4 / 5
嘱目するスフェーン
第4話 再起動
しおりを挟む
人波を縫うようにして、橋の袂に向かう。欄干から、三人の遺体が吊り下げられていた。
遅れてきたひすいも、同じ現場を見る。
「心臓脇の右下に穴が開いている。顔には、咏回路の跡だけあるな。回路は抜き取られたのだろう。場所からして、酒川製薬の人間もどきだろう。暴食王は関係ないね。あるとすれば、狗飼研究所あたりか」
ひすいさんの言葉を聞きながら、対岸に目をやると、オレに手を振る青年がいた。この前であった経帷子を纒った人物だ。どう反応をすればよいだろうか。それとなく、ひすいさんのほうを向くと、彼女は、右目の眼帯を外していた。
直後、辺り一帯のざわめきが停止した。
「いきなり魔眼使ってどうしたのですか」
「君に手を振っていた男、知り合いか」
「知り合いではないですが、昨晩店で絡まれました」
「そうか」
ひすいさんは、青年がいたところをじっと見つめていた。
「人の動きを止めたが、消えやがった」
オレはここで疑問が浮かぶ。
「あの男が暴食王ですか」
「違うな。暴食王は私が17の時に倒した。もし、いるとすれば、そいつは暴食王の躰を被ったなにかだろうな」
「今回の遺体と何か関係ありそうですかね」
「無いだろうな。奴の正体が何かは不明だが、アレの躰を使っている以上、眼球と脳をだけを取り出すという手間はかけない。先を急ごう」
「この3人はどうします。地獄蝶なら復元できるでしょう」
「荼毘に付してやろうと考えたのだが、君が直せというならそうしようか」
タクトのような杖で、ひすいは、自身のトランクケースを叩く。トランクケースの中から野戦病院で使うベッドが3台出てきた。
オレは、欄干から伸びるロープを手にかける。
提げていた刀で切断して、3体を回収し、それぞれをベッドに置いた。
「全て人間もどきか。腐敗は進んでいないようだ。情報は全神経に、基本動作と人格傾向は脳に……まだ残っているな。咏回路が6つの箇所できられている。間違いなくダイアモンドだ。ユーイチ、トランクからダイアモンドの瑰玉3つ取ってくれ」
巻き上げたロープを奏術で破砕しておこうか迷っていたところで声を掛けられた。
彼女の後ろに転がっているケースを開けると、中には土生津から持ち込まれた遺体が入っていた。ポケットはなく、瑰玉などどこにも入っていなかった。
「奏術を使え。間違っても【破砕】はするなよ」
このトランクの容量はどれくらいだろう。一度閉じて、トランクから一歩下がる。
「【機械式舞踊 第2楽章 拘引】」
トランクケースが震えると、八面体の透き通った人工ダイアモンドが3つとびだした。それを掴み、ひすいさんのほうへ渡す。
「ありがとう。それでこれを埋めて仕上げた。
瑰玉をはめ込み、露出していた皮膚を縫い合わせると、最後に心臓をタクトで叩いた。
その際、節をつけて、ひすいさんは、唱えていたが、オレには聞き取ることができなかった。
濁った目に生気が戻る。
「死んだのに生きかえったのか」
一人の、人間もどきが言った。
「データだけ抜き取られていた状態から、内部バックアップである程度はもとに戻したという感じだな。君達が人間もどきだったからできた裏技だろうけど。お代は……ユーイチ、あとで私の改造に3回付き合いなさい」
「え、何故」
「かける予定の無い手間をユーイチの頼みでもとに戻した。君は岩石も珍しいジュエリーも持っていないだろう。だから、その躰を差し出せ。この死体が片付いた後で、だな」
頼むべきではなかったかもしれない。
助け出した3人は、ひすいさんの言った通り、酒川製薬所属の人間もどきだった。五体投地の勢いで頭を下げられた3人には、元の場所へ戻っていった。
「寄り道してしまった。先を急ごう」
「ひすいさんが硬直させたこの人たち、どうするんです」
「ああ、すっかり忘れていたよ。ユーイチが鐺で突いて、元に戻してやってくれ」
「これは貴女がやったことですよね」
笑い声を残して、先に進んでいた。簡易ベッドや修理に使用した道具はいつの間にかトランクケースにしまわれていた。
「【機械式舞踊《バレエ=メカニック》 第一楽章 強化】」
足の咏回路を起動させ、縫うようにして、人を小突いていく。ほぼ全ての人の対応を瞬く間にしてのけた。奏術を停止させ、ひすいさんの後を追った。
遅れてきたひすいも、同じ現場を見る。
「心臓脇の右下に穴が開いている。顔には、咏回路の跡だけあるな。回路は抜き取られたのだろう。場所からして、酒川製薬の人間もどきだろう。暴食王は関係ないね。あるとすれば、狗飼研究所あたりか」
ひすいさんの言葉を聞きながら、対岸に目をやると、オレに手を振る青年がいた。この前であった経帷子を纒った人物だ。どう反応をすればよいだろうか。それとなく、ひすいさんのほうを向くと、彼女は、右目の眼帯を外していた。
直後、辺り一帯のざわめきが停止した。
「いきなり魔眼使ってどうしたのですか」
「君に手を振っていた男、知り合いか」
「知り合いではないですが、昨晩店で絡まれました」
「そうか」
ひすいさんは、青年がいたところをじっと見つめていた。
「人の動きを止めたが、消えやがった」
オレはここで疑問が浮かぶ。
「あの男が暴食王ですか」
「違うな。暴食王は私が17の時に倒した。もし、いるとすれば、そいつは暴食王の躰を被ったなにかだろうな」
「今回の遺体と何か関係ありそうですかね」
「無いだろうな。奴の正体が何かは不明だが、アレの躰を使っている以上、眼球と脳をだけを取り出すという手間はかけない。先を急ごう」
「この3人はどうします。地獄蝶なら復元できるでしょう」
「荼毘に付してやろうと考えたのだが、君が直せというならそうしようか」
タクトのような杖で、ひすいは、自身のトランクケースを叩く。トランクケースの中から野戦病院で使うベッドが3台出てきた。
オレは、欄干から伸びるロープを手にかける。
提げていた刀で切断して、3体を回収し、それぞれをベッドに置いた。
「全て人間もどきか。腐敗は進んでいないようだ。情報は全神経に、基本動作と人格傾向は脳に……まだ残っているな。咏回路が6つの箇所できられている。間違いなくダイアモンドだ。ユーイチ、トランクからダイアモンドの瑰玉3つ取ってくれ」
巻き上げたロープを奏術で破砕しておこうか迷っていたところで声を掛けられた。
彼女の後ろに転がっているケースを開けると、中には土生津から持ち込まれた遺体が入っていた。ポケットはなく、瑰玉などどこにも入っていなかった。
「奏術を使え。間違っても【破砕】はするなよ」
このトランクの容量はどれくらいだろう。一度閉じて、トランクから一歩下がる。
「【機械式舞踊 第2楽章 拘引】」
トランクケースが震えると、八面体の透き通った人工ダイアモンドが3つとびだした。それを掴み、ひすいさんのほうへ渡す。
「ありがとう。それでこれを埋めて仕上げた。
瑰玉をはめ込み、露出していた皮膚を縫い合わせると、最後に心臓をタクトで叩いた。
その際、節をつけて、ひすいさんは、唱えていたが、オレには聞き取ることができなかった。
濁った目に生気が戻る。
「死んだのに生きかえったのか」
一人の、人間もどきが言った。
「データだけ抜き取られていた状態から、内部バックアップである程度はもとに戻したという感じだな。君達が人間もどきだったからできた裏技だろうけど。お代は……ユーイチ、あとで私の改造に3回付き合いなさい」
「え、何故」
「かける予定の無い手間をユーイチの頼みでもとに戻した。君は岩石も珍しいジュエリーも持っていないだろう。だから、その躰を差し出せ。この死体が片付いた後で、だな」
頼むべきではなかったかもしれない。
助け出した3人は、ひすいさんの言った通り、酒川製薬所属の人間もどきだった。五体投地の勢いで頭を下げられた3人には、元の場所へ戻っていった。
「寄り道してしまった。先を急ごう」
「ひすいさんが硬直させたこの人たち、どうするんです」
「ああ、すっかり忘れていたよ。ユーイチが鐺で突いて、元に戻してやってくれ」
「これは貴女がやったことですよね」
笑い声を残して、先に進んでいた。簡易ベッドや修理に使用した道具はいつの間にかトランクケースにしまわれていた。
「【機械式舞踊《バレエ=メカニック》 第一楽章 強化】」
足の咏回路を起動させ、縫うようにして、人を小突いていく。ほぼ全ての人の対応を瞬く間にしてのけた。奏術を停止させ、ひすいさんの後を追った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる