置き去りの恋

善奈美

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紫綺&忍編

06 綺麗な顔の無表情(忍視点)

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 このメンバーは何? 確かに、アカとキョウと我妻から、父さんに会ってもらいたい人がいるって聞いてはいたよ。父さんに話して、日曜に会えるって知らせたよ。見たことない綺麗な男の人がそうだって分かるよ。
 
「その頭数。何考えてるの?」
「気になったからに決まってんだろう」
 
 代表者はキョウなわけ?
 玄関前に居るのは五人。キョウとアカと我妻。そして、何故か仕事がある筈の貴羅さん。さっきも言ったけど、見たことない人。
 
「もういいよ。来ちゃったんだし」
 
 有り得ない面子。
 家に入ってもらって、貴羅さんと初めて見た人を父さんの部屋に案内した。流石に三人にはリビングで待機を言い渡した。普通に考えて、どう見ても俺の同級生で父さんに用事かあるように見えないしさ。
 
 リビングに戻ったら、三人でやたらと寛いでる。仮にも他人の家なんだけど。
 
「それで、あの人誰?」
「シィ兄だよ」
 
 シィ……、アカ、嫌がらせな訳? その呼び方は、嫌がらせのために決めたわけ?
 
「紫綺だよ。俺の血の繋がらない、秋保側の兄」
 
 最初から、そう言ってくれない?
 
「で、キョウが、決めた呼び方が、シィ兄」
 
 紫綺だからだろうけど、俺がその呼び方は聞いただけで不機嫌になること、アカなら知ってるよね?
 
「嫌がらせなの?」
「そんなわけないでしょう? キョウの開口一発目はシィちゃんだったんだから。まだ、マシな呼び方に変わったと思うけど? それにあの人、完全に予定外だから。まさか、マトモなのが居るなんて思わなかったし」
 
 アカが自分の家族に良い印象持ってないのは知ってるけど。その割には、気に入ってる感じに見える。分かりにくいんだけど、流石に付き合い長いから。
 
「もうね。兄さんがノリノリ。秋保を潰すチャンスだし」
 
 俺、溜め息しか出ない。裏があるのは分かってたけど。
 
「で、キョウと我妻はどうして付いて来たの?」
「忍の家に来てみたかったから」
 
 キョウ、単純な理由だね。まあ、俺がやんわり、拒否ってたのも原因なんだろうけど。
 
「それで、その紫綺さん。どうして、父さんと会いたかったの?」
「コンピューター関係の仕事している人で思いついたのが、忍の父親だったってだけ」
 
 アカ、正直者すぎるよ。その通りなんだけどさ。
 
「手ぶらは失礼だと思って、駅前に新しく出来たケーキ屋さんのケーキ買ってきたんだよ」
 
 うん。我妻は安定の癒しっぷりだね。身長あるくせに、ホンワカしてるせいか、大きく見えない。お土産に罪はないし。だから、箱を開けて覗いてみた。箱が大きかったから、それなりに入ってるだろうとは思ってたよ。
 
「こんなに買ってきてさ。食べる気満々なわけ?」
「此処、最近人気だろう? 開店前にユキと並んで買ってきたんだ。良いじゃねぇかよ」
 
 確かに、人気なのは知ってるよ。それなりの値段なのも勿論知ってる。
 
「で、これのお金の出処は?」
「シィ兄から、ふんだくった」
 
 キョウ、鬼だわ。父さんに会いに来たってことは、無職なんじゃないの?
 
「って言うのは嘘。貴羅さんが買って来いって」
 
 あの人、キョウには甘いもんね。食べたいとか、お土産買いたいとか言われたら、ホイホイ出しそう。
 
「美味しそうだね」
 
 我妻、目がキラキラしてるね。で、この中で一番、目がキラキラしてるのはやっぱりアカ。
 
「お菓子って綺麗だよね」
 
 アカって、お菓子見ると人が変わるんだよ。キョウと我妻、驚いた顔してるよ。年相応どころか、幼くなるから不思議。
 
「相変わらずだよね。パティシエになるの諦めてないの?」
「当たり前でしょう? 高校卒業後は調理師の専門学校に行くんだから」
「貴羅さんの後追うわけ?」
「兄さんは食事。俺はおやつ。全く違うでしょう」
 
 いや、同じじゃないの?
 
「貴羅さん。スィーツ系全くダメだもんな」
 
 そうなんだよね。貴羅さん、お菓子が全くダメなんだよね。それでも、店にはそれなりに客が入るんだから。まあ、あの容姿も手伝ってはいると思うけど。
 
「何? 調専行った後、あそこの店に就職するの?」
「その前に海外に行きたいかな? 本場で学びたいし」
 
 それ聞いた我妻の顔が心なしか暗くなった。その気持ち、なんとなく分かるな。
 
「ユキ捨てたら、後ろから襲うからな!」
「は? 何莫迦な事言ってるの? そんな事しないから。それで、どうして背後からなの? 卑怯でしょう?」
「不良に勝てる奴に正面から向かっていくのは莫迦だけだぜ」
 
 キョウ、すごい理屈。それって、卑怯だよね。アカの言う通り。
 
「卑怯で結構だ。こっちは制裁のつもりだし。制裁のつもりでヤられたら意味ねぇし」
「あのね。俺は元々、執着しない質なの。その俺に執着心もたせたんだから、一生離れない覚悟を持ってもらわないと駄目なんだよ」
 
 我妻、そこ、照れる場面じゃないから。なんだ、このカップル。俺、独り身なんだけど。
 
「後ね。これは貴羅さんが作ったんだよ」
 
 我妻、耐えられなかったんだね。話を変えに走ったよね。ケーキの入った箱の横に、同じくらいの大きさの箱を置いた。何が入ってるんだろう? 貴羅さんって事は、食事系だよね? 中開けて吃驚。ケーキ……、のように見えるけど、これ、キッシュだ。
 
「キノコのキッシュだよ。楽しみだね」
 
 ん? 此処で食べてく気なの?
 
「それでは、よろしくお願いします」
 
 そんな声が聞こえてきた。リビングの入り口で父さんに珍しい敬語を使ってるのは貴羅さん。本当に珍しい光景かも。
  
「兄さん、帰るの?」
「流石に二週続けて休むのはね。夕方から店開ける予定だったからね」
「そうだね。たとえ、道楽でも」
 
 アカ、勇気あるな。貴羅さんにその口調。
 
「酷い言い方だね。一生の仕事だって言ってるでしょう? 響也はそのまま帰るでしょう?」
「おう。明日は学校だしな」
 
 気をつけてね、って相変わらずアカの言動を気にしてないよね。
 
「お先に失礼します。弟達は置いていくので、ご迷惑かと思いますが、よろしくお願いします」
 
 父さんにまともな事言った! 奇跡だ! あ……、目が俺を睨んでる。顔は爽やかなのに目が攻撃してきてる。もう、キョウに迫ったりしないから! 命は大切なんだし!
 
 貴羅さんを見送った後、リビングに入ってきた父さんと紫綺さん。父さんは我妻が広げた箱の中を見て、驚いた顔してる。うん、最近、違うか? 随分、こんなおしゃれな食べ物、この家で見たことなかったもんね。
 
「気を使わせたみたいだね」
「此奴等、自分達も食べる気なんだよ。だから、この量なんだって」
 
 父さんはちょっと抜けてるから。だから、あの女に騙されて。しかも、俺に罵られても耐えることしか出来なかったんだからさ! 少しは自分を大切にして。
 
「ああ。そうなのか? お茶くらい出さないと」
「家にあるのはペットボトルのお茶くらいだよ。男二人なんだから」
 
 そうだね。って、笑いながら冷蔵庫から二リットルのお茶のペットボトルとガラスコップを出してきた。俺がやっても良かったんだけど。最初は貴羅さん作のキッシュをこれまた出してきた皿の上にそれぞれ乗せて堪能。相変わらず、腕はいいんだよね。あの、捻くれた性格じゃなきゃ、問題ないのに。買ってきたケーキも絶品。甘くなく、フルーツの爽やかな酸味が絶妙。
 
「忍、明日から紫綺君、家に来るから」
 
 はい? 何言ってるの?
 
「鍵を渡しておくから、不審者扱いしないこと」
「どういう事?」
「うーん。専門に行くにしても、適性あるか知りたいみたいでね。一ヶ月ほど、預かる事にしたから」
 
 え? それ何なの? 住むの?
 
「通って来るので、よろしくお願いします」
 
 丁寧に挨拶されてもさ。この人、全然、二人に似てない! って、父さん、安請け合いは止めてよ。仕事はどうすんのさ? 確かに、週半分は家にいるけどね。それに、簡単に他人を信用しないでよ! 善良そうに見えても、あの貴羅さんとアカの兄弟なんだよ! 恐る恐る視線を紫綺さんに向けた。綺麗な顔の無表情って、……怖い。
 
 
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