夜明け前 ~婚約破棄から始まる運命の恋~

冴條玲

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第一章 もう一度、君と。

【Side】 エトランジュ ~渓流~

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 公園に行った後、渓流を見に行って。
 ガゼルがとっても優しくて、公園も渓流も綺麗で、楽しかった。
 つないだ手が嬉しいの。
 ガゼルに笑いかけてもらう度、胸が高鳴ってときめいた。
 私、ガゼルが好き。
 渓流に並んで座って、足を浸して遊んでいたら、ガゼルに聞かれたの。

「エトランジュは、婚約の話は聞いているの?」

 ――聞いてる。
 思い出したらすごくいやな気持ちになって、ほっぺたを膨らませた。

「ルーカスはいやだもん」
「え?」
「だから、聖サファイアに逃げるの」
「ルーカスって?」
「幼馴染の皇子様。わがままなんだもん。ルーカスに狙われてるから、エトランジュは、脱兎のごとく逃げるんだよ! ぴょーんって」

 ぴょんぴょん、跳ぶ真似をして見せた拍子に、足が滑ったの。

「エトランジュ!」
「きゃ」

 ガゼルが抱きとめて庇ってくれたから、怪我はしなかったけど、二人ともびしょ濡れになった。

「ガゼル、ごめんなさい」

 泣きそうになって謝ったら、ガゼルが笑ってくれたから。
 許してくれたんだと思ったのに、渓流から引き上げてもらった後、岸辺の草原で抱き締められたの。

「なら、少しだけこうさせて」
「んっ……あ、ガゼ……」

 どうしよう、胸が高鳴って苦しいよ。ガゼルに聞こえそう。
 首筋に優しい感触が降ったら、びくっと震えてしまって、絶え絶えに息が乱れた。
 首筋を優しくなぞるようだったガゼルに、強く吸いつかれて、悲鳴を上げたの。

「ガゼル、ガゼ――」

 駄目、言わなくちゃ。
 これ以上――

「あぁっ!」

 甘く痺れて体が動かない。触れさせたら駄目なのに、声にならないよ。
 動けずにいたら、ガゼルの片手が頭の後ろに回って、唇を重ねられたの。

 
  **――*――**


 駄目なのに、言えなかった。
 ガゼルの好きにさせてしまって、ぽろぽろ涙が零れた。

「ごめん、ここまでするつもりじゃなかったんだけど――」

 私がその場にしゃがみ込んで泣き出してしまったら、ガゼルが私を抱き上げて、優しく背中を叩いてくれた。
 どれくらいの間、そのガゼルにしがみついて泣いていたのか、もう、わからなかったけど。懸命に涙を拭って、言わないといけないことを言おうとしたの。
 それなのに。
 目を合わせたら、二度、三度、ガゼルにキスされて抱き締められた。
 苦しいよ。ガゼルにされると震えるの。
 何も、考えられなくなるの。

「ガゼル…様……」

 だけど、言わないといけないの。
 私は闇巫女で、私と契ったら、取り返しがつかないこと。

「結婚する前に、キスしたらいけないんだよ……!」
「――……そうだね」

 伝わらない。どう、言ったらいいのか、わからないの。

「エトランジュは、キスは初めて?」

 こくんと頷いたら、ガゼルがすごく綺麗に微笑んだ。
 私、ガゼルが笑う顔、すごく好き。

「私と結婚する?」

 私は目を真ん丸にしてガゼルを見た。

「ガゼル様は、エトランジュの闇主になれますか……?」

 闇巫女は離婚できないから、誰と契るかは、慎重に決めないといけないって、父様と母様から教わっていたの。
 私はガゼルでいいけど、ガゼルは私でいいの?

「――……」

 お返事はもらえなかった。
 やっぱり、駄目よね。
 悲しい気持ちで息を吐いて、ガゼルに言ったの。

「公邸に、帰れますか?」
「――おいで」
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