占いなんて信じない! ーへんてこな世界で幸せ見つけましたー

朝顔

文字の大きさ
2 / 20
本編

②しらない世界◯

しおりを挟む
 俺の名前は落合学おちあい まなぶ

 都内の大学に通うごく普通の、……普通よりは地味寄りな、何をしても平均で目立たないタイプの学生だ。
 幼稚園から今までずっと、目立たない、存在が薄い、この領域から出たことはない。
 キラキラ輝く連中が羨ましいとは思うけど、目立つほど揉め事に巻き込まれるので、何も起こらない安全圏での暮らしにそれなりに満足していた。

 容姿は母親に似ていると言われるが、特にこれといった特徴のない地味な黒髪に、焦茶の瞳だ。
 目も鼻も口も小さいが、その上背も小さいので、目立つところは何もない。
 人混みを歩いていると、一緒に歩いている友人も見失うことがあるらしく、薄くて印象に残らないなとよく言われてきた。

 一言で言えば、空気みたいな存在だと自分でも思ってきた。

 そんな俺に起こったありえない事態。

 始まりは大学のクラスで流行り出した、どうぶつさん占いだ。
 どこの誰が考えたのか知らないが、SNSで芸能人がやり出して、一気に一般人にも広がった。

 占いなんて信じない俺は、ひたすら心の中でそれを信じるヤツも、ただ楽しんでいるヤツもバカにしていた。


 そんな時、友人に見せられた俺のどうぶつさんを見て、俺はセンスねーなとこれまた素直な意見を言った。

 ただそれだけ。

 その日家に帰って普通に寝て朝になり、鏡を見て自分の頭に謎の耳が生えていることに気がついて絶叫した。

 驚いて部屋に飛び込んできた両親は、俺の頭を見て、全く動じることなく平然としていた。
 そして朝から何バカなことをやってるの、早くしまいなさいと言ったのだ。

 そこから状況を理解するまで、しばらく時間が必要だった。
 だって何もかもおかしい世界に意識が飛ばされて、そこから戻ることができないなんて、とうてい受け入れられるはずがなかった。







 いつもと同じ朝、いつもと同じ道。

 だけど全てが恐ろしく思えて、俺はいつも以上に背を丸くしながら道の端を歩いていた。

 朝の通勤通学時間だ。
 行き交う人は皆忙しそうに足を早めている。

 ごく普通の光景。

 元の世界に戻ったのではないか。
 そう錯覚するほどに平和な朝だった。

 前方に信号を待ちをしている女性の背中が見えた。
 その女性の前にはベビーカーがあって、俺が近づくと中が見えてしまった。

 ベビーカーの中には、可愛らしい赤ちゃんが寝ていたが、その頭にはくるんと丸まった小さなツノと耳が生えていた。
 ギョッとしてつい見てしまったが、そこに近所のおばあちゃんらしき女性が近づいて声をかけてきた。

「あらまぁ、ヒツジさんの子かい。おツノが可愛らしいねぇ」
「ありがとうございます。最近やっとツノが生えてきたんです」
「赤ちゃんらしくて可愛いねぇ」

 朝の和やかな会話のようにも見えるが、明らかに俺には理解できない話をしている。
 一日の始まりから現実を突きつけられたようでガックリと項垂れた。




 この世界に純粋な人間、というものは存在しない。
 全ての人間がヒト型と呼ばれる種族である。
 かつては様々な動物であったが、社会を築くのに適している人間の姿になれるよう進化して、獣人と呼ばれるようになった。

 もうこの時点で訳がわからないが、なぜかその動物属性の方はどうぶつさんと呼ばれていて、俺の元の世界にあった、どうぶつさん占いに出てくる十二の動物で構成されている。
 というか、名前からして絶対あの変な占いと繋がりがあるとしか思えない。
 俺があの占いをバカにしたから、もしも◯◯の世界に入ったら、みたいなパラレルワールドに入ってしまったというのが、今のところ俺が何とか考えられるアホな答えだ。

 こっちで色々と調べてみたところ、世界変わりと呼ばれる同じような話が、都市伝説的にひっそりと広まっているようだ。
 それによると、突然意識だけ別の世界から来たという人は、二度と元には戻れないそうだ。

 つまり、俺はこのヘンテコな世界で生きていかなくてはいけない。

 分かっている。
 これは夢だとか、何考えているんだと何度も否定してきたが、どう足掻いても現実は変わらなかった。





「ねぇねぇ見て、あのお兄ちゃん、お耳が出てるよ」
「本当だぁ、大人なのに、恥ずかしーー」

 登校中の小学生の集団が俺を見て笑ってきたので、慌てて頭に手を当てると耳が出ていた。
 急いでパーカーのフードをかぶって下を向いた。

 最悪だ。

 この世界の獣人達にとって、元の動物の姿を見せることは、人が外で素っ裸になるような恥ずかしいことらしい。
 つまり、赤ん坊や小さい子が耳や尻尾を出していても、その未熟さが可愛いと言われるが、大人になって外で出していたら、なんて恥ずかしい人だと驚かれるのだ。

 早いと獣化のコントロールを小学生の頃に習得して、高校生になる頃にはほとんどの者がヒト型完全体になって、人前でポロリなんてことはなくなる。
 年配の人になると、わずかな本能だけ残して、自分が何の動物だったか忘れるくらい変化することはないらしい。

 俺はパラレルワールドにいる俺に意識が憑依してしまった。
 その状況で、見よう見まねで何とか耳を隠すことには成功したが、気を抜くとすぐに出てきてしまう。
 継続して隠し続けることが難しい。
 しかも時には別のところまで……

 目立たず生きてきた俺が、こんなことで目立つなんて絶対に嫌だ。

 恐る恐る顔を上げると、横断歩道を渡る先ほどの小学生達と目が合ってしまった。

「バイバーイ、タヌキのお兄ちゃん」

 ニヤニヤ笑いながら手を振ってくる小学生達に、俺は愕然として膝から崩れそうになった。

 タヌキ……

 そう、俺のどうぶつさん占いはタヌキだった。

 そしてこの世界でそのまま、その結果が反映していて、俺はタヌキの獣人だった。

 父親はウサギ、母はサル。
 そして一人息子の俺はタヌキ。
 遺伝とかそういうのは度外視する設定らしい。

 どうぶつさんのグループは、肉食系と草食系に分かれる。
 食物連鎖のピラミッドで、近いグループに含まれる動物から生まれる子は、基本的に同じぐらいの位置に属する動物の子が生まれる。

 あまり気が合わないので数が少ないとされる肉食系と草食系のカップルの場合は、草食系の子の方が優先して生まれる。
 そして草食系タイプは子だくさんになるので、必然的に数が多い。

 肉食系の動物は、運動能力だけでなく、頭の方も優秀で社会的に高い地位の職業に就くことが多い。
 恐れられ尊敬されるという構図が出来上がっているらしく、俺はこの世界でも見事に下位のランクの動物だ。
 平凡で地味で目立たない、それは変わらないのに、新たに加わった変化能力といういらない機能のおかげで、そっちまで苦労することになるという、全く笑えないひどい状況だった。




 フードで頭を隠したまま、コソコソと講義室に入ったら、背中をポンと叩かれた。

「おはよっ、ガックン」

「うわっ、ルイか……ビックリした」

 この世界でも俺の友人は変わらなかった。
 ルイの後ろから、もう一人の友人であるマサが現れて、軽く手を上げておはようと言ってきた。

「おはよう……、二人とも早いな……」

「うん、今日はね。マサの家にお泊まりだったから」

 ルイが頬を赤らめて嬉しそうに笑っているので、俺は遠い目になって、あーそうと口にした。

 友人であることは変わりないのだが、ここにも問題が起きていた。
 ルイより少し背の高いマサが、ルイの髪を撫でて頭にキスをしたのだ。

「もうっ、マサったら。ガックンの前で……」
「いつもなんだし、いーだろ」

 イチャイチャし出した友人二人を見て、俺はもっと気が遠くなって机に頭をぶつけそうになった。

 元の世界では二人はごく普通の友人同士、お互い彼女がいたし、俺に内緒で恋愛感情があった、ようには見えなかった。
 それなのにこの世界では、カップルだというのだ。
 そもそも男同士であるが、ここではそんなことは気にならないらしい。
 男女の性別はあるが、同性同士であっても番いになると子を成せるように体が変化するとかなんとか……。
 そのおかげなのか、恋愛に対してオープンで前向きな者が多くて、至る所でカップルがイチャイチャしているので、目のやり場に非常に困るのだ。

「ガックンも早く恋人を作ればいいのに」

「そうだよ。今度の草食系飲みに行かないのか?」

 抱き合ってイチャイチャしている二人の視線を受けて、俺はため息をついた。

「そういうの、苦手だからいい」

「えー、ガックンっていかにもタヌキさんで、とっても可愛いのにぃ。もったいないよぉ」

 世界は変わってもこのノリは変わらない。
 よくルイにサークルだバイト飲みだと誘われたが、俺はいつも断っていた。
 騒がしい場所が苦手だし、酒やタバコの臭いに、あの場の雰囲気、考えただけでも自分が場違い過ぎて憂鬱な気分になってしまう。

 しかもタヌキさんらしさを褒められたらしいが、一ミリも嬉しくない。

 その時、静かだった教室が騒がしくなった。
 ゾロゾロと教室に入ってきた集団を見て、俺は嫌な緊張感が出てくるのを感じた。






 □□□
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【第一部・完結】毒を飲んだマリス~冷徹なふりして溺愛したい皇帝陛下と毒親育ちの転生人質王子が恋をした~

蛮野晩
BL
マリスは前世で毒親育ちなうえに不遇の最期を迎えた。 転生したらヘデルマリア王国の第一王子だったが、祖国は帝国に侵略されてしまう。 戦火のなかで帝国の皇帝陛下ヴェルハルトに出会う。 マリスは人質として帝国に赴いたが、そこで皇帝の弟(エヴァン・八歳)の世話役をすることになった。 皇帝ヴェルハルトは噂どおりの冷徹な男でマリスは人質として不遇な扱いを受けたが、――――じつは皇帝ヴェルハルトは戦火で出会ったマリスにすでにひと目惚れしていた! しかもマリスが帝国に来てくれて内心大喜びだった! ほんとうは溺愛したいが、溺愛しすぎはかっこよくない……。苦悩する皇帝ヴェルハルト。 皇帝陛下のラブコメと人質王子のシリアスがぶつかりあう。ラブコメvsシリアスのハッピーエンドです。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

処理中です...