15 / 38
第二章 聖サファイア
第9話 ルーカス・トランスサタニアン
しおりを挟む
ルーカスがやっつけられると、エトランジュが楽しげな笑い声を立てて、でもすぐに、ルーカスに癒術をかけた。
ふくれつらをして、ルーカスにめーって言うんだけど。
そんな表情もしぐさも、可愛らしいばっかり。
ルーカスが態度を改めないのも仕方ないよね。
エトランジュにめーされたくて、あえて面倒を起こしてるんじゃないのかな、ルーカス。
ルーカスは黙っていれば艶やかな美貌の皇子様で、姿勢もよく、エトランジュの横に並び立っても遜色しなかった。
**――*――**
教官室に荷物を運んでもらって人心地ついた後、ロビーに降りると、ワインを傾けるルーカスがいた。
なんだか、憎めない気持ちになって興味がわいていたから、断って相席してみたんだ。
「エトランジュと恋人同士って、ルーカス様はご本気で? エトランジュに嫌われていると思ったりはなさらないのですか?」
あまり、ぶしつけなことを聞くのは失礼かなとも思ったけど、さっき、魔法攻撃しておいて、今さらかなって。
ルーカスはウッと息を詰めた後、爆笑した。
「エトランジュがオレを嫌ってるわけないだろ。見ろよ、傷一つ残さず綺麗に癒してくれたぞ。じゃれてんだよ、ちょっと激しめの愛情表現ってトコだな。あいつは昔から、激しい女なんだ」
「――……」
すごいな、ルーカス。
私が彼の立場だったら、エトランジュの第一声が「ガゼル様」で、彼への挨拶は三対一での魔法攻撃じゃ、いくら癒してもらえたところで、嫌われてるとしか思えないけど。
でも――
なんだろう、彼の方がカッコいい気がするのは。
彼みたいになりたいわけでは全然ないけど、私はいろんなことを気にし過ぎていて、それはたぶん、傷つきたくないからなんだ。
なんだか、すごく、情けない理由でグズグズしていた気がしてくるよ。
彼のこと、嫌いじゃない。
恋人同士っていう認識はさすがにルーカスの勘違いだとしても、エトランジュもそこまで彼を嫌ってるわけではなくて、じゃれてるだけだと彼が言うのは、案外、その通りなのかもしれない。
だって、ルーカスをやっつけた時のエトランジュも、やっつけられたルーカスも、とても、楽しそうに笑っていたから。
「ルーカス様は、エトランジュが先に私を呼んだことを気にしたりはなさらないのですか?」
「はぁ?」
マジマジと私を見たルーカスが、また、ウグッとなった後、爆笑した。
「おまえなんかが相手になるか? 三対一でやっと勝負できるザコの分際で、オレに警戒されるとでも?」
ここまで言われてしまうと、いっそ、すがすがしいかもしれない。
うん――
嫌いじゃない。
三対一でフルボッコにしたの事実だし。
一対一で敵うかと言われたら、――確かに、ね。
帝王学の教官ね。
エトランジュより、いっそ、私の方が彼から学ぶことは多いのかもしれない。
私の方は、礼儀作法の教官として招かれた――もとい、父上にねじ込んでもらったんだけど。
ルーカスの方も、おそらくは、グレイスを光の聖女の候補生として留学させる交換条件に、帝王学の教官の椅子を用意させたんだろうね。
そうでもなければ、教官は聖サファイアから選出されるはずだから。
会えたらすぐ、エトランジュにあの日のことを謝って、彼女がまだ私を想ってくれているなら、婚約を申し入れるつもりでいたんだ。
だけど、私の傍でなくても、楽しそうに笑うエトランジュを見た時に、私に望む女性と結ばれて欲しいと願ったエトランジュの気持ちが、わかった気がした。
彼女自身の可能性と選択肢を知らないエトランジュに、知らないまま私を選ばせたくないと、私も、思ったんだ。その選択を、生涯、後悔されたらつらすぎるから。
愛しいからこそ、エトランジュには幸せな選択をして欲しい。
彼女を誰よりも幸せにできるのが私だったら、どんなにいいかと思うけど――
でも、正直に言うとね。
ルーカスは敵じゃないと思ってる。
あの子、翡翠と言った? 光の使徒の方が手強いよ、明らかに。
それでも、私にも勝ち目はあるよね。
あわてなくても、明日には公式に顔を合わせるのに、私を見つけて寄宿舎から出て来てくれて、一番に、私の名を呼んでくれたんだから。
歓迎されるか、拒絶されるかわからないと思っていたけど、ルーカスへの態度を見る限り、私への態度は少なくとも『会いたくなかった』では、なかったと思う。
ルーカスの邪魔が入らなかったら、なんて、続けてくれたんだろう。
もしも、『会いたかった』だったら聞きたかったな。邪魔が入って残念。
――私はまだ、気がついていなかった。
ルーカスよりも光の使徒よりも、一番、やっかいなのはグレイスだってことに。
ふくれつらをして、ルーカスにめーって言うんだけど。
そんな表情もしぐさも、可愛らしいばっかり。
ルーカスが態度を改めないのも仕方ないよね。
エトランジュにめーされたくて、あえて面倒を起こしてるんじゃないのかな、ルーカス。
ルーカスは黙っていれば艶やかな美貌の皇子様で、姿勢もよく、エトランジュの横に並び立っても遜色しなかった。
**――*――**
教官室に荷物を運んでもらって人心地ついた後、ロビーに降りると、ワインを傾けるルーカスがいた。
なんだか、憎めない気持ちになって興味がわいていたから、断って相席してみたんだ。
「エトランジュと恋人同士って、ルーカス様はご本気で? エトランジュに嫌われていると思ったりはなさらないのですか?」
あまり、ぶしつけなことを聞くのは失礼かなとも思ったけど、さっき、魔法攻撃しておいて、今さらかなって。
ルーカスはウッと息を詰めた後、爆笑した。
「エトランジュがオレを嫌ってるわけないだろ。見ろよ、傷一つ残さず綺麗に癒してくれたぞ。じゃれてんだよ、ちょっと激しめの愛情表現ってトコだな。あいつは昔から、激しい女なんだ」
「――……」
すごいな、ルーカス。
私が彼の立場だったら、エトランジュの第一声が「ガゼル様」で、彼への挨拶は三対一での魔法攻撃じゃ、いくら癒してもらえたところで、嫌われてるとしか思えないけど。
でも――
なんだろう、彼の方がカッコいい気がするのは。
彼みたいになりたいわけでは全然ないけど、私はいろんなことを気にし過ぎていて、それはたぶん、傷つきたくないからなんだ。
なんだか、すごく、情けない理由でグズグズしていた気がしてくるよ。
彼のこと、嫌いじゃない。
恋人同士っていう認識はさすがにルーカスの勘違いだとしても、エトランジュもそこまで彼を嫌ってるわけではなくて、じゃれてるだけだと彼が言うのは、案外、その通りなのかもしれない。
だって、ルーカスをやっつけた時のエトランジュも、やっつけられたルーカスも、とても、楽しそうに笑っていたから。
「ルーカス様は、エトランジュが先に私を呼んだことを気にしたりはなさらないのですか?」
「はぁ?」
マジマジと私を見たルーカスが、また、ウグッとなった後、爆笑した。
「おまえなんかが相手になるか? 三対一でやっと勝負できるザコの分際で、オレに警戒されるとでも?」
ここまで言われてしまうと、いっそ、すがすがしいかもしれない。
うん――
嫌いじゃない。
三対一でフルボッコにしたの事実だし。
一対一で敵うかと言われたら、――確かに、ね。
帝王学の教官ね。
エトランジュより、いっそ、私の方が彼から学ぶことは多いのかもしれない。
私の方は、礼儀作法の教官として招かれた――もとい、父上にねじ込んでもらったんだけど。
ルーカスの方も、おそらくは、グレイスを光の聖女の候補生として留学させる交換条件に、帝王学の教官の椅子を用意させたんだろうね。
そうでもなければ、教官は聖サファイアから選出されるはずだから。
会えたらすぐ、エトランジュにあの日のことを謝って、彼女がまだ私を想ってくれているなら、婚約を申し入れるつもりでいたんだ。
だけど、私の傍でなくても、楽しそうに笑うエトランジュを見た時に、私に望む女性と結ばれて欲しいと願ったエトランジュの気持ちが、わかった気がした。
彼女自身の可能性と選択肢を知らないエトランジュに、知らないまま私を選ばせたくないと、私も、思ったんだ。その選択を、生涯、後悔されたらつらすぎるから。
愛しいからこそ、エトランジュには幸せな選択をして欲しい。
彼女を誰よりも幸せにできるのが私だったら、どんなにいいかと思うけど――
でも、正直に言うとね。
ルーカスは敵じゃないと思ってる。
あの子、翡翠と言った? 光の使徒の方が手強いよ、明らかに。
それでも、私にも勝ち目はあるよね。
あわてなくても、明日には公式に顔を合わせるのに、私を見つけて寄宿舎から出て来てくれて、一番に、私の名を呼んでくれたんだから。
歓迎されるか、拒絶されるかわからないと思っていたけど、ルーカスへの態度を見る限り、私への態度は少なくとも『会いたくなかった』では、なかったと思う。
ルーカスの邪魔が入らなかったら、なんて、続けてくれたんだろう。
もしも、『会いたかった』だったら聞きたかったな。邪魔が入って残念。
――私はまだ、気がついていなかった。
ルーカスよりも光の使徒よりも、一番、やっかいなのはグレイスだってことに。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる