置き去りの恋

善奈美

文字の大きさ
81 / 114
SS

23 颱風の目(暁視点)

しおりを挟む
 ゆっくり開かれた扉。現れたのは白髪混じりの紳士、宗一郎さん。その後ろに二人のご婦人。流石に髪は綺麗に白色になっていた。
 
 更に後ろに聖月さん。視線を向けている先は兄さんだった。うん、観察されてる。兄さんはといえば、当たり障りがない笑みを浮かべている。騙し合い?
 
「おじいちゃん、いらっしゃい」
 
 雪兎が嬉しそうに宗一郎さんに飛び付いた。流石にそれは阻止出来ないよね。
 
「久しぶりだな、雪兎。そして、暁」
 
 宗一郎さんを見据え、俺は小さく頭を下げた。なんだろう? この変な感じの緊張感。主に、兄さんとシィ兄なんだけど。兄さんはまあ、いつもと変わりないかな? 試されてるって分かってるから、威嚇してるんだろうし。でも、シィ兄は如何してだろう?
 
「其方が貴羅、か?」
「初めまして。秋保 貴羅です。ようこそ」
 
 ……こんな兄さん初めてかも。
 
「此方が紫綺、か?」
「そうです。秋保 紫綺といいます」
「紫綺は完全に草壁の血を引いたようだな。その容姿は私の父の若い頃とそっくりだ」
 
 そうか。陽月さんを見たとき、懐かしい感じがしたのは、シィ兄と似ていたからだ。
 
「……知っています。そう言われていましたから」
 
 そうか。疎遠になったと言っても、血は争えないから。
 
「宗ちゃん。そんなことはいいのよ。この子達が私達の曾孫なの?」
 
 目をキラキラさせて問い掛けてきたのは、二人のご婦人うちの一人。着ている服は違うけど、見た目が良く似てる。双子って言われると、そうかな? くらいなんだけど。
 
「そうです。秋保家のはぐれ者の三人ですよ。彼方のうちとは関わりを絶ってます」
「本当に。櫻子さん、見て頂戴な」
「そうね。薫子さん。本当に綺麗なお顔立ち。もう、堪らないわね」
 
 うわあ……。見た目はお年寄りだけど、中身が少女だ。雪兎が言っているように、キャッキャッしてるかも。
 
「それに、雪兎ちゃんが綺麗なのは知ってるけど、他の二人の子も可愛いわ」
 
 うっとりしてる。二人で旅立ってる。キョウが肩を落としてる。分からなくないけど。
 
「大叔母さん、もう少し待ってもらえますか? はっきりさせなければいけないので」
「宗ちゃん?」
「三人には是非、こちら側に来てもらわなければ。後々、おかしなことになる」
 
 秋保と氷室、だよね。そんなに会社がヤバいんだ。自分達で接触を試みても、素気無く返される。それに、俺達と草壁の関係を調べようとすれば、容易に調べられる。兄さんに、泣きつけば何とかなると安直に考える可能性が多分にあるから。
 
「彼奴等のことなんて、なんとも思ってないけど」
 
 兄さんが何時もの軽い口調で口を出してきた。
 
「自滅するなら勝手にすれば。好き勝手やってきたツケくらい、自分達で対処すべきでしょう?」
 
 何時もの兄さんだね。口調は軽いけど、言ってることはキツい。
 
「自分を作り出した者だとしてもか?」
 
 宗一郎さんはあえて、兄さんに問い掛けてきた。試してるよね。
 
「入れ物はね。中身は育ててもらってないけど。俺にしろ暁にしろ。紫綺にしても、演技をさせられて育ったわけだし、逃げられても文句は言えないでしょう? 人を見抜く能力がないんだから、どうしようもないしね?」
 
 兄さんは無害な微笑みを浮かべた。本当に何を考えてるのか表情に出ないよね。それが恐ろしいって、最近認識したけど。宗一郎さんと聖月さんが兄さんを凝視した。スッと細められた目。
 
「面白い。そして、愚かだな」
 
 宗一郎さんの言葉に兄さんの表情がなくなった。
 
「秋保も氷室も。血筋を重んじるなら、君を据えるべきだった。変なこだわりなど捨てて。それが出来ていれば、傾くこともなかっただろうに」
「それは違うと思うが」
 
 シィ兄が口を出してきた。
 
「莫迦達に育てられなかったから、ここまでの人材に育った。俺は莫迦二人を見て育ったからな。誰よりも分かる」
 
 冷静に告げられた言葉に、吹き出したのは聖月さんだった。
 
「工藤さんが言っていたことは本当だね。お父さんはどう考えます?」
「抱き込むべきだろうな。野放しは此方にも痛い」
 
 抱き込む?
 
「此方側に来てもらうよ。いろんな意味でね」
 
 聖月さんがなんとも言えない笑みを浮かべた。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...