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第三章 たとえ、光の神を敵に回しても。
第19話 去る潔さと残る潔さ
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「光の聖女も光の使徒も結婚できないだなんて、聞いていなかったわ! そんな理不尽な地位を得るために――時間を無駄にした、私、帰国します!!」
「グレイス! 貴女はなんということを!!」
美しい黄金の髪を振り乱した金華様が怒りを露わにするも、グレイスは振り向かずに出て行ってしまった。
いつかの、私に婚約破棄を申し渡した日のように。
いらないものはいらないと、相手にへんな期待をさせない、慰めを求めないところだけなら、グレイスは潔くてカッコイイんだ。
あの日も、そうだった。
何か、晴れ晴れとした、一抹の寂しさが残ったんだ。
取り戻したいと思ったわけじゃない。
ただ、振り向かずに出て行くグレイスの背中を見送るうちに、ストレスのすべてが剥落して、少しはある、グレイスとの楽しかった思い出だけが残ったんだ。
取り戻せる思い出にはストレスが伴う。
思い出が美化されるのは、取り戻せないからこそなんだろうね。
「金華様、私は残ります。残り半月――私は、金華様の指導も受けに参ります。失格かもしれない私の指導に時間を割くかどうかは、光の使徒の皆様それぞれが、それぞれの意志でお決めになって下さい」
グレイスの背中を寂しそうに見送ったエトランジュが、金華様に目を戻して言った。
「オレは指導するぜ? エトランジュ、ちゃんとオレんとこにも来いよな。おまえ、まだ、炎の力の導き方は上手くねぇんだから」
「ありがとう、彩朱様」
フンと、そっぽを向いた彩朱様の頬が、少し、上気して見えた。
「僕も! あと少しなんだから、ちゃんと、僕のところにも来てね。最後まで、頑張ろうね」
「はい、翡翠様」
翡翠様も、満足げに笑ってうなずいた。
「闇の力の指導は終わっているが、少しは顔を見せるように。一通りでは定着しない。試験に合格することより、その後、光の使徒の力を引き出し聖サファイアを繁栄に導くことこそが光の聖女の使命なのだ」
「同じく」
蒼紫様と水蓮様が仰った。
エトランジュ、闇と水の力は修了していたみたいだ。
闇巫女だから、相性がいいんだね。
「しかしですねぇー、一通りすら修了していないということの方がいけませんからねぇー、私の指導もきちんと、受けにきて下さいねぇー」
「そうよォ。女の子なんだから、オシャレもしなくちゃネ☆ 清貧な聖女サマなんてイマドキ流行らないワ☆」
少し、個性的な感じの仙斎様と紅紫様が続いた。
結局、光の十二使徒の誰も、エトランジュの指導を断らなかった。
どちらかというと、必ず指導を受けにくるようにと、熱心に言い含める方が多かった。
つまり、そういうことなんだ。
エトランジュと光の使徒の間にあったのは、恋愛感情ではなく信頼関係だったから。
「――チッ。仕方ない、ここまで、つきあったんだ。最後までつきあうが――エトランジュ、いいか。目を覚ませ。目が覚めて、ルーカス様の方が素敵だったと気がついたら、勇気を出して、オレのトコにこい」
「ルーカス、それじゃ、帝王学の授業はもう受けに行けないよ? 私、ガゼル様より素敵な人がいるなんて、永遠に気がつかないもの」
「エトランジュ! 諦めたらそこで試合終了だぞ!」
「ルーカス、試合はもう終了したんだよ! 私の闇主はガゼル様」
聞いていた金華様が手を上げた。
「――帝王学の教官は聖サファイアから選出しよう」
「私は帰るなどとは言っていない!」
「もともと、グレイスが試験を受けることとの交換条件で貴方を受け入れたのだ。グレイスが試験を放棄した以上、貴方を受け入れる義理もない」
「なんだとッ……!」
「ルーカス、帝王学の教官を最後まで務めたいならきちんとして。子供みたいなわがまま言わないの! エトランジュと会えるのは、あと少しなんだよ!? ルーカスはやればできるコ!」
「むっ……エトランジュにそうと見抜かれては仕方ない……チッ。きちんとしてやろうではないか」
……。
ルーカス様の方が年長なんだけど、エトランジュの方がお姉さんに見えて仕方ないんだよね……。
「グレイス! 貴女はなんということを!!」
美しい黄金の髪を振り乱した金華様が怒りを露わにするも、グレイスは振り向かずに出て行ってしまった。
いつかの、私に婚約破棄を申し渡した日のように。
いらないものはいらないと、相手にへんな期待をさせない、慰めを求めないところだけなら、グレイスは潔くてカッコイイんだ。
あの日も、そうだった。
何か、晴れ晴れとした、一抹の寂しさが残ったんだ。
取り戻したいと思ったわけじゃない。
ただ、振り向かずに出て行くグレイスの背中を見送るうちに、ストレスのすべてが剥落して、少しはある、グレイスとの楽しかった思い出だけが残ったんだ。
取り戻せる思い出にはストレスが伴う。
思い出が美化されるのは、取り戻せないからこそなんだろうね。
「金華様、私は残ります。残り半月――私は、金華様の指導も受けに参ります。失格かもしれない私の指導に時間を割くかどうかは、光の使徒の皆様それぞれが、それぞれの意志でお決めになって下さい」
グレイスの背中を寂しそうに見送ったエトランジュが、金華様に目を戻して言った。
「オレは指導するぜ? エトランジュ、ちゃんとオレんとこにも来いよな。おまえ、まだ、炎の力の導き方は上手くねぇんだから」
「ありがとう、彩朱様」
フンと、そっぽを向いた彩朱様の頬が、少し、上気して見えた。
「僕も! あと少しなんだから、ちゃんと、僕のところにも来てね。最後まで、頑張ろうね」
「はい、翡翠様」
翡翠様も、満足げに笑ってうなずいた。
「闇の力の指導は終わっているが、少しは顔を見せるように。一通りでは定着しない。試験に合格することより、その後、光の使徒の力を引き出し聖サファイアを繁栄に導くことこそが光の聖女の使命なのだ」
「同じく」
蒼紫様と水蓮様が仰った。
エトランジュ、闇と水の力は修了していたみたいだ。
闇巫女だから、相性がいいんだね。
「しかしですねぇー、一通りすら修了していないということの方がいけませんからねぇー、私の指導もきちんと、受けにきて下さいねぇー」
「そうよォ。女の子なんだから、オシャレもしなくちゃネ☆ 清貧な聖女サマなんてイマドキ流行らないワ☆」
少し、個性的な感じの仙斎様と紅紫様が続いた。
結局、光の十二使徒の誰も、エトランジュの指導を断らなかった。
どちらかというと、必ず指導を受けにくるようにと、熱心に言い含める方が多かった。
つまり、そういうことなんだ。
エトランジュと光の使徒の間にあったのは、恋愛感情ではなく信頼関係だったから。
「――チッ。仕方ない、ここまで、つきあったんだ。最後までつきあうが――エトランジュ、いいか。目を覚ませ。目が覚めて、ルーカス様の方が素敵だったと気がついたら、勇気を出して、オレのトコにこい」
「ルーカス、それじゃ、帝王学の授業はもう受けに行けないよ? 私、ガゼル様より素敵な人がいるなんて、永遠に気がつかないもの」
「エトランジュ! 諦めたらそこで試合終了だぞ!」
「ルーカス、試合はもう終了したんだよ! 私の闇主はガゼル様」
聞いていた金華様が手を上げた。
「――帝王学の教官は聖サファイアから選出しよう」
「私は帰るなどとは言っていない!」
「もともと、グレイスが試験を受けることとの交換条件で貴方を受け入れたのだ。グレイスが試験を放棄した以上、貴方を受け入れる義理もない」
「なんだとッ……!」
「ルーカス、帝王学の教官を最後まで務めたいならきちんとして。子供みたいなわがまま言わないの! エトランジュと会えるのは、あと少しなんだよ!? ルーカスはやればできるコ!」
「むっ……エトランジュにそうと見抜かれては仕方ない……チッ。きちんとしてやろうではないか」
……。
ルーカス様の方が年長なんだけど、エトランジュの方がお姉さんに見えて仕方ないんだよね……。
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