夜明け前 ~婚約破棄から始まる運命の恋~

冴條玲

文字の大きさ
14 / 38
第二章 聖サファイア

第8話 再会

しおりを挟む
 聖サファイアに到着してすぐ。

「ガゼル様!」
「エトランジュ!」

 拒否されるかもしれない。
 その恐怖を隠して、寄宿舎から出て来てくれたエトランジュに、笑顔で手を差し伸べた。
 エトランジュが困惑したように表情を暗くした時には、会いたくなかった様子に見えて、正直、ショックだったのだけど。

「エトランジュ、会いたかった!」

 私を押しのけて、艶やかな黒髪の青年が割り込んできたんだ。

「ルーカス様……」

 エトランジュが一歩、後退った。
 ――あれ?
 私じゃなく、彼に会いたくなかったのかな。

 エトランジュの腕を強引につかもうとしたルーカスを、私が止めるより早く。
 さらに、胡桃くるみ色の髪の少年が割り込んで、エトランジュを背中に庇った。

「エトランジュが怖がっているのがわからないの」
「光の使徒様が、恋人同士の熱い抱擁ほうようの邪魔立てか?」

 少し、驚いた顔をした少年がエトランジュを振り向いた。
 エトランジュが泣きそうな顔をして、首を横に振る。
 どうやら、彼が勝手に言っているだけみたいだ。

「だって、そうだろう。いつもなら、ほとんど挨拶代わりに闇魔法を撃ってくるのに、撃ってこないのは、オレに会いたかったからだろう?」

 ――……。
 エトランジュのことなら何でも知っているという口ぶりだけど、何でも知っているというよりは、何でも誤解しているように聞こえて仕方ないのは、私がそう望んでいるから?

 エトランジュが私を見て、彼を見て、嘆息した。

「翡翠様、お部屋に戻りましょう」
「……彼はいいの?」

 エトランジュが何か言いたげに私を見たような気がしたのだけど、拒絶されているのか、歓迎されているのかは察せなかった。

「今日は、まだ。明日、正式なご紹介を頂いてからうかがいます」


  **――*――**


「おい、おまえ」

 エトランジュが私達に背を向けてすぐ。
 彼女にルーカスと呼ばれた青年が私に言った。

「それをオレの部屋に運んでおけ。帝王学の教官室だ」
「……は?」

 行きかけたエトランジュの足が止まった。
 ――あれっ!?
 わ、エトランジュがすごく怒ってる。

冥夜の悪夢ナイトメア!」

 ――えぇえッ!!

「そうこなくてはッ!」

 魔法障壁マジックバリアを張って、エトランジュの闇魔法を嬉々としてガードしたルーカスが言った。

「はーはははッ! なまっているぞ、エトランジュ!」
「翡翠様、援護お願いします!」

 ――連携魔法!?

 何だろう、何が起きているんだろう。
 すごく下らないことから大事になってる気がするんだけど、エトランジュが問答無用で人に攻撃魔法を撃ったりするなんて、夢にも思わなかった。

茨城ソーン・キャッスル!」
「くッ、二対一とは卑怯な…! そこのおまえ、援護しろッ!」

 ――……。

夜灯幻想アヴァローヴ・ファンタスティカ

 私はもちろん、エトランジュを援護した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。 その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。

処理中です...