!?」
「使い方を教えないと分からないからね。出雲は先に寝ていなさいな」

 出雲に先に寝なさいと言った久遠は、美桜と共に仮眠室に入る。渋々出雲は2つ目の仮眠室に入ると、簡易ベットと備え付けの簡易トイレが目に入る。
 仮眠室内はとても狭く、歩くスペースがほぼない状態である。

「相変わらず狭い仮眠室だな……」

 狭いと言いながらベットに横になるとそのまま目を閉じる。出雲は大変な1日だったと思いながら寝息を立て始めていた。
 寝ている最中、久遠と美桜が楽しそうに話している声が出雲に聞こえていた。

「何か喋って見るみたいだな。早く寝ればいいのに……」

 出雲は楽しそうだなと思いながら眠りに入った。
 翌日。久遠に起こされると、既に美桜は側近に連れられて帰ったと出雲は聞かされた。

「もう帰ったの? てか、今何時なの?」

 枕元に置いていた懐中時計を見ると、針は朝6時を指していた。
 起きる前に美桜が帰ったということは、5時台に帰ったのだろうと出雲は考えていた。

「なんか4時頃に迎えが来て、眠いと言いながら美桜は引っ張られて帰っていったわよ?」
「4時!? 早すぎない!?」

 自身の思っている以上に早い時間だったので、驚いていた。
 久遠は驚いている出雲に早く起きなさいと言うと、仕事よと続けて言う。

「こんな時間から仕事!? 早くない!?」

 眠気が吹き飛ぶほどに驚く出雲に美桜が一枚の紙を手渡す。その紙には戦場への支援と書かれていた。
 武器や補給物資に、伝令などを届けることと付け加えられている。依頼書を受け取った出雲は、着替えてくると言って仮眠室から出て行く。

「更衣室で着替えてくるね」
「1階で待ってるわねー」

 出雲は2階にある更衣室で同じ服に着替える。
 何着か同じ服をストックしているので、すぐに着替えることが出来た。着替え終わり1階に移動をすると、そこには久遠と拓哉の姿があった。

「おやっさんがいる!? いつもこんなに早くいるんですか!?」
「やっと降りてきたか。今日は特別だよ。武蔵にある本部から特別な依頼が来たからな」

 拓哉が特別な依頼だと言うと、最近多く感じると出雲が文句を言った。

「そう言うな。こういう依頼を回されない配達所もあるから、回してもらえるだけありがたいさ」
「そうよ。特別な依頼は報酬も高いし、配達所の名声を上げるチャンスでもあるんだからね」
「そうだけどさ……」

 出雲は自身が行った美桜からの特別な依頼や、それ以外にある配達所の仲間が行っている特別な依頼の多さ。
 そしてその難易度の高さに文句を言いたいと、常々思っていたのである。

「特別な依頼は危険地帯に行くのが多すぎだよ! みんな血だらけになったり、戦場の真っ只中に行かされて病院に行った人もいるじゃん! 本部はここを潰したいんじゃないの!?」

 出雲が思っていたことを拓哉に言うと、久遠がそんなはずないと怒鳴る。
 どうしてそう言えるのさと久遠に怒鳴り返すと、拓哉が本部の意向だと冷静な声で出雲に言った。

「近頃この配達所に緊急の依頼が多いのは、お前には知らせていなかったがこの町に魔族が進行をしているからだ。武蔵にいる騎士が応戦をしているが、徐々に押されているらしい。それでこの配達所に特別な依頼が多かったんだ」

 拓哉の言葉を聞いた出雲は、俺にだけ教えてくれていなかったんだなと呟く。
 久遠は出雲の側に近寄ると、拓哉さんの想いなのよと優しい口調で話し始めた。

「出雲はまだ子供だから、伝えなかったこともあるのよ。それに、言える範囲で特別な依頼のことを伝えていたわ」
「俺にも色々教えて欲しかったけど、おやっさんの気持ちも分かるからこれ以上は言わないよ……姉さんもありがとう……」

 俯いている出雲に対して久遠が、優しく抱きしめる。

「今までごめんなさい……出雲のためだと思ってたけど、間違えていたみたいね……ごめんなさい……」
「姉さん……」

 久遠が涙を流しながら出雲に謝ると、拓哉も二人に近づいきていた。
 拓哉は泣いている出雲に自身のハンカチを渡し、悪かったと謝った。

「お前のためだと思っていたが、実際は違ったみたいだな。これからはお前にも包み隠さず言うようにするよ」
「ありがとうございます……」

 出雲と拓哉が話していると久遠が出雲から離れて、行きましょうと手招きをしている。

「そうだった。依頼があるんだよね。俺も頑張るよ!」

 出雲が頑張ると叫ぶと拓哉がどこからか大きなリュックサックを取り出し、出雲に手渡した。

「その鞄には食料が入っているから騎士達に配ってくれ。携帯食料で少ない量の中に必要な栄養分が含まれているから、なるべく多くの騎士に渡すように。戦場には久遠にも行ってもらうから、二人で支援をしてくれ」
「分かったわ。出雲と共に支援してくるわ」
「分かった! 行ってくるよ!」

 出雲がリュックを背負うと、久遠も同様のリュックを背負い始めていた。
 二人は配達所を出ると、朝日が顔を出し始めている空を見ながら町の外に用意をされている馬車の荷台に乗って移動を始める。

 荷台に乗っている出雲は、馬車の揺れに体を預けて朝日を体全体で浴びていた。
 久遠はその出雲の様子を見て、微笑ましいと感じていた。

「戦闘がある場所は、ここから1時間程度かかる場所にある山岳平野よ。岩石と高い山々がそびえたっているけど、山々の合間に綺麗な草花が咲いている綺麗な場所でもあるわ」
「俺、そこにはあまり行ったことないんだよねー。だいたい反対側にある岩石地帯に行ってたから」

 出雲は山岳平野とは真逆の位置にある岩石地帯に配達をすることや、工場地帯に行くことが多かった。プライベートでは町の中で遊んだり、自身の家で過ごすことが多かったのである。

「そうなのね。なら、この依頼で山岳平野に行けたのはいいことだわ。景色を見なさいな」
「ありがとう。堪能するよ」

 出雲は荷台の中で寝転がると、目を瞑ることにした。
 これから大変な任務を行う前の小休止ということで、久遠も荷台の壁に体を預けてリラックスをし始める。

 二人がリラックスをしてから30分後、馬車が激しく動き始めた。
 出雲と久遠は何かが起きたと思い、素早く体を起こして馬車を操作している御者に話しかけた。

「何かあったんですか!?」
「敵襲ですか!?」

 二人が声を上げて御者に話しかけると、御者が魔法が飛んできたと叫ぶ。
 魔法が使われているということは、戦闘地域に入ったという証拠である。出雲と久遠は顔を見合わせて、ここで降りるとハモりながら御者に言った。
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